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伊集院光氏が来店して「予約が無効」の悲劇! 飲食店によるダブルブッキング=二重予約の“裏側”

東龍グルメジャーナリスト
(写真:イメージマート)

飲食店の予約

飲食店に訪れる際に予約をしますか。

イートインやファストフード、ファミリーレストランであれば、予約することはあまりないかもしれません。あったとしても、混雑日時だけでしょう。しかし、おまかせコースだけであったり、一斉スタートであったり、大人の空間を標榜したりしているレストランなどであれば、予約が必須です。

では、予約して訪れたのに、既に席が埋まっていて、利用できなかったことはあるでしょうか。

予約が無効

タレントの伊集院光氏がX(旧Twitter)にポストした内容が話題を呼びました。

食べログでご飯やさん予約して、確定メールが来て、みんなに連絡して、支度して向かって、店の前で携帯みたら「ご希望のお席がとれなかったので予約は向こうになりました」だとさ。確定メールって何?ま、例によって泣き寝入り。おそらくそれにも同意してるんだろ俺がw

https://twitter.com/HikaruIjuin/status/1706567941087793540

(原文ママ)

食べログの予約システムから飲食店を予約。確定メールも届いたので、無事に席が確保できたと思います。しかし、飲食店に訪れてみると、希望の席はとれなかったので、予約は無効だといわれたというのです。

不適切な表記

今回の事案について、「逆ドタキャン」という表記も見かけられますが、あまり適切ではありません。

飲食業界では、直前キャンセルをドタキャン、無断キャンセルをノーショーと呼びます。伊集院氏は店に訪れてから予約が無効だと告げられました。“直前”にキャンセルされたわけではないので、ドタキャンではありません。

「逆ドタキャン」ではないからといって、「逆ノーショー」というのも違和感があります。ノーショーは「No Show」=「現れない」ということから名付けられました。したがって、「逆ノーショー」は「現れないのでキャンセル」の逆になりますが、これでは何のことなのか想像がつきません。

飲食業界では、受け入れ可能の席数を超えて予約を受け入れることを、ダブルブッキング=二重予約、もしくは、オーバーブッキング=過剰予約と呼びます。ホテルや飛行機の予約でも同じです。

ダブルブッキングやオーバーブッキングは多くの人が聞いたことがある言葉なので、そのまま使ってよいのではないでしょうか。

ダブルブッキングとは

ダブルブッキングは、飛行機の席やホテルの客室の予約で、キャンセルされる分を見越して意図的に行われることもあります。しかし、飲食店では、たとえ繁忙期であったとしても、意図的にダブルブッキングを行うことはありません。

飲食店の席数は、飛行機の席数やホテルの客室数と比べればだいぶ少ないので、ダブルブッキングを故意に行うのはリスクが高いからです。

では、当事案のように、なぜ飲食店でダブルブッキングが起きるのでしょうか。

それは、スタッフが予約の経路を適切に捌き、しっかり管理できていないからです。

予約の経路

予約の経路は複雑です。

昔であれば、電話で予約するか、飲食店に訪れて直接予約する来店時予約かのどちらかでした。ちなみに、来店する日時を予約する「来店予約」や、OTAなどを介さずに予約する「直接予約」と区別するために、「来店時予約」と表記しています。

来店時予約では、食事後が一般的です。食事してその飲食店が気に入ったという流れから、次回の予約を打診するというもの。超予約困難店では、来店時予約でも予約がとれないことがあり、それが取れるようになると、見事“予約枠をもっている客”=常連客の仲間入りです。

食事後の予約でなければ、客として利用した時ではなく、飛び込みでいきなり訪れて予約することになります。その場合には営業中かアイドルタイムかで応対が異なるでしょう。営業中であれば、オペレーションが最優先なので、ただでさえ予約が取りにくい飲食店で、予約応対してもらえることは難しいです。アイドルタイムであればまだ可能性はありますが、通常の経路から予約するようにいわれることも少なくありません。

電話予約でも来店時予約でも、予約台帳という紙に記入するのは同じです。しかし現代ではインターネットが発達し、これらに加えてオンラインで予約できるようになりました。

飲食店予約システムからであったり、SNSのダイレクトメッセージやメッセージアプリを経由したりして予約できます。しかも、飲食店予約システムではグルメサイトや飲食店予約サービスなど、それなりの大手でも10を超えるサービスがあったり、SNSのダイレクトメッセージではFacebookやInstagram、Xがあったり、メッセージアプリではLINEやWeChatがあったりと、多岐に渡るのです。

こういった予約経路の複雑さがダブルブッキングを誘発する一因となっています。

予約の管理

予約経路が複雑であれば、その管理方法も複雑になります。

昔であれば、予約の管理は全て紙で行われていました。それが今では、前述したように、様々な予約経路があります。紙の予約台帳であれば複数の紙に記入されることはありませんが、オンラインでは複数のシステムで予約が管理されています。さらには、SNSやメッセージアプリは予約システムではなく、単なるコミュニケーションツールなので、予約を管理する仕組みはありません。

複数の飲食店予約サービスを一括で管理する、統合型の飲食店予約サービスも存在します。しかし、当然のことながら、本当に全ての飲食店予約サービスを網羅しているわけではなく、紙に記入した予約やメッセージアプリからリクエストされた予約を管理できるわけでもありません。

