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少子化問題「Q&A」

筒井淳也立命館大学産業社会学部教授
(写真:つのだよしお/アフロ)

少子化対策について取材を受けることが増えてきたので、私見をQ&A形式でまとめておきます。参考になれば幸いです。

Q:結局日本の少子化(出生率低下)の原因は何なのでしょうか。

直接的には晩婚化・未婚化が大きいです。日本人は、結婚すればそれなりに子を持ちますが(2015年調査で1.94人)、いかんせん結婚する人が減ってきたので、子どもも減ってきました。夫婦がもつ子どもの数も徐々に減ってきましたが、こちらも晩婚化の結果という側面が強いです。

Q :なぜ結婚する人が減ってきたのでしょうか。

原因はいろいろで、一つではありません。複雑だからこそ解決が難しいのです。

わりと大きそうな要因としては、ミスマッチがあります。ミスマッチとは、「結婚したい(できる)と思える相手と出会わない」ということです。主に独身男性の雇用・所得が、女性の望む水準に満たないことがあります。日本的雇用慣行のせいで女性が長期的なキャリアを形成できる見込みを持ちにくいため、どうしても結婚において男性の経済的安定性は「外せない」条件になってしまいます。

Q:これまでの少子化対策には効果がなかったのでしょうか。

これまでの少子化対策の軸は「子育て支援」で、具体的には「保育サービス」「育児休業制度」「現金給付(児童手当・出産一時金など)」の3つが「子育て支援」政策の軸です。これらは岸田政権が「異次元の...」ということで示した方針や、東京都が掲げているものも含めて同じなので、岸田政権にしろ東京都にしろ、現状では伝統的な子育て支援政策しか展開していません

子育て支援策は現在子どもがいる家庭やこれから子をもつ予定である家庭の生活を楽にするものですが、そもそも出生率低下の直接的原因が未婚化・晩婚化であるので、少子化対策としての効果は限定的だと思われます。

付き合っている相手のいない(しかし将来的には結婚したい)独身の人に「児童手当充実しますよ」と語りかけて、「そうか、おかげで相手も見つけやすくなるし、結婚できる!」となるかといえば、ならないでしょう。

独身者に響く政策が必要です。

Q:「子育て支援」政策には意味がないということでしょうか。

全くそんな事はありません。小さな子どものいる家庭の生活を支援するのはそれ自体大切な政策です。ただ、出生率の向上に直接結びつくのかというと、難しいものがあります。それに、目立つ政策だからといって現金給付ばかり強調して、すぐに財源の問題になってしまうと、子育て世帯にとってはせいぜい「トントン」になっても、独身の人にとっては負担が増えて結婚が減ってしまう可能性もあります。そうなると本末転倒です。

晩婚化の影響で、夫婦あたりの子どもの数も減少傾向にあります。依然として半数程度の夫婦は子ども2人をもちますが、徐々に「3人」が減って、一人っ子が増えつつあります。

子育て支援の拡充が夫婦あたりの子ども数の増加につながることは十分に考えられますが、ただ晩婚だと当然子ども数も限られてきますし、未婚・晩婚が出生率低下の大きな要因であることに違いはありません。

政府もマスメディアも、少子化対策と子育て支援施策を「同一視」してしまうクセがあります。(だからメディアは少子化対策について、独身の人ではなくて、まずは小さな子をもつ親のところに取材に行きます。)子育て支援政策はそれ自体大事なのだから、それはそれでやるべきですが、少子化対策がそれだけで占められてしまうことは問題です。

Q:結婚する人を増やすにはどうしたらいいのでしょうか。

表面的には、マッチングサービスの信頼性と効率性を高める、結婚に際して現金給付をするなどがありえますが、公的資金でそれを行うことについては丁寧な議論が必要です(とはいえ多くの自治体ですでに実施していますが)。

より根本的な解決は、「若い人が安定した仕事と所得を得て、さらに10年後・20年後も安定した生活が続くという見込みを持てるようになること」です。具体的には、雇用改善、賃金上昇、男女賃金格差の是正、できるだけ不本意な転居のない人生の実現などが重要です。30年間、これらが少子化対策として国政の場でほとんど議論されてこなかったことが問題なのです。

