愛子さまの心をゆさぶる「平安文化」 千年の眠りから目覚めた皇室の名宝を公開
都会の真ん中に位置しているというのに、喧騒とは無縁の皇居東御苑内は、広大な緑に包まれている。振り返れば丸の内の高層ビル群が見え、その隙間なく林立する風景とは、まさに対照的だ。
外国人観光客にとっては、伝統を伝え守る皇居のそばに、近代的なビジネス街が共存するコントラストが、日本という国の個性を浮かび上がらせて、とても興味深いという。
確かに皇居前の内堀通りは、ある種の結界のように、華美に装飾された現代という時間軸の侵食を阻んでいるようにも見える。
それもそのはずで、皇居の中には千年の眠りにつく、皇室ゆかりの美術品の数々がひしめいている場所がある。それが皇居三の丸尚蔵館だ。
◆愛子さまも興味津々「源氏物語」の世界
現在、皇居三の丸尚蔵館で「皇室のみやび―受け継ぐ美―」第3期「近世の御所を飾った品々」(〜5月12日まで)が開催されている。近世までの御所や宮家を飾った書画、工芸品、楽器などが展示され、国宝「更級日記(さらしなにっき)」も間近で見ることができる。仮名遣いで流麗に書かれた筆文字からは、雅な文化が伝わってくるようだ。
愛子さまが20歳となった際、公開された映像には三の丸尚蔵館を訪れ、収蔵されている品々をご覧になっている様子が映っていた。この時、愛子さまが平安時代の古典文学に関心をお持ちであることから、膨大な数に及ぶ歴史的な収蔵品の中からいくつか選んでお見せしたという。
その中でも愛子さまが熱心にご覧になっていたのは、去年、国宝に指定された藤原定家が書写した「更級日記」。
「更級日記」の原本は現存しておらず、百人一首の考案者としても知られる藤原定家が鎌倉時代に書き写した展示品が最古のものだという。奥書には、定家の所持本が紛失してしまい、再度書写した旨が書かれている。禁裏御所伝来の品と考えられている貴重な品だ。
そしてNHKの大河ドラマ「光る君へ」で注目を集める、主人公・紫式部が書いた長編小説「源氏物語」についても、愛子さまはとても興味津々であったようで、貴重な「源氏物語図屏風(げんじものがたりずびょうぶ)」もご覧になっていた。
その時の作品は、江戸時代に宮家に嫁いだ加賀・前田家の女性、富姫の婚礼調度品のひとつで、天才絵師と称された狩野探幽が描いたものであった。
去年11月にも、愛子さまは両陛下とともに東京国立博物館を訪れ、平安時代に描かれた国宝「源氏物語絵巻 夕霧」を鑑賞されているが、その際、物語を読み込んでおられたのか、愛子さまは登場人物の関係性について「親近感がある」と話されたという。
今回、皇居三の丸尚蔵館に展示されているのは、残念ながら愛子さまが鑑賞されたものではない。しかし、その代わりと言っては語弊があるかもしれないが、今回は狩野探幽の祖父にあたる狩野永徳が描いたと伝えられている、愛子さまが鑑賞されたものよりも古い桃山時代の作品が展示されている。
中世日本画壇の巨人にして、狩野派中興の祖ともいえる狩野永徳だけに、その繊細な筆致は一見の価値があるのは間違いなく、愛子さまも機会を見つけて鑑賞されるかもしれない。
◆貴重な美術品が語り掛ける世界
収蔵されてきた品々からは、歴代天皇や皇族の方々が学問や文化芸術に広く深い知識をお持ちで、それらを保護することに力を注いできたことが分かる。
今回の展示では、源氏物語を題材にしたものだけなく、宮中伝来の絢爛豪華な「蔦細道蒔絵文台(つたのほそみちまきえぶんだい)・硯箱(すずりばこ)」や、東南アジア伝来のルソンの壺などの工芸品も並ぶ。
珍しいものでは、屏風面の真ん中に素通しのすだれがはめ込まれている「糸桜図簾屏風(いとざくらずすだれびょうぶ)」という作品が展示されていたが、裏側に遊び心から女性の絵が置かれていた。
かつてやんごとなき高貴な人々は、誰かと対面する際、直接見合うのではなく、御簾(みす)と呼ばれるすだれを間において、その隙間からどのような人物か見ていたという。それを展示の中で再現していたのだ。
こうした工夫をこらしながら、皇室が保護してきた貴重な美術品を、多くの人々に見てもらいたいという皇居三の丸尚蔵館の姿勢は、まさに令和流の試みと言えるのかもしれない。
皇室の方々は公務の合間を縫い、自らのライフワークを持って研究に励まれている。上皇さまはハゼの分類学、天皇陛下は水問題の研究をされていることは有名だ。
この春、愛子さまは社会人となり、公務に本格的に取り組まれることになる。しばらくは新しい生活に慣れることに大変だろうが、そのうち落ち着いたら、これまでの古典文学の研究も続けられるのではないだろうか。
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