「珍記録」?サイクル達成で再確認する大谷翔平の才能

最後は単打で見事サイクル達成!(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

先日の大谷翔平のサイクル安打達成に日本のファンとメディアは沸き立ったが、個人的には冷静に捉えていた。運の助けも借りねばならないサイクル安打は、「大記録」というより「珍記録」だと思っていたからだ。しかし、事実関係を丹念に見ていくと、この珍記録を通じて彼の才能の豊かさを再認識できた。

「運」が必要な珍記録?

6月13日のレイズ戦、大谷翔平はサイクル安打を達成した。ぼくは約半世紀野球を観てきたが、サイクル安打は日本とアメリカ併せても一度しか現場で見届けたことがない。それは、2009年8月、アメリカはデンバーのクアーズ・フィールドでのことで、達成したのは当時全盛期にあった地元のスター、トロイ・トゥロウィツキ(現ヤンキース)だった。

その時も「ほほう、生で観れるとは運が良いわい」とは思ったが、大記録達成の場に立ち会った、というほどの興奮や感慨はなかった。やはり、サイクル安打は運に恵まれなければ達成できない種のものだからだ。

「運」の前に実力が必要

しかし、セイバー系サイトfangraphsの14日付けの記事を読んで、少なからずこの記録への評価を改めた。その「大谷翔平、サイクル達成で歴史に名を刻む」によると、これまでにサイクル安打を達成した245人のメジャー通算WARは.32.6らしい。

WARというのは、メジャー最低レベルの選手を起用した場合に比べ、何勝分の追加価値をもたらしたかを示す指標だ。そして、32.6という数値は、もの凄いレベルというほどではないが、ザックリ言うと到達するには10年くらいレギュラーを張っていなければならない水準だ。次から次へと才能溢れる若者が現れるこの厳しい世界に於いては、「10年レギュラー」は相当な成功者の部類に入る(殿堂入り、となるとその倍くらいの数値が必要だが)。この事実を目の当たりにすると、サイクルには運が不可欠だが、前提として運を呼び寄せれば届く域までの実力が備わっていなければならないことがよく分かる(もちろん、例外的な達成も少なくないが)。

うち、3本は左投手から

それと、今回の大谷は、最初の3本の安打(本塁打、二塁打、三塁打)は左投手から放っていることも彼の才能を示す重要なポイントだ。今でも大谷に関しては、「苦手の左投手・・・」という表現を時折報道で目にするが、事実は異なっている。

確かに、昨季は当初左投手には手を焼いた。しかし、シーズンが深まるにつれ状況は劇的に変化した。7月末までの対左投手OPS(出塁率+長打率)は.500に過ぎなかったが、8月以降は.831と、中軸打者として合格の数値だった。それが今季は更に改善され、何と.945(15日現在)と一流の数値だ。これは、右投手に対する.811よりもはるか上を行っている。

この若者の適応力は驚愕モノだ。打者としては、昨年春のオープン戦では現地メディアに「高校生レベル」と酷評されたが、開幕後はしっかり対応した。そして、苦手とされた左投手も今や完全に克服している。この才能あればこそ、運が向いてきた時にサイクル安打を達成できたと言えよう。