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愛子さまと心通わせた「本勇号」は今、伊勢神宮に 天皇ご一家が触れ合われた「神馬」とは?

つげのり子放送作家、ノンフィクション作家(テーマ:皇室)
本勇号と触れ合われる天皇ご一家(写真・毎日新聞社/アフロ)

3月26日、愛子さまが大学卒業を報告するため、伊勢神宮を参拝された。緑に囲まれた静寂さの中、愛子さまは微笑みをたたえ、関係者らの列に会釈をしながら、玉砂利が敷かれた参道を踏みしめて進まれていた。

実は伊勢神宮には、天皇ご一家がおよそ5か月前に、顔を撫でながら「がんばってね」と激励された、ある動物がいる。去年10月に皇居内の厩舎でご一家がニンジンをあげ、伊勢神宮の「神馬(しんめ)」として贈り出された「本勇号(もといさむごう)」だ。

その後、本勇号は伊勢神宮でどのような日々を送っていたのだろうか?そして私たちも間近で会えるチャンスはあるのだろうか?伊勢神宮の事務をつかさどる神宮司庁に聞いた。

◆愛子さまが愛でられた神馬・本勇号は今

2月14日、伊勢神宮で皇室の菊の御紋がついた衣をまとう本勇号が、石段を進んで正宮の神前近くで「御馬牽進式(みうまけんしんしき)」にのぞんだ。この儀式は皇室から贈られた馬を神前で報告するもので、これを経て正式に本勇号は「神馬」となった。

この時、本勇号はどんな様子だったのだろうか?神宮司庁広報室広報課長補佐の中西直樹さんが教えてくれた。

「本勇号は穏やかで人懐っこい性格であると伺っております。また、顔の鼻筋に縦に通った白斑(はくはん)が本勇号の特徴で、神馬としての気品を感じます。伊勢の地に来たばかりで慣れない中にも、落ち着いて報告の儀式にのぞんでいたように見受けられました」

御馬牽進式(令和6年2月14日 本勇号)(写真提供・神宮司庁)
御馬牽進式(令和6年2月14日 本勇号)(写真提供・神宮司庁)

「神馬」とは、一般的には神様の乗り物という意味で、伊勢神宮は内宮と外宮にそれぞれ2頭の神馬を飼っている。本勇号は内宮の神馬となり、普段は内宮近くの神馬休養所で大切に飼育しているという。

現在、本勇号は9歳で、人間の年齢にすると、40歳くらいだというが、まさに脂ののった働き盛り。多くの参拝者がいても動じずに落ち着いているのは、立派な大人になっていることの証なのかもしれない。

神馬牽参(令和6年3月1日 本勇号)(写真提供・神宮司庁)
神馬牽参(令和6年3月1日 本勇号)(写真提供・神宮司庁)

◆馬にまつわる神秘的な伝説も…

伊勢神宮では、奈良時代から朝廷による馬の奉納が行われていた。中断した時期はあったものの、明治2年(1869)以後、神馬が天寿を全うするごとに皇室から馬が贈られることになり、本勇号は内宮で35頭目の神馬となるという。(明治2年の時点で飼養されていた神馬3頭を含む)

それだけ古い歴史があるだけに、伊勢神宮で正宮に次ぐ格式の高いお宮である別宮には、馬にまつわる神秘的な伝説が残されているという。

「外宮の別宮である月夜見宮(つきよみのみや)の伝説ですが、地元では、御祭神の月夜見尊(つきよみのみこと)が毎夜、外宮の豊受大御神(とようけのおおみかみ)に会いに行かれるとの言い伝えがあり、その際、月夜見尊はお宮の石垣のひとつに杖をあて白馬に変えて、それに乗られて外宮へ向かわれたといわれます」(中西さん)

地元では、神様が白馬に乗って通った道は、厳かで神聖なるところだと伝えられ、この伝説でも馬は神様の乗り物として出てくる。昔から馬は神様に仕える存在として考えられていたのだろう。

◆神馬に会えると幸運がやってくる

以前、筆者が伊勢神宮を参拝した時、知人から「神馬に会えると幸運がやってくると言われている」と聞き、内宮の御厩(みうまや)で神馬を見つけた時に大喜びしたことを覚えている。

毎月1日、11日、21日の早朝には、神馬が正宮に参拝する儀式が行われるが、それ以外にも本勇号に会えるチャンスはあるのだろうか?

「原則として神馬は1日に一度、御厩に交互に牽き立てられますので、巡り合わせがよければ、神馬をご覧いただくことができます。但し、御厩にいる時間は不定で、天候や神馬の体調によっては中止になることもあります」(中西さん)

今回、愛子さまは伊勢神宮を参拝し、神馬となった本勇号と再会されたのだろうか。動物好きの愛子さまは、社会人となられる前のひととき、思い出の本勇号と心和む触れ合いを楽しまれていたなら幸いである。

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放送作家、ノンフィクション作家(テーマ:皇室)

2001年の愛子内親王ご誕生以来、皇室番組に携わり、現在テレビ東京・BSテレ東で放送中の「皇室の窓」で構成を担当。皇室研究をライフワークとしている。日本放送作家協会、日本脚本家連盟、日本メディア学会会員。著書に『天皇家250年の血脈』(KADOKAWA)、『素顔の美智子さま』『素顔の雅子さま』『佳子さまの素顔』(河出書房新社)、『女帝のいた時代』(自由国民社)、構成に『天皇陛下のプロポーズ』(小学館、著者・織田和雄)がある。

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