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WBCの歓喜からもうすぐ1年。野球を始める子は増えているのか?それとも…

上原伸一ノンフィクションライター
大事なのは野球が楽しいと思える環境作り(写真提供 フィールドフォース 大久保氏)

依然として観客動員力はあるが…

昨年の3月、侍ジャパン日本代表はWBCで、14年ぶり3度目の優勝を果たした。WBCを見て、世界一になった侍ジャパンを見て、野球をやりたい、と思った子供たちも多かったようだ。いつの時代も、ピラミッドの頂点にいるトップ選手の活躍は、底辺を構成する層の拡大に大きな影響を及ぼす。

あれから1年-。野球を始める子が増えたかというと、WBCの盛り上がりは必ずしも反映されていないようだ。時おり報じられるように、少年野球人口の減少は深刻で、例えば、全日本軟式野球連盟に加盟している学童野球チームは、この15年で約5000チームも減っているという。

昨年のWBCで14年ぶり3度目の優勝を果たした侍ジャパン日本代表。活躍した選手たちの雄姿に感化を受け、野球をやりたいと思った子供たちも多かったようだ
昨年のWBCで14年ぶり3度目の優勝を果たした侍ジャパン日本代表。活躍した選手たちの雄姿に感化を受け、野球をやりたいと思った子供たちも多かったようだ写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ

「全国大会に出てくるチームでも、地区によっては十数人しかいないところもあります。以前は5、6年生が主体のチームが多かったですが、3、4年生が目立つようにもなってます」

こう話すのは大久保克哉氏だ。大久保氏の少年野球取材歴は10年以上。小・中の軟式野球専門誌「ヒットエンドラン」(ベースボール・マガジン社)で8年間、編集長を務めるなど、数多くの小学チームを見てきた。プロ野球や、ボクシングの取材経験もある。現在は野球用具メーカー、フィールドフォース社の「学童野球メディア」で編集・執筆活動を行っている。

※「学童野球メディア」https://www.fieldforce-ec.jp/pages/know

一方で、野球はスペクテータースポーツ(観客動員力があるスポーツ)として確固たる地位を築いている。例えば、昨年23年のプロ野球公式戦は、セ・リーグとパ・リーグを合わせて858試合行われ、1試合平均の入場者数は29219人だった。シーズン中は毎日のように試合があるなか、これだけの観客を呼べる。

少年野球人口が大きく減ったこの15年の観客動員数を見ても、プロ野球は、観るスポーツとしての人気が安定している(コロナ禍前の19年の平均観客動員数は、セが34655人で、パが27203人)。

ところが、野球を始める小学生は大きく減っているのだ。

少年野球人口の減少、その理由については、様々なことが言われている。当番があるなど保護者の負担が大きい、用具が多く高額で費用がかさむ、野球以外の選択肢が増えている…などなど。ただ、大久保氏は根本的なところに原因があると考えている。

「野球界や少年野球の世界も、時代に合わせて変わろうとしていて、変わりつつあります。ですが、そのスピードが、世の中の変化に追いついていないのです。確かに、暴言や罵声はあまり聞こえなくなってきました。コンプライアンスという概念が、少年野球の現場でも広まってますが、野球やそのチームでは常識でも、それが一般社会とは乖離(かいり)していることがまだまだ多いと感じます」

「入り口」でつまずいてしまう子も多い

では、少年野球人口が減少していることで、どのようなデメリットが生まれているのか?

「10年前と比べると、全体的なレベルが下がっていると感じます。NPBジュニア(NPB12球団ジュニアトーナメント)に出場するような選手は、10年前よりも大きな体格な子が目立ち、球速や飛距離は明らかにアップしてますが、底上げができていないのです」(大久保氏)

少年野球人口の減少は競技レベルだけでなく、将来的には、スペクテータースポーツとしての人気に影響を与える可能性もある。子供の頃に野球をする楽しさを知れば、それは、大人になった時の観戦動機にもつながるからだ。

減少を食い止めようと、各所でいろいろな取り組みが行われている。様々な形で競技としての野球の楽しさを伝えているが、野球をやるには、チームに入る必要がある。かつては、まず遊びのなかで野球を覚えていったが、いまはなかなかそういう場も、機会もない。大半の子の野球の「入り口」はチームになっている。

大久保氏によると、この「入り口」でつまずき、すぐに野球をやめてしまう子も多いようだ。

「よく耳にするのが、近所のチームに入ったものの、練習が退屈でつまらない、上手な子しか相手にされない、指導者が高圧的で怖いなどの理由で、別のチームを探し始めたら、「しがらみ」に初めて気付くというパターンです」

