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中日の開幕シリーズ前売りチケット半額は、新型車の叩き売りに等しい愚かな行為

豊浦彰太郎Baseball Writer
開幕シリーズでナゴドを満員にする方法は値引き以外にもあるはずだ(写真:アフロ)

中日ドラゴンズは、3月29日からの地元開幕シリーズとなる対広島3連戦の前売りチケットを約半額で販売するらしい。はっきり言って感心しない。

割引販売されるのは前売りのみで、当日券は通常価格とのことだ。前売りの割引は80周年記念事業の一環だということだが、スポーツ紙の報道によると、今季同様火曜日からだった昨年の地元開幕シリーズが必ずしも満員にならなかったことが背景にありそうだ。「開幕シリーズは絶対満員にせい!」という指示がトップから発令され、実務部隊が過剰反応したのではないか。

もちろん、ファンとしては嬉しい企画だ。ぼくも3月29日は地元ハマスタでのDeNAの開幕戦を観に行くが、翌日は「半休取ってナゴド行くか」という気にもなる。

しかし、ビジネスの観点からはどうかと思う。本来チケット価格と言うものは、ホテルや航空券ほどではなくても、需給バランスの観点から対戦カードや曜日によって変動してしかるべきだ。実はこれがファンにとっても公平平等なのだ。

したがって、割引価格が設定されることはとても自然なことなのだけれど、これは訴求ポイントが特にないゲームで設定されるべきで、開幕シリーズや週末の試合、交流戦や特定の人気カードを避けて設定するのが定石だ。

値引きをするということは、球団という企業にとっては値引き分の販促予算を投入することを意味している。年間の販促予算が一定とするなら、どのカードにどんな種類の販促企画(値引きだけではなく、プレゼント付きチケットや、イベントの併催などだ)を効果的に配分するかがマーケティング部門の腕の見せ所だ。しかし、開幕シリーズという(仮に昨季は満員にならなかったとしても)本来「ウリ」のある商品にいきなり値引きを設定するのは自殺行為だと思う。クルマなどの耐久消費財の販売においては新型の頃は値引きを提示せず、モデルチェンジ前という商品力が落ちた時期にガバっと値引きする。今回のドラゴンズの企画は、新型車の発表会で大型値引きを折り込みチラシで訴求するのに等しいと思う。

シーズンのスタートとなる開幕戦にファンを集めたければ、それは値引きではなくシーズンの到来を待ちわびた新のファンの琴線に触れる魅力的な試合前のセレモニーが相応しいと思う。80年の歴史を誇るドラゴンズには、そんなセレモニーにぴったりの伝えるべき歴史や、登場するだけで観客を熱狂させる偉大なOBがたくさんいるではないか。

Baseball Writer

福岡県出身で、少年時代は太平洋クラブ~クラウンライターのファン。1971年のオリオールズ来日以来のMLBマニアで、本業の合間を縫って北米48球場を訪れた。北京、台北、台中、シドニーでもメジャーを観戦。近年は渡米時に球場跡地や野球博物館巡りにも精を出す。『SLUGGER』『J SPORTS』『まぐまぐ』のポータルサイト『mine』でも執筆中で、03-08年はスカパー!で、16年からはDAZNでMLB中継の解説を担当。著書に『ビジネスマンの視点で見たMLBとNPB』(彩流社)

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