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「300奪三振投手は絶滅」は本当か? 日本人投手が得意とするスプリッターがその復活の鍵かも?

豊浦彰太郎Baseball Writer

興味深い記事をウェブで見つけた。『SBネーション』のグラント・ブリスビー記者による"Will we ever see another 300- strikeout pitcher?" (300奪三振投手は再び現れるか?)だ。

It's been 13 seasons since the last 300-strikeout pitcher, and pitchers are throwing fewer innings. Will anyone get to the milestone in the near future?

年間300奪三振が最後に達成されてから早13年目のシーズンがやって来る。そして、その間投手が投げるイニング数は減少した。近い将来、このマイルストーンに到達する投手は現れるのだろうか?

メジャーリーグでは、1990年代以降に三振が激増した。ちょうどその頃から空前のホームランブームが到来し、どの打者も一発を狙いブンブン振り回すようになり、その結果以前にも増して三振を厭わなくなったことが大きく影響していると言われている。

しかし、投手の三振奪取率は急上昇したのに、同時にタマ数や投球回数の制限は一層厳しくなった。そして、年間300奪三振の投手は消え去ってしまった。

現時点で最後の300奪三振投手は、2002年のランディ・ジョンソンとカート・シリングのダイヤモンドバックスコンビだ。この年2人は合計で650三振を奪っている。

ジョンソンとシリングの例を持ち出すまでもなく、年間300奪三振は極めてわずかな超エリートだけが達成しうる金字塔だ。ブリスビー記者は以下のように述べている。

Johnson and Nolan Ryan each struck out 300 or more in six different seasons. Sandy Koufax and Schilling both did it three times. Walter Johnson, Rube Waddell, Pedro Martinez, J.R. Richard, and Sam McDowell did it twice. There were a few frequent fliers, but just 14 pitchers have struck out 300 in a season out of the roughly 8,135 who have ever thrown a pitch.

ジョンソンとノーラン・ライアンは300奪三振をそれぞれ6度記録しているし、サンディ・コーファックスとシリングは3度ずつ達成している。ウオルター・ジョンソンとルーブ・ワッデル、ペドロ・マルティネス、JR・リチャード、サム・マクドウェルは2度だ。常連さんも中にはいるが、(これまでメジャーリーグに登場したことのある)8135人の投手のうち、300奪三振を達成したことがあるのは14人でしかない(訳者注 300奪三振は33度記録されているが、達成者の多くは上記の通り複数回達成しているためだ)。

それでは、再び300奪三振が達成されるとすれば、何が前提になるだろうか?ブリスビー記者は以下の3つを挙げている。

投球回数が増えること、

突然変異的な変わった投手が出現すること、

打者の三振率がさらに上がること、

そして、それらはあまり期待できそうもないと結論付けている。

個人的には、ブリスビー記者は大事なことを見落としていると思う。

それは、「スプリット・フィンガー・ファストボール(通称スプリッター、またがSFF)を投げる投手が増えること」だ。これは、あくまで投球哲学の問題なので、大いに可能性がある(もちろん、現代では極めて稀になった年間250回レベルのイニング数は必要だが)。

前述の通り、300奪三振を3度達成のシリングは、96年までは200奪三振すら達成したことがない打たせて取るタイプのシンカーボーラーだったが、97年に突如319個で翌年もジャスト300個と大変身した。一般的には、これはあのロジャー・クレメンスからもっと野球に打ち込むよう諭され、自らの姿勢を恥じて悔い改めたため、と言われている。

もちろんその効果もあったのだろうが、それだけで急に大化けできるものではない。実際には、シリングは97年からスプリッターを投げ始めたことが理由だった。それまで、ゴロを打たせる投球を信条としてきたが、その年からスプリッターで三振を奪う投手にモデルチェンジしたのだ。

他にも例がある。マイク・スコットは、84年まではメジャーでのキャリア6年で年間100奪三振すら一度もない二流投手だったが、スプリッターを会得して2年目の86年には306Kを記録している。

このように、ストンと落ちるスプリッターは三振を奪うための伝家の宝刀なのだが、その後「ヒジを痛めやすい」Death Pitchとして、急速に用いられなくなった。

しかし、スプリッターとヒジの故障の因果関係は、実は医学的には証明されていない。ある意味では「都市伝説」なのだ。その証拠に、あれほど神経質にスプリッターを回避しながらも、アメリカではヒジを痛める投手が後を絶たない。

先発と救援の違いこそあれど、レッドソックスの上原浩治の驚異的な奪三振率の高さは球界ナンバーワンのスプリッターの使い手であればこそだ。実は、考え方の転換一つで300奪三振投手は再び出現する可能性は十分あると言って良いだろう。

Baseball Writer

福岡県出身で、少年時代は太平洋クラブ~クラウンライターのファン。1971年のオリオールズ来日以来のMLBマニアで、本業の合間を縫って北米48球場を訪れた。北京、台北、台中、シドニーでもメジャーを観戦。近年は渡米時に球場跡地や野球博物館巡りにも精を出す。『SLUGGER』『J SPORTS』『まぐまぐ』のポータルサイト『mine』でも執筆中で、03-08年はスカパー!で、16年からはDAZNでMLB中継の解説を担当。著書に『ビジネスマンの視点で見たMLBとNPB』(彩流社)

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