「しがらみ」とは、学区の縛りや移籍NGの暗黙ルールで、いまも存在する地域が少なくないようだ。

こうした「入り口」でつまずく子供を減らすには、チームが「目標」と「計画」を明確にすることも求められる。

「残念ながら、目標も計画性も曖昧なまま、朝から夕方まで、非効率的な練習を長々と…というチームがまだ多い印象です。何のためにどうするかが、はっきりしていれば、例えば市区町村大会レベルなら、長時間の拘束も遠征試合も必須ではありませんし、保護者のお茶当番や車出しは必要ない、という認識に至るはずです」

「卒」スポ根で全国2連覇した滋賀・多賀少年野球クラブ。「入り口こそ大事!」と語る辻正人監督は、部員100人規模となった現在も入門者の育成指導を一手に担う(写真提供 フィールドフォース 大久保氏)
「卒」スポ根で全国2連覇した滋賀・多賀少年野球クラブ。「入り口こそ大事!」と語る辻正人監督は、部員100人規模となった現在も入門者の育成指導を一手に担う(写真提供 フィールドフォース 大久保氏)

全くの初心者にどうやって教えるか

野球界のピラミッドを支える大事な底辺は、ほとんどボランティア指導者に委ねられている。昔から野球は、選手としてのベースが作られる小学時代を、ボランティア指導者の熱意や善意が支えている。ただ、昔といまでは、指導者に求められるものが変わってきているようだ。

「かつてはチームに入る子はたいてい、入る前に遊びで野球を覚えてました。環境も、テレビをつければ必ず中継があり、野球が身近でした。もちろん、親などの影響でそういう子もいますが、いまは全くの初心者もいます。ボールを捕る、投げるができてこそ野球の楽しさに触れていけるのに、最初のその基礎を体系的に授ける術を持たない指導者、チームが圧倒的に多いのです。そういう自覚がないのも問題で、対子供の指導スキルは、高いレベルで野球をしてきたから身に付くものではありません」

投げ方もわからない、全くの初心者に教えるのは、実はとても難しい。自分の経験からの言葉ではなく、わかりやすい言葉で「いろは」を伝えることができるか。これも大きなポイントになっている。

2019年に全国準優勝の愛知・北名古屋ドリームスは、就学前の幼児野球をいち早く導入。母子参加のティーボールで野球のイロハやルールを楽しく覚えていく(写真提供 フィールドフォース 大久保氏)
2019年に全国準優勝の愛知・北名古屋ドリームスは、就学前の幼児野球をいち早く導入。母子参加のティーボールで野球のイロハやルールを楽しく覚えていく(写真提供 フィールドフォース 大久保氏)

東京・ブロッサムBBCは、個々に寄り添った育成重視で全国予選は不参加。社会人や大学までプレーした指導陣は、自らコーディネーションの資格を得るなど学び続ける(写真提供 フィールドフォース 大久保氏)
東京・ブロッサムBBCは、個々に寄り添った育成重視で全国予選は不参加。社会人や大学までプレーした指導陣は、自らコーディネーションの資格を得るなど学び続ける(写真提供 フィールドフォース 大久保氏)

昔から変わっていない大事なこともある。それは子供たちを「夢中」にさせることだ。

「気付けば上達している、そういう練習が理想だと思います。やり方は違っていいし、学童野球のチームが約9000あるとしたら、9000通りの方法があるでしょう。正解は無数にありますが、指導者が子供たちと向き合って、いかに「夢中」にさせられるか。それを大前提にしているチームは、練習のアイディアも豊富です」

次年度、2024年度から、チームにつき1人以上の有資格指導者の義務付けがスタートする。

資格という「形」の取得にとどまらず、底辺を支えるための気付きの機会になることを願う。

ノンフィクションライター

Shinichi Uehara/1962年東京生まれ。外資系スポーツメーカーに8年間在籍後、PR代理店を経て、2001年からフリーランスのライターになる。これまで活動のメインとする野球では、アマチュア野球のカテゴリーを幅広く取材。現在はベースボール・マガジン社の「週刊ベースボール」、「大学野球」、「高校野球マガジン」などの専門誌の他、Webメディアでは朝日新聞「4years.」、「NumberWeb」、「スポーツナビ」、「現代ビジネス」などに寄稿している。

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