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今年から導入された「クーリングタイム」。一方で急がれる観客の安全面の考慮

上原伸一ノンフィクションライター
コロナ前に戻った感がある高校野球地方大会のスタンド風景(筆者撮影)

スタンドは試合中、炎天下にさらされる

各地で続々と優勝校が決まっている高校野球の地方大会。今年は選手や、選手以上にグラウンドにいる時間が長い審判の暑さ対策として、5回終了後の10分間を水分補給などにあてる「クーリングタイム」の導入が進んでいる。

一方で気になるのが、観客や応援団の暑さ対策である。

コロナが5類に移行されたのもあり、今夏はスタンド風景がコロナ前に戻った印象だ。例えば、23日に行われた西東京の準々決勝も、日曜日と、強豪で人気校でもある日大三高と早稲田実業高の登場が重なったのもあり、神宮球場は人で溢れていた。声出し応援も解禁となり、スタンドの声援があってこその高校野球だと、今さらながらに感じる。

高校野球はアマチュアスポーツである。ただ、スペクテイタースポーツ(多くの観客が楽しめ、観客動員ができるスポーツ)の側面もあり、甲子園はもちろん、地方大会にも数多くのファンが訪れる。

応援も華やかだ。1回戦から吹奏楽部が選手を鼓舞する音色を響かせる学校もあれば、準決勝くらいになると、吹奏楽部、チアリーダー、そして保護者など関係者の一団に加え、全校応援で後押しするところも少なくない。

ただ、ファンも、応援席の人たちも、試合中は炎天下にさらされる。スタンドを覆うひさしがある球場は少なく、あったとしても、ほとんどがネット裏エリアに限られるのが現状だ。だが、今夏は記録的な猛暑である。「災害レベル」の暑さの日もある。選手や審判の熱中症も心配だが、こちらも心配だ。

筆者は1970年代後半のある新聞で、「高校野球と日焼けを一緒に楽しめるなんて最高」という写真が紹介されていたのを覚えている。まだ、日焼けを楽しむのが一般的な時代だった。気温が35度を超える日もほぼなかったと記憶している。ちなみにその頃の高校野球では、練習中に水が飲めない学校がほとんどで、今ほどには積極的な水分補給が奨励されていなかった。

だが、時代とともに暑さは確実に変わっている。紫外線の有害化も言われる。

「クーリングタイム」の導入により、選手はひと息つけるようになり、試合中に足がつる選手が減った、という話も耳にする。審判の疲労も軽減されているようだ。

しかし、その10分間、観客は太陽を浴び続けるので、「とても長く感じる」と明かす人もいる。日陰になる売店がある通路に逃げ込むと、人でごった返しており、そこで気分が悪くなる人も出ているという。

高校野球はアマチュアスポーツである。当然ながら、選手ファーストに、無事に大会を終えること、大会を運営することに主眼が置かれる。しかし、繰り返しになるが、観客や応援によって支えられている部分も大きい。

解決策を見出すのは簡単なことではないが、今後ますます地球温暖化が進む中、スタンドにいる人たちの安全も本格的に考える時期なのかもしれない。

ノンフィクションライター

Shinichi Uehara/1962年東京生まれ。外資系スポーツメーカーに8年間在籍後、PR代理店を経て、2001年からフリーランスのライターになる。これまで活動のメインとする野球では、アマチュア野球のカテゴリーを幅広く取材。現在はベースボール・マガジン社の「週刊ベースボール」、「大学野球」、「高校野球マガジン」などの専門誌の他、Webメディアでは朝日新聞「4years.」、「NumberWeb」、「スポーツナビ」、「現代ビジネス」などに寄稿している。

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