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MLB本塁打競争 「3年間打撃練習でスタンドインなし」の長距離砲フリーマンの健闘

豊浦彰太郎Baseball Writer
「打撃練習ではショートの上を狙い、ここ3年スタンドインはない」という。(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

2018MLBオールスター戦の前夜祭となるホームランダービーが終わった。地元ナショナルズのブライス・ハーパーが、決勝では終盤の鬼気迫る追い上げでカブスのカイル・シュワーバーを下し初優勝を遂げたが、個人的には1回戦で敗退したフレディー・フリーマン(ブレーブス)の「健闘」が印象に残った。

近年のホームランダービーの出場選手の顔ぶれは、いわば「日米野球メンバー」だ。ネームバリュー、過去の実績、当年の成績などの要素が全て揃ったスーパースターは限られ、他のほとんどがその年はそれなりの成績を残しているが、まだメジャーでの経験が浅い若手が中心なのだ。

選手の総合的な「格」を仮に年俸で判断すると、今回の出場選手8人中ハーパー(2165万ドル)とフリーマン(2100万ドル)が抜きん出ており、残り6人は年俸調停権を持っておらず、事実上の最低年俸54.5万ドルまたはそれプラスαだ(ドジャースのマックス・マンシーに至っては、今季は元々マイナー契約だった)。

ホームランダービーは球宴の重要なコンテンツだが、近年は有力選手の出場回避が止まらない。今回もJD・マルティネス(レッドソックス 29本)、アーロン・ジャッジ(ヤンキース 25本)、マイク・トラウト(エンジェルス 25本)、ノーラン・アレナド(ロッキーズ 23本)、ムーキー・ベッツ(レッドソックス 23本)らの千両役者は参加を見合わせている。

それはなぜか?

辞退する選手の口からいつも語られるのは、「徹底的なホームラン狙いのスイングをして、フォームを崩したくないから」ということだ。個人的には「ホンマかいな?」と思っている。世は正に「フライボール革命」真っ只中で、だれもがホームランを狙うフォームを身につけようとやっきになっている。ぼくは、名実ともにスーパースターである選手たちにとっては、ホームランダービーは「勝って当然、1回戦で敗退するようなことがあると赤っ恥」だからではないかと勘ぐっている。要するに、出ても得るところがないのだ。したがって、この出場回避傾向を是正するには、高年俸の大スターですら目が眩むほどのギャラを出すか(現在はいくらなのかは知らない)、ファン投票で出場選手を決めて事実上選手に選択の余地がないように仕組みを変えなければならないと思う。

本論に入りたい。そんな中で今回超お金持ちのハーパーとフリーマンが出場してくれた。ハーパーは独特のオレ様キャラで知られるが、今回は地元開催であること、オフにはFAとなるので来季は違う球団のユニフォームを着ている可能性がそれなりに高いことから、出場に対しそれなりのモティベーションがあったと思われるし、機構や選手組合からも相当強い要請があったはずだ。

そして、フリーマンだ。これはESPNのアナリストであるバスター・オルニーのコラムで知ったのだが、信じられないことに過去2年で62本塁打の彼は「試合前の打撃練習ではもう3年くらいスタンドインを打っていない」という。その理由は、左打ちの彼は「打撃練習ではいつも、軽めのスイングでショートの上あたりを抜けるラインドライブだけを打つように努めている」からだそうだ。パワーはもちろん備えているが、確実性や選球眼も含めたオールラウンドな打撃が真骨頂の彼らしい練習方法だが、そんな彼にとってこそ、ホームランダービー出場はそれなりにリスクを孕む行為であったと言えよう。

そして、彼は普段の打撃練習同様にセンターから左方向に多くの打球を飛ばし、時折普段の打撃練習では全くやらない引っ張るフルスイングも見せた。その結果、1回戦でハーパー(13本)に敗退となったが12本は立派だった。

リスクを恐れず挑戦する選手にぼくは共感する。今回のフリーマンには、16年、17年のジャンカルロ・スタントン(誰もが認めるメジャーを代表するホームラン打者でありながら、果敢に出場、16年は優勝した)に対してと変わらぬ拍手を送りたい。

Baseball Writer

福岡県出身で、少年時代は太平洋クラブ~クラウンライターのファン。1971年のオリオールズ来日以来のMLBマニアで、本業の合間を縫って北米48球場を訪れた。北京、台北、台中、シドニーでもメジャーを観戦。近年は渡米時に球場跡地や野球博物館巡りにも精を出す。『SLUGGER』『J SPORTS』『まぐまぐ』のポータルサイト『mine』でも執筆中で、03-08年はスカパー!で、16年からはDAZNでMLB中継の解説を担当。著書に『ビジネスマンの視点で見たMLBとNPB』(彩流社)

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