一部の有識者会議や少子化社会対策大綱(私も検討委員として参加しました)などでは、若年者の支援は指摘されてきましたが、現金給付などよりインパクトがないからか、政治の議題にはほとんどなりません。

Q:団塊ジュニア世代の不遇は、少子化の面ではやはり大きかったのでしょうか。

そのとおりです。

団塊の世代(1947〜49年生まれ)の出生数は、実に年間267〜9万人でした。2021年の3倍以上です。その子世代の団塊ジュニア(一般に1971〜74年生まれ)もそれなりに出生数があって、1973年生まれの人は209万人以上いました。

実は出生率の低下はその前の世代から始まっていました。1950年代後半生まれの女性までは、結果的に(49歳までに)ほぼ2人の子をもったのですが、1960年代生まれ以降は下がり始めます。それが底を打ったのが団塊ジュニア世代で、1.4人ほどで止まってしまいました。それ以降の世代で出生率は若干持ち直したのですが、女性の人数が多い団塊ジュニア世代という最大のチャンスを逃してしまったのが大きいです。

Q:一部で話題の「N分N乗」方式はどうなんでしょうか。

繰り返しになりますが、独身の人で結婚の予定がない人に「N分N乗」(=子どもが増えれば所得減税)を掲げて結婚が促されるか、ということです。

その点は置いておくとしても、N分N乗は「世帯単位課税の分割方式」という、日本が70年以上ずっと採用してきた個人単位課税とは根本的に異なる仕組みなので、それなりに導入は大変で、当然ながら大きな行政コストがかかります。

それでも導入すれば効果があるのかといえば、若干はあるのでしょうが、ただしその他の対策(両立支援、男女賃金格差の是正、保育の充実など)ときちんと組み合わせた上で、という条件付きだと思います。そうしないと、世帯単位課税は共働きを阻害してしまうように働く余地を持ちえます。(概して、ひとつの制度が問題を解決する、と考えることはなんとしてでも避けたいものです。)

その他の論点としては、世帯所得が低く、そもそもあまり所得税の負担感を感じていない世帯においてはありがたみがないということです。逆に所得税の負担感が現状で重く感じる高所得世帯にとっては、子どもを追加的にもとうとする動機になりやすいはずです。

Q:育児休業制度については?

制度自体はかなり充実したものになりつつあります(ユニセフの評価では世界1位になったほど)。問題は、使う側、要するに職場です。働き方改革を進め、休業がキャリアに影響しにくい仕組みを作る必要があります。

制度を改定すべき点をひとつあげるとすれば、休業中の部分就業をもう少し柔軟にできるようにすること、でしょうか。認めすぎるとそもそも休業の意味が薄れてしまいますが、休業中にも(リモートを使用して)ちょっとした問い合わせへの対応や意思決定への参加が可能になれば、キャリアへの影響も少なくて済むかもしれません。

休業中のリスキリングが唐突に話題になりましたが、優先順位としては低めでしょう。「やってもよいこと」なんでしょうが、「真っ先にすべきこと」ではないですね。

Q:一言で言って「手遅れ」なんでしょうか。

「手遅れ」の範囲にもよりますが、すでにここまで出生数が減ってしまった以上、出生率が多少改善しても「分母(女性の数)」が小さいままですから、出生数はそれほど増えない状態が続きます。したがって「少子化社会対策」としては、当然「出生数が増えないなかでいかにしてシステムを維持するか」ということをしっかり議論しないといけませんが(当然移民も含めて)、これまた「少子化対策」としてはほとんど話題になりません。

政治家の方々には、真に責任のある議論の進め方をお願いしたく。

立命館大学産業社会学部教授

家族社会学、計量社会学、女性労働研究。1970年福岡県生まれ。一橋大学社会学部、同大学院社会学研究科、博士(社会学)。著書に『仕事と家族』(中公新書、2015年)、『結婚と家族のこれから』(光文社新書、2016年)、『数字のセンスを磨く』(光文社新書、2023)など。共著・編著に『社会学入門』(前田泰樹と共著、有斐閣、2017年)、『社会学はどこから来てどこへいくのか』(岸政彦、北田暁大、稲葉振一郎と共著、有斐閣、2018年)、『Stataで計量経済学入門』(ミネルヴァ書房、2011年)など。

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