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「ロマン」より「精度」、MLBビデオ判定の未来予想図

豊浦彰太郎Baseball Writer

自宅のカレンダーが9月になったこの日、ぼくは衛星放送でメッツ対フィリーズのゲームを観戦した。8月17日に北米観戦旅行から帰国してから、NPB / MLB、ライブ / テレビを問わず、初めての野球観戦だった。

好ゲームだった。メッツの先発、42歳のバートロ・コロンが絶妙の投球を見せた。ちょうど100球を投げ、8回無失点。9回はクローザーのユーリス・ファミリアがピンチを演出?し、結果的に試合を盛り上げたが、それでも2時間23分で終了した。

この試合でちょっと興味深いシーンがあった。7回裏、1死からメッツのルーキーのマイケル・コンフォートが四球で出塁。すかさず盗塁を決めた。これが彼のキャリア初盗塁のはずだった。しかし、フィリーズはチャレンジ権を行使。ビデオでの確認を要望した。そして、その結果は「アウト」。

タイミングは明らかにセーフだったが、二塁に頭から滑り込んだコンフォートはセカンドベースに手が触れてからも、当然ながらそのまま進行方向にスライド。そして、立ち上がるまでに一瞬体がベースから離れた。一方で、捕手からの送球を受けた遊撃手のグラブは、終始コンフォートの体に触れたままだったのだ。

放送では、解説者氏がこの判定はとても残念だとコメントした。走者とバッテリーの戦いである盗塁行為自体は、完全に走者コンフォートの勝利だった。本来、盗塁の判定において映像解析に助けを求めるとすれば、人間の目では判断しかねる微妙なタイミングに関してであるべきで、盗塁成功後に一瞬ベースから離れたか否かを見つけ出すのは、チャレンジの本来の目指すところではないはず、というのが彼の主張の主旨だった。

心情的には、100%解説者氏の意見に同感だ。しかし、これは「アウト」の判定を下さざるを得ないだろう。映像に解を求める方針を打ち出した以上、そうせざるを得ない。

そもそも、ぼくはチャレンジの導入にはあまり賛成ではない。古臭いアナログ人間だということもあるが、最新の機器を用いてまで、判定精度を上げる必要性を感じていないからだ。もちろん、誤審は少ない方が良い。そのためには、審判はスキル向上を図ってもらいたいが、人間では判別できないほど高度な領域までその精度を上げたところで、野球は果たして面白くなるのか?というのが僕の主張だ。選手や球団関係者にとっては、神の領域まで判定の正確性を持って行くことはとても重要なのだろう。しかし、所詮異国のファンであるぼくには、そこまでのニーズはない。

しかし、MLBが2008年にホームラン判定に限定しビデオでの確認を導入した時から、こうなることは時間の問題だった。「誤審もゲームの一部」というロマンチシズムより、限定用途ではあっても映像での確認による精度向上を支持した以上、後戻りはできないのだ。したがって、今日の判定も解説者氏には悪いが当然だろう。

人間のプレーを人間が判断するのではなく、少しでも精度が高い方が良いことに重きを置いた以上、「聖域」はないはずだ。ぼくは将来、機械がストライク・ボールを判定する時代がきっと来ると思っている。それを阻む要因は、技術的精度とコストしかないからだ。それらの問題もいずれは解決する。現在52歳の僕は、幸いにしてそんな野球を見ないで済みそうだが。

Baseball Writer

福岡県出身で、少年時代は太平洋クラブ~クラウンライターのファン。1971年のオリオールズ来日以来のMLBマニアで、本業の合間を縫って北米48球場を訪れた。北京、台北、台中、シドニーでもメジャーを観戦。近年は渡米時に球場跡地や野球博物館巡りにも精を出す。『SLUGGER』『J SPORTS』『まぐまぐ』のポータルサイト『mine』でも執筆中で、03-08年はスカパー!で、16年からはDAZNでMLB中継の解説を担当。著書に『ビジネスマンの視点で見たMLBとNPB』(彩流社)

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