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イチロー、開幕戦での引退試合起用の是非「2打席&一旦守備に就いて交代」はお別れ演出

豊浦彰太郎Baseball Writer
5回表の開始前にイチローは退いた(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

MLB開幕第1戦では、イチローは「2打席&一旦守備に就き交代」だった。これは引退試合では良くある演出だ。その選手とファンの両方に別れを告げる機会を与えるのだ。しかし、開幕戦では空前にして絶後だ。

「2打席&一旦守備に就いて交代」は引退試合の流儀

イチローの日本での最後の姿になるかもしれないアスレチックス対マリナーズの日本開幕戦。イチローは、2打席を務め5回表の守りに一旦就いたところでスコット・サーバイス監督から交代を告げられベンチに退いた。これは、日本では馴染みがないが、アメリカでは引退試合などでよく行われる対応だ。いつの間にか退場してしまうのではなく、一度守備位置に就くことで選手とファンは互いに別れを告げることができるのだ。

脊柱管狭窄症で事実上の引退を余儀なくされたメッツのスター デビッド・ライトは、昨季の本拠地最終シリーズで2016年5月以来のスタメンで出場し2打席を務めた後、一旦三塁の守備に就きベンチに退いた。フィールドを去るライトに満員の観客は万雷の拍手と歓声を送ったのは言うまでもない。

もうお判りだと思うが、東京開幕戦でのサーバイス監督のイチローへの対応が示しているものには、この球史に残る偉大なプレーヤーへの敬意とともにもうひとつある。

それは、今回のスタメン起用は純粋な戦力的必要性からではなく、演出上のものだったということだ。したがって、開幕第2戦にはイチローはスタメンでは出場しない可能性は否定できないし、月末の米本土での開幕に際しては、登録から外れることも大いにあり得る、ということだ。

開幕戦でこれをやるべきか?

しかし、MLB機構が、マリナーズが、イチローに対して本当にやりたかったことがこれなら、舞台は開幕戦である必要はあったのだろうか。それこそ、昨秋の日米野球に参加し、毎試合「スタメン出場&2打席で交代」をやれば、イチロー登録の陰で犠牲になる選手も発生せず、みんなが幸せになったはずだ。

ここに紹介したライトの例もそうだが、このような演出的起用が行われることは、メジャーでも珍しくはない。しかし、そこには不文律がある。それは、勝敗が問われる試合では行わない、ということだ。この時のメッツはポストシーズンの望みはすでに途絶えていた。

したがって、シーズン終盤の消化試合ならいざしらず、長いペナントレースの幕開けとなる一戦で、このような勝負よりも興行優先の起用が行われたことの是非は、大いに議論されなければならないだろう。

あくまで真剣勝負が日本開幕戦の本来の意義

日本でのMLB開幕戦は今回が5度目だ。初の開催だった2000年(カブス対メッツ)においては、それは大きな「事件」だった。大スター達だけなら日米野球でも十二分に堪能できた。しかし、それは所詮エキシビションに過ぎなかった。真剣勝負の公式戦が、向こうの方から海を越えてやって来ることに意義があった。

その2000年の開幕第2戦、1対1の同点で延長に突入した際には、「引き分けはありません、決着がつくまで続きます」という旨の場内アナウンスにドームは沸いた。10回裏、カブスはサヨナラのチャンスを迎え打順はあのサミー・ソーサに回った。東京ドームは大歓声に包まれたがメッツの監督ボビー・バレンタインは敬遠を指示。大歓声は大ブーイングに変わったが、観客の多くは「ああ、これが公式戦の真剣勝負なんだ」と妙に納得したものだ。

昨日東京ドームに詰め掛けた大観衆も、テレビの前に釘付けになったファンも「イチローに打たせてあげたい」と念力を送ったはずだ。湧き上がった歓声と拍手、そしてひとりひとりのファンの胸に去来したイチローへの熱い思い、それらは紛れもなく純粋で愛に満ちたものだった。

しかし、そのイチロー起用は、そんな公式戦、しかも開幕戦においては本来あってはならないものであったことは知っておいた方が良い。

Baseball Writer

福岡県出身で、少年時代は太平洋クラブ~クラウンライターのファン。1971年のオリオールズ来日以来のMLBマニアで、本業の合間を縫って北米48球場を訪れた。北京、台北、台中、シドニーでもメジャーを観戦。近年は渡米時に球場跡地や野球博物館巡りにも精を出す。『SLUGGER』『J SPORTS』『まぐまぐ』のポータルサイト『mine』でも執筆中で、03-08年はスカパー!で、16年からはDAZNでMLB中継の解説を担当。著書に『ビジネスマンの視点で見たMLBとNPB』(彩流社)

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