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「お子さんはまだですか?」と聞かないで 「妊活クライシス時代」の流儀

常見陽平千葉商科大学国際教養学部准教授/働き方評論家/社会格闘家
妊活クライシスは今、そこにある問題だ。この写真すら、誰かを傷つけることだろう(写真:アフロ)

Yahoo!ニュース特集に「妊活」に関する記事がアップされている。気鋭の育児・教育ジャーナリスト、おおたとしまさ氏のペンによる傑作である。

「妊活クライシス」男女の意識差が夫婦の危機に

https://news.yahoo.co.jp/feature/570

「妊活」に取り組んでいる夫婦だけでなく、もう子育てが一段落した方も、結婚や出産は先のことだと思っている10代、20代の方も、ぜひ読んで頂きたい。妊娠をめぐる男女の意識差に着目し、「妊活クライシス」を経験した夫婦や不妊治療の現場にスポットをあて、心の叫びを世に届けている。

生理がくるたびに落胆する、子供のいる家族の様子を見るのが辛いのでSNSを覗かない、妊活で急に呼び出されるがゆえの離職・・・。さらにはやっと妊娠したかと思いきや、死産・・・。

私も妊活の「当事者」として登場している。おおたさんからの依頼があり、二つ返事でOKした。少しでも、この件で苦しんでいる人の気持ちを代弁するために、社会に問題提起するために、赤裸々に語った。

涙なしでは読めない内容である。時間をやりくりして仕事を抜け、妊活に取り組む夫婦は、精神的にも肉体的にも疲れている。ましてやゴールの見えない、しかし時間的、金銭的リミットを抱えたマラソンを走っている。これが、日本の現実だ。

アップされた記事を読み、激しく胸を打たれた。居ても立ってもいられず、キーボードに向かっている。私は産婦人科医ではない。ただ、この問題に関しては「当事者」だ。「妊活」に関して問題提起したい。

2017年、平成29年である。私たちは2010年代を生きている。天皇陛下の生前退位も検討が進んでいる。元号がどうなるかは分からないが、平成も終わりが迫っていると感じる。しかし、私たちはどこか昭和的価値観で生きていないだろうか。その昭和との憧憬と、現実とのギャップに私たちは苦しみ続けている。

「妊活」をめぐる議論はまさにそうだ。20代後半には結婚して、子供を二人くらい育てるのが当たり前という価値観のもと、我々はまだ生きていないだろうか。実際は、結婚、出産、育児の実態は大きく変わっている。結婚するための「婚活」、保育園など育児環境を確保するための「保活」にばかりスポットが当たるが、「妊活」にもより注目するべきだ。

気づけば、無意識に我々は妊活中の人を苦しめていないだろうか?

「お子さんはまだですか?」

「お子さんは何人いらっしゃいますか?」

という無邪気な社交辞令は「40代の結婚している男女には子供がいて当たり前」と言わんばかりのものである。

ネット上の論理で言うならば「嫌なら見るな」と言われそうだが、友人・知人たちが悪気なくSNSに投稿する子供の写真、年賀状の家族写真などで、何度も傷ついてきた。「見るな」と言われても、「目に入ってしまう」のである。その度に傷つく。

もっとも、「当事者」たちの取り組みについても、立ち止まって考えなくてはならない。この記事で触れられているように、妊活というものを通じて、夫婦の意識の違いなどが可視化される部分がある。ただ、私の持論なのだが、「意識」だけでは世の中は動かない。「知識」も大事なのである。「妊活」に関する正しい知識を身に着けなくては、ダメなのだ。

5年にわたり、妊活に取り組んだが、私の猛反省は、不妊の原因が自分の精子にあることを途中まで気づかなかったことである。この記事でも触れられているが、ややオブラートに包んで伝えるが、泳がない、まっすぐ進まない、奇形が多いのである。ゆえに、自然妊娠の確率が極めて低いことが明らかになったのだ。もっと早く知っていれば・・・。自分は関係ないなどと思ってはいけない。

我が国が本気で少子化対策に取り組むのなら、近い将来、成人向けの健康診断で精子チェックが義務化されることだろう。まあ、ハードルはいくつもあるだろうし、間違いなく賛否は呼ぶのだが。さらに言うと、性教育も、もちろんAVも、40代が子供を授かる方法を教えてくれない。いかにして生まれないかということはそれなりに指導されてきたが、授かるための正しい知識を私たちは意外にも知らないのである。

もっとも、「少子化対策」なる言葉も、私は苦手だった。政策としては理解する。ただ、一市民としては、それこそ国民を生む機械としか思っていないのである。日本国首相はもちろん、たとえ女性の識者にそう叫ばれても、意見としては尊重するが、一市民としては激しく傷つくのだ。市民は少子化対策のために、人口維持のために、経済成長のために子供を生むわけではない。そこに貢献しない国民は、どうでもいいのか。

「働き方改革」が少子化に歯止めをかけるなどという主張があるが、このような「妊活クライシス」問題のことも理解してもらいたいのだ。そして、妊活にかける時間を企業が認めるとして、我々の所得が上がらなくては、妊活も断念せざるを得ないのだ。「同情するなら金をくれ」なのだ。

ぜひ、おおたとしまささんのこの記事を読んで、「妊活クライシス」を今、そこにある問題、自分事として捉えて頂きたい。悪気のない一言が誰かを傷つけていることも自覚して頂きたい。

千葉商科大学国際教養学部准教授/働き方評論家/社会格闘家

1974年生まれ。身長175センチ、体重85キロ。札幌市出身。一橋大学商学部卒。同大学大学院社会学研究科修士課程修了。 リクルート、バンダイ、コンサルティング会社、フリーランス活動を経て2015年4月より千葉商科大学国際教養学部専任講師。2020年4月より准教授。長時間の残業、休日出勤、接待、宴会芸、異動、出向、転勤、過労・メンヘルなど真性「社畜」経験の持ち主。「働き方」をテーマに執筆、研究に没頭中。著書に『なぜ、残業はなくならないのか』(祥伝社)『僕たちはガンダムのジムである』(日本経済新聞出版社)『「就活」と日本社会』(NHK出版)『「意識高い系」という病』(ベストセラーズ)など。

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