レガシーな紙、複数ある飲食店予約サービス、口上に近いメッセージアプリを包括的に管理することは容易ではないのです。

スタッフの対応

予約の経路は複雑さを極め、その管理も簡単ではありません。そして、最終的に対応するのが飲食店のスタッフです。

紙の予約台帳が改竄されたり、飲食店予約サービスやメッセージアプリにバグが存在したりしない限り、基本的にダブルブッキングの責務はスタッフに帰されます。

来店時予約や電話予約では、スタッフが、営業日や営業時間を間違えていたり、来店時間や予約人数を聞き違いしていたり、卓数やテーブル人数を勘違いしていたり、イレギュラーな理由による営業時間の変更を把握できていなかったりすることで、ダブルブッキングが発生します。スタッフが正しく予約を捌けなければ、紙への記入であったとしても、オンラインの予約台帳への登録であったとしても、ダブルブッキングになるのは同じです。

飲食店のスタッフの業務は多岐に渡ります。営業中であれば、注文をとって、キッチンに伝えて、料理やドリンクを提供するだけではありません。テーブルを片付けたり、セッティングしたり、電話やメールの応対をしたり、トイレをチェックしたり、会計したりする必要があります。その間にゲストと会話を交わしたりもするのです。アイドルタイムであったとしても、新しいメニューを考案したり試作したり、仕込みを行ったり、発注を行ったり、仕入れ業者の応対をしたり、電話やメールを返したり、テーブルウェアをメンテナンスしたり、卓をセットアップしたり、レジを〆たり、現金を預けたり崩しに行ったりと、こちらも挙げるとキリがありません。このように細かい業務をこなしながら、予約を管理しているのです。

最も効率がよく、エラーが発生しないのは、飲食店予約サービスをひとつだけ利用すること。スタッフを介した来店時予約でさえ拒否しなければなりません。しかしこれでは、サービスレベルが低下したり、予約の間口が極度に狭まったりするので、よほどの超人気店でない限り、採用するのは難しいでしょう。

意図的なダブルブッキング

私は取材やリサーチではもちろん、プライベートでも多くの飲食店に訪れており、実際に通常の食事を体験しています。

ダブルブッキングは頻繁に起こるものではないので、多くを見聞きしているわけではありません。ただ、その場に遭遇していたり、話を聞いたりすることはあります。

飲食店が意図的にダブルブッキングするのは、ダブルブッキングしてまで来てもらいたいゲストがいる場合です。飲食店のアワードやランキングの審査員であったり、極めて影響力のある食通やフーディーであったり、太客につながりそうな新規客であったり、超のつくような上客から紹介されたゲストであったりと、その事情は千差万別。

飲食店にとって、絶対に食べに来てもらいたいゲストであれば、ダブルブッキングという選択肢も採用できるということです。

ただ、ほとんどの飲食店では、そのような状況に陥ることはありません。意図的にダブルブッキングするようなことはまず起きないので、安心してもらいたいです。

リカバリーが重要

ダブルブッキングしてしまったら、飲食店はどのようにリカバリーすればよいでしょうか。

それは、謝罪、代替店、アフターケア、再発防止策を行うことです。

まずダブルブッキングしてしまったことを謝ることが重要。ゲストにとって色々なシチュエーションがあります。ここぞという時のデートであったり、家族との記念日であったり、親族や友人との大切な会食であったり、会社の接待や決起会であったりと、その飲食店が最適だと思って、ゲストは予約しているのです。

ホストは恥をかかされて納得できず、同行者は唖然として状況を飲み込めません。このようなシチュエーションを生み出してしまった飲食店は、とにかく謝るしかありません。

次に重要となるのは代替店。自分たちの飲食店と同等レベルの飲食店を予約して案内しなければなりません。自身の店が予約困難店であれば、同じように予約困難店を予約しなければならないので、ハードルは高くなります。ダブルブッキングが発覚したのが、事前であればまだしも、当日であればより困難を極めることでしょう。なぜならば、予約できる確率はさらに低くなり、営業も既に始まっているからです。全てのスタッフがオペレーションを開始している中で、通常業務に加えて、予約困難の代替店も探さなければなりません。

3つ目はアフターケアです。ダブルブッキングの被害に遭ったゲストが、無事に代替店を利用できたかどうかを確認したり、再度謝罪したり、次の予約を優先的に案内したりと、手厚いケアが必要。次回来店時に、多少のサービスを上乗せできればベストです。

そして最後は、再発防止策。予約経路を整理し、予約管理をできるだけ絞り、スタッフに予約対応のトレーニングを行う必要があります。ダブルブッキングの原因がどこにあるかを見定め、改善していかなければ、また同じようなミスが発生してしまうでしょう。

ダブルブッキングは双方にとって不利益

ダブルブッキングは、飲食店とゲストの双方にとって、不幸な事案です。

飲食店は“最悪の事態”であるダブルブッキングが起きないように最善を尽くし、ゲストはダブルブッキングという“最悪の事態”に直面しても裏側を知ることによって少しはダメージを減らせるかもしれません。

全てのゲストが全ての飲食店で、予約した通りに利用でき、素晴らしい食体験が紡がれることを願っています。

グルメジャーナリスト

1976年台湾生まれ。テレビ東京「TVチャンピオン」で2002年と2007年に優勝。ファインダイニングやホテルグルメを中心に、料理とスイーツ、お酒をこよなく愛する。炎上事件から美食やトレンド、食のあり方から飲食店の課題まで、独自の切り口で分かりやすい記事を執筆。審査員や講演、プロデュースやコンサルタントも多数。

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