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「MLBを変えた男」マービン・ミラーの殿堂入り式典は、親族も遺志を継ぎ出席拒否?

豊浦彰太郎Baseball Writer
全米から多くのファンが訪れる野球殿堂博物館 <著者撮影>

元MLB選手組合専務理事のマービン・ミラーがようやく野球殿堂入りとなった。候補に挙がって8度目での選出だった。本人は2012年に95歳で死去している。故人の場合、クーパーズタウンでの殿堂入り記念式典には遺族が代理出席しスピーチするのが通例だが、彼の場合は親族も遺志を継ぎ、出席者なし、スピーチなし、となる可能性が高い。

現地時間8日、野球殿堂入り時代委員会(Eras Committees)は、2020年度の殿堂入りとして球宴選出8度の強打の捕手テッド・シモンズとともに、ミラーが選出されたと発表した。時代委員会の選出は、元選手のみを対象とする全米野球記者協会(BBWAA)のそれとは異なり、BBWAA での資格を失った選手に加え、監督、審判員、経営者などの選手以外もカバーしている。

球界を劇的に変えた

ミラーの功績についてはいくら字数を費やしても過ぎるということはない。1966年に選手組合の専務理事に就任すると、それまでオーナー達にあしらわれるだけだった同組合を米国史上最強の労働組合と呼ばれるまでに育て上げた。彼の任期中に勝ち得たものとして、年金・保険の新給付制度(66年)、スポーツ界初の団体労働協約(68年)、年俸調停制度(70年)などがある。FA制度(76年)の成立も彼の尽力があってこそだった。

彼は、その労使交渉においては戦闘的なスタンスを貫き通した。1972年にはプロスポーツ史上初のストライキを指導し、開幕から9日間で86試合が流れた。そして、1981年にはシーズン途中に50日間に及ぶストを断行。彼自身も多くの非難にさらされた。しかし、元ドジャーズの伝説的アナウンサーのレッド・バーバーは1992年に、野球界に最も影響を与えた人物として、あのベーブ・ルース、人種の壁を破ったジャッキー・ロビンソンとともにミラーを挙げている。彼の対決姿勢が労使双方の努力を促し、結果的にMLBはビジネス的に飛躍的に拡大。選手の年俸高騰だけでなく、オーナーにも結果的に巨額の富をもたらしたからだ。

殿堂入りは願い下げ

しかし、これほどの人物を余りにも長く選出委員会はクーパーズタウンから遠ざけ続けた。そして2008年、ミラーは声明を出した。それは、今後自分をノミネートしないで欲しいというものだった。「野球殿堂およびその選出委員会は、選手組合と対立するMLB機構の影響下にあり、その選出方法は一見民主的ながら実は反組合のバイアスが大きく掛かっている。そんなところは、こちらから願い下げ」というものだ。当時、ミラーはすでに90歳を超えていたが、それでもかくしゃくたるものだった。

2011年、時代委員会の前身であるベテランズ委員会による選出では基準の75%に1票足らない11票で、殿堂入りはならなかった。これが5回目のノミネートでのことだった。この時ミラーは94歳。翌年、彼はこの世を去った。

親族も遺志を継承

その後、彼の遺族はミラーの遺志を受け継ぎ、「殿堂入りお断り」の態度を貫き通した。2012年、息子ピーターはミラーの自伝の共同著者らに宛てた書簡で「父は正義のためにオーナー達と闘ったのであり、自身の名声のためではない」からだと述べている。また、「FA制度や年俸調停制度などの組合が勝ち得た成果も、父個人の尽力のみによるものではなく、次世代のために自身のキャリアを犠牲にした多くの選手たちの功績でもあるから」というものだった。

今回も、選出決定後、現地メディアが彼らに接触を試みているようだが、現在のところ「心変わりした」との報道は見当たらない。

野球殿堂入りセレモニーは毎年7月下旬の週末、森と湖に囲まれた小さな街クーパーズタウンの野球殿堂博物館からほど近いクラークスポーツセンターで開催される。その広い芝生広場の特設舞台前は全米各地から集まった数万人のファンで埋め尽くされる。次回、2020年7月26日のセレモニーは、今回BBWAA経由で選出されることが間違いないデレク・ジーターのための1日になる可能性が高い。彼のスピーチに万雷の拍手が巻き起こるだろう。しかし、野球界に与えた影響という点ではジーターですら、ミラーには遠く及ばない。そして、そのミラー本人はもちろん、遺族もそこには姿を見せない可能性が高い。ピーターはこうも述べている。「父の功績は、インターネットで検索することはできます。ニューヨーク大学の図書館には関連書籍がたくさんあります。ポートレイトはワシントンDCの最高裁に掲げられています。野球ファンの方は、父についてより詳しく学ぶために何も(マンハッタンからクルマで4〜5時間とアクセスは容易ではない)クーパーズタウンまで行く必要はありません」。

Baseball Writer

福岡県出身で、少年時代は太平洋クラブ~クラウンライターのファン。1971年のオリオールズ来日以来のMLBマニアで、本業の合間を縫って北米48球場を訪れた。北京、台北、台中、シドニーでもメジャーを観戦。近年は渡米時に球場跡地や野球博物館巡りにも精を出す。『SLUGGER』『J SPORTS』『まぐまぐ』のポータルサイト『mine』でも執筆中で、03-08年はスカパー!で、16年からはDAZNでMLB中継の解説を担当。著書に『ビジネスマンの視点で見たMLBとNPB』(彩流社)

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