「夏の思い出」をお歌に?皇室のお歌ご指南役が語る「愛子さまとお歌」
コロナ禍によってこの3年の間、日本全国の行事やイベントがことごとく中止されてきたが、今年の夏は伝統の祭りは言うに及ばず、花火大会に音楽フェスも各地で開催されるようになった。猛暑が続く中にもかかわらず、開放的な夏へのワクワクとした期待感は高まっているように感じる。
また夏は、皇室の方々にとって、避暑を兼ねたご静養の時期でもある。ご静養先で見たり聞いたりして体験された出来事は、久しぶりに再開された各地の伝統行事とともに、皇室の方々の心にどんな思いを刻むのだろうか。
そして、その夏の思い出を表すのに最適なのが、万葉の昔から受け継がれてきた「短歌」だ。
そこで筆者は、皇室の方々が内面の発露に用いてこられた、三十一文字(みそひともじ)の世界を探ろうと決意し、炎天下の京都・大阪へ足を延ばした。
◆お歌から分かる、愛子さまの豊かな感性
訪ねたのは、昨年末にお歌のご指南役である宮内庁御用掛となった、歌人の永田和宏さん。
実は永田さんの本職は細胞生物学者であり、京都大学名誉教授・京都産業大学名誉教授を務め、現在は様々な生き物を見つめる生命科学の研究展示施設「JT生命誌研究館」の館長を務めている。
受付を済ませて館長室に案内されると、永田さんは物腰柔らかな笑顔で迎えて下さった。
まずは大学生活最後の夏休みを過ごされる愛子さまについて尋ねたところ、こんな答えが返ってきた。
「僕はまだ愛子さまのお歌を、今年の歌会始に出された一首しか見ていません。メールでアドバイスはしましたが、まだ直接お会いして愛子さまと話していないのです」
確かに東京と京都では頻繁にお会いすることはできない上に、御用掛を拝命された時は、まだコロナ禍の渦中であった。やりとりはメールやリモートにならざるを得なかったのだろう。
今年の歌会始のお題は「友」。去年に続いて2回目となる今回、愛子さまが出されたお歌は、当初、古典を勉強しているためか、古い言葉を使っておられたが、それを永田さんのアドバイスで言葉を変えられたという。
「せっかく愛子さまのような若い皇族の方が歌会始に入って来られたので、『もうちょっと日常の若い言葉のほうがいいでしょう。素直な言葉を紡いでみたらいかがですか』とアドバイスしました。いわば愛子さまは、ニューフェイスでいらっしゃるので、新鮮な感性を期待したのです」(永田さん)
そんな永田さんのアドバイスを受けて、生まれたのが以下のお歌だ。
もみぢ葉の 散り敷く道を歩みきて 浮かぶ横顔 友との家路
「このお歌の『浮かぶ横顔』という言葉が、愛子さまがその現場で実際に目にしたという、リアリティがあっていいんです。学校からの帰り道は、みんな前を向いて歩き、時々、横を向いてしゃべりますよね。ふと隣にいる友達のほうを向くと、彼女は前を向いていて、その横顔は溌剌として見える。まさにそういうシーンが、愛子さまの思い出の中にあることが分かって、センスが感じられます」
何気ない学校からの帰り道に、ふと見た友達の横顔。それは、その瞬間にしか見ることのできない青春のみずみずしさに溢れている。お互いに信頼し、たわいもない話に笑い合う、穏やかな友との時間。確かに永田さんが言うように、「浮かぶ横顔」という言葉には、かけがえのない友の存在がクローズアップされているように感じられる。
◆愛子さまの文才
幼い頃から愛子さまの文章力は、高く評価されてきた。例えば、愛子さまが学習院初等科の卒業記念文集に寄せた作文には、沼津の海で伝統の遠泳合宿に参加され、500メートルを泳ぎ切り、初等科6年間の中で一番成長できた出来事となったことが綴られている。
この作文で永田さんが注目したのは、以下の箇所だ。
「海に入るまでは、五百メートルも泳げる訳がないと諦めていましたが、泳いでいるうちに、体の力が抜け、楽しく泳げるようになりました」
(愛子さまの作文「大きな力を与えてくれた沼津の海」より)
「これはとてもうまいと思います。特に『海に入るまでは、泳げる訳がないと諦めていましたが』のあたりが、自分の実感に言葉が素直に繋がっていると感じますし、次の『体の力が抜け』というところに、作り物ではない感性が見られます」(永田さん)
豊かな感性を通して生まれる愛子さまの文章は、永田さん曰く、今後さらに成長される可能性を秘めているという。
「お立場上、難しいかもしれませんが、ネガティブなところも文章にうまく出てくると、もっと深みが出てきますね。愛子さまは、聡明でいらっしゃるので、今は幾分、優等生的なところもあるかもしれません。だから歌をうまく作れるように指南するというよりは、もっと自分が感じたことを素直に言葉にしていいのですよと、助言できればと思っています」(永田さん)
◆今後、愛子さまに詠んで頂きたいお歌は…
昨年行われた成年の記者会見で、愛子さまは源氏物語など平安時代の文学作品や、古典文学に関心を持っていらっしゃると話された。今後は古典文学に造詣が深いことを生かし、お歌を詠まれることにも世の中の期待が高まっている。
「愛子さまにお会いしたら、もっといっぱい歌を見せてくださいと伝えたいと思っています。若い時は上手い歌を作ろうとか、皇室として恥ずかしくない歌を作ろうと思うかもしれませんが、そういう意識から自由になって、自分が一番、その時々に切実に感じていることを歌にして頂きたいと思いますね。若い時期の歌は、若い時期にしかできない。そんな一回しかない時間を大切に見つめるお歌を作っていただきたいと思っています」(永田さん)
千年も昔から皇室の方々はお歌を詠まれ、日本最古の歌集である万葉集に最初に登場するのは、雄略天皇の恋のお歌である。永田さんは愛子さまへの期待として、こんな話もしてくれた。
「歌の良さがもっとも出てくるのが、特に若い時期には恋の歌でもあります。できれば愛子さまにも、チャンスがあれば恋の歌を作ってほしいですね。若い人にとって、恋の歌がないのはあとで振り返るとさびしいことだと思うんです」
愛子さまが詠まれた恋の歌を、いつの日か目にすることができるのだろうか。
「両陛下の「お歌」ににじみ出るお人柄 令和になってからの「変化」とは?」
https://news.yahoo.co.jp/byline/tsugenoriko/20230725-00358452
「“大学生”愛子さま、最後の夏休みをどう過ごす?警備体制について識者に聞く」
https://news.yahoo.co.jp/byline/tsugenoriko/20230727-00359331