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ムネリンの日本球界復帰に関する張本勲氏の発言はどこがズレているのか?

豊浦彰太郎Baseball Writer
(写真:USA TODAY Sports/アフロ)

5年間にわたり、アメリカ(およびカナダ)でプレーを続けていた川崎宗則の日本球界復帰が決まった。そのことに関する張本勲氏の発言がちょっと気になった。

個人的には張本氏同様に、「ムネリンは帰ってくるべきだ」と言い続けて来た。進路の選択は個人の裁量によるものであることを認識した上で、心底そう思ってきた。彼も決して若くなく、「衰えてしまう前に川崎帰るべし」というのがまずは正論だ。それを踏まえてこそ、彼独特の野球観や人生観に対する議論が意味を持つのだと思う。

なのに、「愛されキャラ」の部分を賛美してばかりで、プレーヤーとしての否定のしようがない限界については触れようとしない日本メディアには疑問を禁じえなかった。ポストシーズンでも「メンバーには入れなくても応援団長として貢献」と持ち上げる記事も目に付いた。高校野球じゃあるまいし、プロをそんなことで褒めてどうする、と言いたかった。

そんな中で、張本氏だけは「帰って来い」と言い続けていた。そのことは評価したいと思う。しかし、先日のいつもの番組での発言は「遅いよ、帰ってくるのが」「帰ってきても守るところがない」「人気者だから獲ったんでしょう」等々、基本的にはその矛先が川崎本人に向いているのだ。

しかし、彼が日本でのスターの座を捨ててまで北米での「野球放浪記」を続けたことが提起するのは、(おそらく彼自身が抱いていたであろう)日本球界への閉そく感だ。その部分を指摘することが全くなかった野球メディアにはひたすら絶望するしかないのだけれど、その中で敢えて「帰って来い」を声高に叫び続けた張本氏には、「スターに5年も放浪生活を選択させた日本球界に喝!」と指摘して欲しかった。

ところが、氏の批判が向けられたのは川崎本人でしかなかった。残念ながら、NPB唯一の3000本安打達成者にしても、その視界に入っていたのは個人の特異な行動のみであり、その背後にある選手にとってのNPBの魅力の欠如や組織の矛盾には気付いていなかった。もしくは、わかっていてスルーした、ということなのだ。嘆かわしいと言わざるを得ない。

Baseball Writer

福岡県出身で、少年時代は太平洋クラブ~クラウンライターのファン。1971年のオリオールズ来日以来のMLBマニアで、本業の合間を縫って北米48球場を訪れた。北京、台北、台中、シドニーでもメジャーを観戦。近年は渡米時に球場跡地や野球博物館巡りにも精を出す。『SLUGGER』『J SPORTS』『まぐまぐ』のポータルサイト『mine』でも執筆中で、03-08年はスカパー!で、16年からはDAZNでMLB中継の解説を担当。著書に『ビジネスマンの視点で見たMLBとNPB』(彩流社)

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