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現時点での「イチロー来春東京での開幕メジャー」への違和感

豊浦彰太郎Baseball Writer
来春での開幕戦では、自ら勝ち取った登録枠での出場を期待したい(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

マリナーズGMが、かねて噂されていた来春の東京開幕シリーズでのイチロー復帰の噂を肯定したようだ。ファンにはこの上ない楽しみとなるが、「ちょっと待て」と言いたい。

現地時間11月6日、ジェリー・ディポートGMは、今季は途中から会長付特別補佐に就任してプレーしていないイチローを、3月の東京での開幕シリーズで選手登録する見通しを示した。そのアスレチックスとの2連戦においては、出場選手登録枠が通常の25名から28名に拡大される。急な故障者の発生の際に、北米での開催試合のように代替選手を即マイナーから送り込むことが事実上不可能なための措置だ。この拡大枠のひとつをイチローのために使おうというのだ。

日本のファンにとってはこの上ない朗報だ。野球史に名を残す偉大なプレーヤーの最後の勇姿を東京で見届けることができるのだから。また、主催者にとっても興行の超目玉ができた。正直言って、岩隈久志も去った今のマリナーズは、(菊池雄星あたりが入団しない限り)日本のファンにとってそれほど魅力はない。しかも、対戦相手は毎度お馴染み?の不人気球団(言い換えれば、本来の本拠地での開催を返上してもビジネスとして痛くない)アスレチックスだ。MLBが、来年はシーズン途中で開催するロンドンでのシリーズに、レッドソックスとヤンキースというこれ以上ない人気球団を送り込むのとはエラい違いだ。イチローの選手登録は、本当なら地味な?カードを一気に日本中ファンが注目するドル箱イベントに変えてしまいそうだ。

しかし、どうして今の段階から、イチローの登録枠が確保されてしまうのか。これは公式戦だ。2月のスプリングトレーニング(日本で言うキャンプ)の段階から、それこそ60名前後の選手が、25の(今回に関しては28の)「開幕メジャー枠」を目指してしのぎを削るのだ。もちろん、レギュラークラスなどは故障に見舞われない限り、事実上保証されている。しかし、イチローは今年の5月2日以降実戦でのプレーがない。その時点でも成績は残念ながら悲劇的で、彼が登録枠を占めていることにファンやメディアの間では大きな議論があったくらいだ。いわんや今や45歳である。常識的には、どんなにトレーニングに励んでいたとしても、来年の3月の段階では、今年の4月時点よりもパフォーマンスが劣る、と考えるのが普通だ。

もちろん、ぼくも東京ドームでイチローの溌剌としたプレーが見たい。しかし、それは来年のスプリングトレーニングのパフォーマンスを通じ、彼が登録枠を勝ち取った末での場合であり、「レジェンド枠」で提供された枠を使ってだと、むしろ悲しくなってしまう。「彼ほどの実績があれば、それくらいの特別待遇は当然」と考える人もいるだろう。しかし、それは違う。これはあくまで公式戦なのだ。現在、メジャー全球団でもっともポストシーズンから長く遠ざかっているマリナーズに、そんな感傷に浸っている余裕はないはずだ。

ぼくは、現役にとことん拘るイチローの姿勢に心から敬意をいだいている。しかし、長く現役を続けることの価値は、あくまで他の選手と公平な条件で戦い続け、時にはマイナー落ちや解雇も受け入れ、それでもメジャー復帰を目指しとことんガチで戦ってこそ、だ。

繰り返すが、3月にはイチローのプレーが見たい。しかし、それは自ら勝ち取った場でなければ価値はない。本来なら、現時点では当落ラインよりも下にいると見るべきイチローの登録を、現時点で球団幹部がコミットしたかのようなコメントを発するのはいかがなものか。

恐らく、「2019年東京開幕シリーズでのイチロー復帰」はプロモーターやスポンサー、MLB機構の海外戦略等々で完全に既成事実化してしまい、イチロー本人の意向だけで身の振り方を決めることができる問題ではないのかもしれない。だとするとイチローが気の毒だ。

Baseball Writer

福岡県出身で、少年時代は太平洋クラブ~クラウンライターのファン。1971年のオリオールズ来日以来のMLBマニアで、本業の合間を縫って北米48球場を訪れた。北京、台北、台中、シドニーでもメジャーを観戦。近年は渡米時に球場跡地や野球博物館巡りにも精を出す。『SLUGGER』『J SPORTS』『まぐまぐ』のポータルサイト『mine』でも執筆中で、03-08年はスカパー!で、16年からはDAZNでMLB中継の解説を担当。著書に『ビジネスマンの視点で見たMLBとNPB』(彩流社)

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