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「中日平田は陥落更改」公平な交渉とするために求められる調停制度の改善と使用促進

豊浦彰太郎Baseball Writer
平田はプレミア12では侍ジャパンの一員として活躍した(写真:ロイター/アフロ)

12月20日、中日の平田良介が2度目の契約交渉でサインした。球団の提示金額は前回同様2300万円増の7000万円だったと報道されている。

初回の交渉後は「希望額と1000万円くらいの開きがある」、「査定基準が毎年変わっており信頼が置けない」という主旨のコメントを出していた平田も陥落した結果となった。

サインの理由として「査定基準の改善について球団から一定の理解を得た」ということが挙げられている。しかし、球団が「理解を示した」ということは「何も譲歩しなかった」ということであり、「何もコミットしなかった」ということだ。平田としては、「これ以上いくら粘ってもムダ」と諦めざるを得なかったというのが実情だろう。

平田は今季、試合(129)、打席(554)、安打(137)、四球(63)、出塁率(.367)などで自己ベストを記録。先のプレミア12でも侍ジャパンの一員として活躍したことは記憶に新しい。来季からは主将を務めることになっており、ドラゴンズの顔だ。しかし、球団の財布の紐は彼自身が期待していたよりも固かった。

ここで球団側と平田、おのおのの主張のどちらが正当であったかを論ずるつもりはない。しかし、「公平な交渉では無いなあ」と感じてしまう。今回の平田に関わらず、交渉が平行線を辿ると結局選手が折れざるを得ない。プロ野球選手は個人事業主だが、保有権は原則として球団が握っており、「中日の条件には満足できないから他球団と契約する」という訳には行かないからだ。

交渉が暗礁に乗り上げた場合は、選手、球団とも「年俸調停」を申請できる。調停委員会という第三者委員会が裁定を下してくれるのだ。しかし、これを活用する選手は少ない。「カネで揉めている」というイメージを嫌う風潮があることも影響しているのだろう。メジャーリーグでも調停に裁定を委ねるケースはあまり多くない。しかし、そこに至るシステムは健全だ。調停ではNPBのように「間を取る」ようなことはせず、必ず選手、球団どちらの主張がより正当かを判断する。したがって、どちらもがめつすぎる主張をすると負ける懸念が高まるため、より正当な主張とするか調停寸前には調停を避け「歩み寄ろう」とする経済力学が働く。

別に今回の平田が「泣き寝入りして損をした」というつもりはない。しかし、わだかまりは残っているだろう。それは良くない。NPB選手会は、MLB式のシロクロはっきりつける調停制度の導入を目指し具体的なアクションを起こすべきだし、選手に対しても「調停持ち込みを恐れるな」という啓蒙を行うべきだ。「孤独な戦いをする必要はない、選手会がバックアップしている」というメッセージを選手達に送ることから始めるべきだろう。

Baseball Writer

福岡県出身で、少年時代は太平洋クラブ~クラウンライターのファン。1971年のオリオールズ来日以来のMLBマニアで、本業の合間を縫って北米48球場を訪れた。北京、台北、台中、シドニーでもメジャーを観戦。近年は渡米時に球場跡地や野球博物館巡りにも精を出す。『SLUGGER』『J SPORTS』『まぐまぐ』のポータルサイト『mine』でも執筆中で、03-08年はスカパー!で、16年からはDAZNでMLB中継の解説を担当。著書に『ビジネスマンの視点で見たMLBとNPB』(彩流社)

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