マエケン契約の本質的な問題に突っ込まないメディア
前田健太とドジャースとの契約に関しては、当初FOXのクリストファー・メオーラ記者が「8年総額2400万ドル」と報じていたが、ここに来てニューヨーク・ポスト紙のジョエル・シャーマン記者が「総額は2500万ドル」とのツィートを発信しているようだ。詳細は依然として不明だが、契約ボーナスとして100万ドルが設定されているのかもしれない。
しかし、ここまでの日本国内での本件に関する報道に関して「不思議だなあ」と思うことがある。それは、契約内容に関する「論評」がほぼ皆無であることだ。
ぼく個人としては、この契約はいささかショックだった。前田ほどの実績がある投手が、固定部分は年平均300万ドル(総額をメオーラ記者の報じる2400万ドルとした場合)という、メジャー平均年俸(約400万ドル)を遥かに下回る金額しか得られなかったからだ。1000-1200万ドル/年という出来高払いは設定されているが、逆に言えばドジャースは「働いてくれたら払います」ということであり、リスクは全て前田側にあるのだ。そして、このような有利な条件でドジャースは8年も前田を拘束できる。
なぜ、この程度の契約しか得ることができなかったのか?その交渉戦略に問題はなかったのか?そもそも、前田の力量に関する評価において日米の温度差はどうだったのか?議論を尽くすべきポイントはいくつもある。
しかし、ぼくがここまで目にしてきたメディアの見出しは、「男気契約」「マー超え 8年契約」「超大型出来高」など、事の本質から目をそむけたようなものがほとんどだった。
時には厳しい批評も含めた「論評」がほぼ皆無なのは、何も本件に関してだけではない。記憶に新しいところでは、先のプレミア12準決勝での侍ジャパンの韓国戦での逆転負けに関してもそうだった。
あの敗戦には、ミクロ的には小久保監督の9回表の投手交代の是非、もう少しスコープを広げるとプレミア12全体での選手起用方針、マクロ的には侍ジャパンの編成自体まで議論・論評のポイントはいくつもあった。それらを、感情に流されることなく階層ごとに理論的に評した記事はほとんどなかった。この時は、ネット上で心ないファンによる近視眼的な小久保監督へのバッシングが展開されたが、それもまずプロたるメディアがファン間の議論のたたき台となるべき論評を展開していなかったところに依る部分も大きかったのでは?とぼくは思っている。
おそらく、メディアと球団が抜き差しならぬ関係にあり批判記事が憚れる環境であること、評論家は元選手がほとんどで仲間である現場に対して厳しいことを言い難い素地があることなどがその根本原因だろう。ぼくもメディア主宰のサイトで、「球団に対する批判が含まれているので」と記事を削除されたことがある。正直言って健全ではない。