Yahoo!ニュース

少子化問題Q&A(2回目)

筒井淳也立命館大学産業社会学部教授
(写真:つのだよしお/アフロ)

前回の「少子化問題Q&A」の続きです。今回は「晩婚化の影響」「婚外出生」「移民の出生率への影響」などについて解説しました。

Q:「晩婚化・未婚化が出生率低下の主要因」といいますが、結婚している夫婦の出生数も減っているのではないですか。

ほとんどの社会的な出来事の場合、「原因が一つ」といったシンプルなものはありません。物事は常に複合的、複雑です。肝心なのは「あれかこれか」というよりは、傾向性(どちらかといえば〜である)です。

その上でですが、まず未婚化・晩婚化には歯止めがかかりつつあります。ただ、高い未婚率、高い初婚年齢でここ10年ほどは「高止まり」といったほうが良いでしょう。概して、足元の変化(晩婚化傾向の終わり)を見て「ならこれは解決だ」と考えてはなりません。出生率もそうですが、「出生率・婚姻率が低い/結婚年齢が高い」状態が続くことが問題です。

夫婦の出生数(完結出生児数)は2021年で1.90と、若干減ってきましたが、これには晩婚化の影響が強いです。

第一子出産時の母年齢はここ50年で4.5年ほど伸びており、2006年から30歳を超え、2020年では30.3歳です。他方で結婚から第一子出生までの平均間隔は2019年データで2.45年で、この数字は40年間で1年も伸びていません。

第1〜3子出産時の平均年齢(『現代日本の結婚と出産:第15回出生動向基本調査(独身者調査ならびに夫婦調査)報告書』表17-3より作成
第1〜3子出産時の平均年齢(『現代日本の結婚と出産:第15回出生動向基本調査(独身者調査ならびに夫婦調査)報告書』表17-3より作成

ということは、「結婚したけど、子を作るかどうか、二人目を持つかどうか迷う」こともあるとは思いますが、それよりも圧倒的に「結婚していない(しようと思ってもできない)」「結婚してもタイミングが遅いために第二子、第三子までもつことができない」という側面のほうがまだまだ強いのです。

少子化対策の意見としては、「婚姻率を増やすのではなく結婚しているカップルの出生数を増やすべき」というものもありますが、この場合には結婚タイミングをいかにして早めるか、という課題があり、やはり結婚の問題は関係しているわけです。第1子を30歳を超えてもつ現状をそのままにして、そこから「経済支援するから2人といわず3人も」と言われても、キャリアを蓄積したい女性からすれば「それは難しい」と思ってしまうはずです。

Q:結婚を前提にしていますよね。欧米では婚外出生が多いので、そちらを増やしたほうがいいのでは。

婚外出生といっても、事実婚(同棲)カップルの子もいれば、シングルペアレントの子もいます。

2018年時点では、フランスで60%、EU平均で42%の出生が婚外出生ですが、その多くは事実婚カップルのもとで生まれた子です。すでにPACS(フランスでの同棲カップルに対する保護制度)導入前の段階で、父から認知されていなかった子の割合は6%程度でした。アメリカでも、2000年代に妊娠時に同棲していたカップルのうち8割は出生時に同棲のままでした。

この背景には、婚外子差別の(制度的、社会意識的)弱まりや男女経済格差の縮小があります。日本でも婚外子に対する相続差別は撤廃されましたが、まだまだ「婚外子は不利」という認識は大きいため、「欧米では婚外子が増えているわけだから日本でも増やせ」という考え方は、「法律婚外でも子が安定して生活できる環境整備をすべき」という意見としては筋が通りますが、「とにかく増やせ」という考え方は通りません。

Q:出生率が相対的に高い先進国でも、それは移民のおかげなんでしょう? 政策は関係ないんではないですか?

