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「内定後推薦状」に気をつけろ 企業に「NO」を叫び始めた大学たち

常見陽平千葉商科大学国際教養学部准教授/働き方評論家/社会格闘家
オワハラは問題です。NOと言いましょう。(写真:アフロ)

新卒の就活で「推薦状」が密かに流行っていることをご存知だろうか?指導教員や大学からの推薦状の提出を求める企業が存在する。理系などでみられる推薦ならまだわかる。学校や研究室に企業からの「枠」が割り当てられ、専門分野に関係ある仕事に就くために、教授からの推薦状を提出させるケースだ。

ただ、ここ数年話題になるのは就職ナビなどでエントリーした「自由応募」の枠であるにもかかわらず、選考を通過し内定が出た後で学生に「推薦状」を提出させる企業だ。大学のキャリアセンター職員の間ではここ数年、話題となり、問題視されている。

「推薦状」の果たす役割とは何だろう。たしかにゼミ、研究室などで指導している教員からの視点で、その学生の学業や学生生活の取り組みの様子について説明してもらうことで、企業が求職者に対する理解が深まるという効果はあるだろう。特に学業に関する取り組みや、専門分野に対する理解度、ゼミや研究室への貢献度などは本人には語りにくい。自分以外の視点で強みを紹介してくれることは、学生にとっても有益といえるかもしれない。企業にとっても、学生への理解が深まるだろう。

ただ、「自由応募」なのに、しかも内定が出た後で「事後推薦状」を提出することについて違和感を抱く人もいることだろう。そもそも、それは必要なのか。また、指導教員が「推薦」に責任を持つことができるのか。特に文系の大学などの「ゼミ」という名ではあるものの人数が10名を超える場合もあり、その学生をきめ細かく指導できていない場合もある。この場合の「推薦」に説得力はあるのか。推薦状を書くことで教員はまた忙しくなる。中には「学長」や「学部長」の推薦をもらおうとする企業もある。ただ、学生との距離があると言わざるを得ず、ますます形骸化、茶番になってしまう。

「推薦状」の本来の目的からズレた、辞退防止策になってしまっているケースがほとんどのようだ。これにより、覚悟をみる、と。辞退しにくくなると。ただ、これは「推薦状」と呼べるのか。

立教大学、中央大学のように自由応募に関して推薦状を書かないと宣言した大学も現れ始めた。この流れは広がるのではないかとみている。

この「推薦状」に関して、大学では過去にも「炎上」気味になったことがあった。そう、11年前にリクナビが共通エントリーシート機能の「Open ES」に推薦状機能を実装しようとした件だ。有名大学から抗議声明が出た。手間がかかるのではないか、学生間の格差が起こるのではないか、大学教職員は紹介を依頼された際に、どう対応するかなどの問題が指摘された。

ただ、これはあくまでエントリーシートの項目として提案されたものだった。事後の推薦とはまた異なる。

この事後推薦状だが、2010年代半ばには確認され、昨年、政府の会議でも問題視された。学生や大学の負荷が増すこと、本来の推薦の意味を果たさないことなどから、ここで問題提起しておく。もし、提出を求められたら大学のキャリアセンター職員などに相談しよう。

千葉商科大学国際教養学部准教授/働き方評論家/社会格闘家

1974年生まれ。身長175センチ、体重85キロ。札幌市出身。一橋大学商学部卒。同大学大学院社会学研究科修士課程修了。 リクルート、バンダイ、コンサルティング会社、フリーランス活動を経て2015年4月より千葉商科大学国際教養学部専任講師。2020年4月より准教授。長時間の残業、休日出勤、接待、宴会芸、異動、出向、転勤、過労・メンヘルなど真性「社畜」経験の持ち主。「働き方」をテーマに執筆、研究に没頭中。著書に『なぜ、残業はなくならないのか』(祥伝社)『僕たちはガンダムのジムである』(日本経済新聞出版社)『「就活」と日本社会』(NHK出版)『「意識高い系」という病』(ベストセラーズ)など。

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