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運営会社を買収したベイスターズのハマスタ「ボールパーク構想」は悪くない、でも何も新しさはない

豊浦彰太郎Baseball Writer
今後数年間でハマスタは生まれ変わりそうだ(写真:YUTAKA/アフロスポーツ)

ちょっと旧聞に属するが、横浜DeNAベイスターズによる本拠地・横浜スタジアム運営会社の子会社化と同球団のボールパーク化構想について書いてみたい。

運営会社の買収とともに将来の「ボールパーク構想」が発表されたのは21日のことだが、ぼくは実はその2日前の19日に、付近の高層ビルからハマスタを見下ろす機会に恵まれた。横浜に住んで22年になるが、そんなアングルでしげしげと球場を見つめたのは初めてのことだった。その時は、オレンジ色のシートの取り外し作業が行われていたのが見てとれた。後で球団側の発表内容をチェックすると、チームカラーのブルーへのシート色変更が予定されているらしく、「ああ、そうだったのか」と感じた。

ひょっとすると、本件に関し誤解されている方がいるかもしれないが、ベイスターズが買収したのは運営会社であって球場そのものではない。ハマスタの所有は、今後とも横浜市だ。では、運営会社を買収するとはどういうことか?今回のDeNAのケースでは、取得株式は76.87%に達している。これで、会社の定款変更すら可能となった(2/3超が必要)。

これを、関東近郊の例と比較するとどうか。運営会社を小会社化したということは、千葉ロッテマリーンズが千葉市所有のQVCマリンフィールドの管理責任者になっていることよりも球場運営への影響力の点では遥かに上で、埼玉西武ライオンズが同じ西武ホールディングス傘下の西武鉄道が所有する西武プリンスドームの運営会社であることよりもやや下に位置すると言えるだろう。当日の球団の会見でも、池田球団社長その日披露された数々のアイデアは「法的、技術的に可能かどうかは別」としているが、所有が横浜市である以上ハードルは決して低くないだろう。

みなさんは、この日披露された球場の今後の9つのコンセプトをどう捉えただろうか?

それらは、1)COLOR(色)、2)ENTERTAINMENT(イベント・演出)、3)SEAT(シート)、4)HISTORY(歴史)、5)BALL”PARK”(野球の公園)、6)FOOD(食)、7)GREEN(芝)、8)BEYOND(超える)、9)LANDSCAPE(景観)だ。

翌日以降のメディアの報道を見ると、これらのキーワードに象徴される今後の球場作りのコンセプトは概ね絶賛されている。ぼくも基本的には良いと思う。是非、全部実行に移してもらいたいとおもうし、実際にアメリカなどで70の球場を視察したという池田社長はそれなりに一生懸命勉強したのだと思う。

だけど、ちょっぴりひねくれたことを言うならNothing New(目新しいものは何もない)、と思う。ここに挙げられた9つは、90年代以降アメリカの球場づくりで重視された項目の寄せ集めなのだ。池田社長は視察に置いて「何があるのか」を一生懸命見て持って帰ろうと努めたのだとは思うが、多くの見聞から新しいインスプレーションを得ようとはしていなかったのだと思う(じゃ、オマエに何か新しいアイデアはあるのか、と言われると苦しいのだけれど)。

かなり昔の話だが、1987年の東京モーターショー(会場は晴海だった)で日産自動車がMID4というへんちくりんなコンセプトカーを展示したことがあった。当時は日本車のテクノロジーが日進月歩だった時代で、当時自動車のハイテクの象徴とされていたDOHCや、ターボによる過給、エンジンのミドシップレイアウト、フルタイム4輪駆動に4輪操舵というおよそ考えうる要素をてんこ盛りにした「夢のクルマ」だった。多くの自動車好き(いまや死に絶えつつある?)は熱狂したが、冷静に見ると個別の技術は全て既存のものでNothing Newだった。そして、それらの技術のショーケースぶりが何のためのものか?何を実現するためのものか?さっぱり分からない20世紀の珍車でもあった。

ちょっぴり極端すぎる比喩だったかもしれないが、今回のハマスタ9のキーワードは21世紀の野球界のMID4だったようにも思える。横浜には日産自動車の本社もあるし。

Baseball Writer

福岡県出身で、少年時代は太平洋クラブ~クラウンライターのファン。1971年のオリオールズ来日以来のMLBマニアで、本業の合間を縫って北米48球場を訪れた。北京、台北、台中、シドニーでもメジャーを観戦。近年は渡米時に球場跡地や野球博物館巡りにも精を出す。『SLUGGER』『J SPORTS』『まぐまぐ』のポータルサイト『mine』でも執筆中で、03-08年はスカパー!で、16年からはDAZNでMLB中継の解説を担当。著書に『ビジネスマンの視点で見たMLBとNPB』(彩流社)

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