移民あるいは移民二世の出生率は、それなりに高い傾向があります。ただ、データの見方には気をつけねばなりません。

2017年フランスの合計特殊出生率は、フランス生まれの女性に限ると1.77でした。これに対して移民女性の出生率は2.60と、フランス生まれの女性の出生率を大幅に上回っています(これを説明するのはほとんどマグリブからの移民女性です)。しかし全体の出生率は1.88と、移民出生率を除いた数字と大きく違いません。

要するに、移民の出生率がいくら高くても、全体の割合がもっと大きくない限り、全体の出生率に与える影響はそれほど大きくならないのです。フランス以外の国でもこれはたいていあてはまります。INEDのヨーロッパの出生率に関するレポートでも、「French fertility rates top the rankings in Europe not so much for reasons of immigration, but rather because fertility among native-born women is high」と書かれており、その他の国についても移民の出生率上昇効果は限定的であることが示唆されています。

もちろん数字はこれからまだ変動しますが、現時点で、非移民の出生率に限ってみても、日本よりも高い国は多いですので、「欧米先進国の出生率の高さは移民のおかげだ」というのは、少し単純すぎる見方でしょう。

移民については他にもさまざまなデータや論点がありますので(労働力不足に対応するのか低い出生率に対応するのかなど)、まずはしばらく落ち着いて調べ物をしてから判断することが肝心です。(ネット上の情報なら基礎統計や信頼できる団体のレポート、書籍なら研究実績のある著者のものがおすすめです。)

Q:専門家政治家、その他の有名人の方々を含めて、少子化対策の議論はたくさんあり、混乱してしまいます。どうしたらいいのでしょう。

専門家どうしの意見は、それほど大きく食い違わないというのが私の印象です。たとえば中京大学の松田茂樹先生のご提案は、たしかに既婚カップルの出生率に焦点を当てている点で私とは違うように見えますが、基礎的なデータを共有している以上、結論部(「若者の初期キャリア形成と結婚生活の応援」という項目があります)を含めると埋められないほど大きな齟齬があるわけではありません。

程度問題ではありますが、専門家はデータを共有し、かつ学会、研究会、政府の委員会などを通じて落ち着いて意見交換する機会がそれなりにありますから、議論がカオス的状況を呈することはそれほどありません(たまにありますが)。行政(官僚)の方も、基本的にはデータを共有して仕事をする点では同じです。

これに対して一部の政治家の方や、データを断片的にみてしまう(エビデンスをバランス良く見る訓練が相対的に欠けている)非専門家の方になると、傾向としては、強い思い込みに基づいた主張が増えてきます。影響力が強い人は往々にして主張が強い方が多く、またメディアの露出も多いので、バランスの悪い議論が目立ってしまうという問題があるように感じられます。

Q:データを見る上で注意することにはどんなものがあるのでしょうか。

さきほど述べたとおり、変化を表す数字(率など)については、足元(直近)の変化をみることがより重要な場合と、全体的な水準を見ることがより重要な場合がありますが、少子化については全体的な水準が非常に重要です。たとえば出生率が足元で0.01回復基調にあるといっても、それが1.4の水準でのことなのか1.8での水準でのことなのかは大きく意味が違います。

次に、意識調査のデータの見方です。結婚や出産(親なり)希望についての意識調査のデータは多いですが、解釈には一定の慎重さが必要です。たとえば「将来的には結婚したいですか」という質問は未婚者に対してしか意味を持ちませんが、年齢が高い未婚者は「もう結婚はいいかな」と考えてしまうかもしれず、したがって未婚者の平均年齢が高くなると、全体的には希望者の割合が減ってくるように見えてしまいます。同じ年齢階層でのデータの推移をみるべきです(希望子ども数でも同じ)。

また、意識調査はいろんな理由でシンプルに質問文を作るしかないことが多いのですが、女性に対して「結婚したいですか」と尋ねるのと、「結婚や出産がキャリアに影響せず、かつ配偶者の男性が家事育児に協力的である場合、あなたは結婚したいですか」と尋ねるのでは結果は変わってくるでしょう。主義(価値観)として「結婚しない」という意見の割合は、本来なら後者のような質問に対しても「しない」と回答した割合から分かることです。単なる「結婚希望が減った」というデータから、「最近は結婚しなくてよいという価値観の人が増えた」と結論づけることはできません。

立命館大学産業社会学部教授

家族社会学、計量社会学、女性労働研究。1970年福岡県生まれ。一橋大学社会学部、同大学院社会学研究科、博士(社会学)。著書に『仕事と家族』(中公新書、2015年)、『結婚と家族のこれから』(光文社新書、2016年)、『数字のセンスを磨く』(光文社新書、2023)など。共著・編著に『社会学入門』(前田泰樹と共著、有斐閣、2017年)、『社会学はどこから来てどこへいくのか』(岸政彦、北田暁大、稲葉振一郎と共著、有斐閣、2018年)、『Stataで計量経済学入門』(ミネルヴァ書房、2011年)など。

筒井淳也の最近の記事