Yahoo!ニュース

東京でたった2店の星つき「牛肉料理」はどこ? 肉割烹ブームの仕掛け人が語る開業したワケ

東龍グルメジャーナリスト
肉割烹 上 (C) 東龍

割烹が人気

肉割烹というジャンルが確立されてから久しいです。

目の前でつくってもらえるダイナミックな割烹スタイルで、黒毛和牛を主役にした日本料理を味わえることが人気の秘密。現在トレンドになっているカウンターガストロノミーにおける、ひとつの業態であるといえます。

肉割烹の先駆け

「肉割烹 上」エントランス (C) 東龍
「肉割烹 上」エントランス (C) 東龍

たくさんある肉割烹の中でも、先駆けとなったのが西麻布にある「肉割烹 上」。人気の高級焼肉店「うしごろ」を運営するサングが2017年8月3日にオープンしました。「ミシュランガイド東京 2019」から一つ星として掲載され、現在も維持しています。肉割烹は数多くありますが、「ミシュランガイド東京2023」の料理カテゴリー「牛肉料理」で、星を獲得しているのは僅か2店舗しかありません。もう1店は銀座にある「おにく 花柳」です。

「肉割烹 上」で料理長を務めるのは、1980年福岡県生まれの大久保丈太郎氏。服飾専門学校卒業後、アパレル業界から飲食業界に転職したという異色の経歴をもちます。天ぷら店や割烹料理店で修業してから、2014年にサングへ入社し、「肉割烹 上」を立ち上げるに至りました。

特注の炉窯

特注の炉窯 (C) 東龍
特注の炉窯 (C) 東龍

店内にはカウンター7席と個室1部屋4席が設けられています。目の前で楽しめるカウンター席がオススメですが、プライベートな空間で過ごしたいのであれば、個室を利用するのもよいでしょう。

カウンターは鮨店と同じような距離にして、迫力感がありながらも、広くて居心地のよい空間。中央には特注の炉窯が2つ設けられており、どの席からでもよく見えます。炉窯は左右に分かれており、左は直火で、右が遠火。焼き方が変えられるようになっているのも、こだわりどころです。

「おまかせ」のみ

カウンター席 (C) 東龍
カウンター席 (C) 東龍

提供されているのは、大久保氏が贈る「おまかせ」(27,500円)のみ。メニューは1ヶ月半から2ヶ月で新しくなり、いつ訪れても旬の食材が用いられています。兵庫県の但馬牛系統にこだわっており、肉質等級は4、牛脂肪交雑基準(BMS)は6から7の牛肉を使用。

大久保氏が紡いだ「おまかせ」料理の数々を紹介していきましょう。

トウモロコシ摺り流し

胡麻豆腐、鼈甲餡、帆立

トウモロコシ摺り流し 胡麻豆腐、鼈甲餡、帆立 (C) 東龍
トウモロコシ摺り流し 胡麻豆腐、鼈甲餡、帆立 (C) 東龍

優しい甘味のあるトウモロコシのすり流しの下には、やわらかい胡麻豆腐とフレッシュな帆立。上には穂紫蘇のアクセントがあります。涼しげなテクスチャと軽やかな味わいで、シャンパーニュによく合う先付けです。

お肉の小丼

赤身肉カメノコ、富山白海老、北海道浜中馬糞ウニ、燻製キャビア、酢飯、酢橘

お肉の小丼 赤身肉カメノコ、富山白海老、北海道浜中馬糞ウニ、燻製キャビア、酢飯、酢橘 (C) 東龍
お肉の小丼 赤身肉カメノコ、富山白海老、北海道浜中馬糞ウニ、燻製キャビア、酢飯、酢橘 (C) 東龍

酢飯の上には、タタいたやわらかな赤身肉のカメノコ、濃厚な北海道産のバフンウニ、とろっとした食感の富山の白海老をのせ、藁で燻した香り高いキャビアをあしらいました。様々な旨味が交差し、酢橘を搾って食べると、爽やかな味わいとなります。

のどぐろ炭焼き

辛味大根

のどぐろ炭焼き 辛味大根 (C) 東龍
のどぐろ炭焼き 辛味大根 (C) 東龍

千葉県産ノドグロは、長崎県対馬産よりも、脂が軽いです。丁寧に炭火焼きし、ジューシーで滋味のある旨味をたっぷりと湛えています。辛味大根がピリッとしたアクセント。

春巻き

8ヶ月熟成牛生ハム、ブルーチーズ、トリュフ

春巻き 8ヶ月熟成牛生ハム、ブルーチーズ、トリュフ (C) 東龍
春巻き 8ヶ月熟成牛生ハム、ブルーチーズ、トリュフ (C) 東龍

たっぷりのブルーチーズを包んだ春巻き。上には惜しげもなくオーストラリア産のトリュフが削られます。ブルーチーズの濃厚なコク、春巻きのパリパリ感、トリュフの幽香が一体となっていました。懐紙が添えられているので、手で持って熱々を感じながら食べるのがよいです。

北海道網走毛蟹茶碗蒸し

北海道網走毛蟹茶碗蒸し (C) 東龍
北海道網走毛蟹茶碗蒸し (C) 東龍

毛蟹の滋味がふんだんに堪能できる茶碗蒸し。毛蟹の身もたっぷり使われているので、食べ応え満点です。ふくよかな日本酒を合わせると、茶碗蒸しの味わいがより膨らみます。

しゃぶしゃぶ

神戸ビーフ サーロイン

ホワイトアスパラ

ポン酢

しゃぶしゃぶ 神戸ビーフ サーロイン ホワイトアスパラ ポン酢 (C) 東龍
しゃぶしゃぶ 神戸ビーフ サーロイン ホワイトアスパラ ポン酢 (C) 東龍

大判の神戸ビーフのサーロインを用いた贅沢なしゃぶしゃぶ。北海道産のホワイトアスパラガスは太くて食べ応えがありながらも、繊細な青味です。葱ポン酢の酸味が箸を進めさせてくれます。

握り2種

イチボ、ランプ

山葵、あたり葱、地辛子

左がイチボ、右がランプ (C) 東龍
左がイチボ、右がランプ (C) 東龍

大久保氏は握りもできます。シャリはオリジナルで、白酢9割と赤酢1割の絶妙な酸味。希少部位のイチボの握りはやわらかく、赤身肉の旨味がありながらも、適度な脂も味わえます。次は炭火で少し焼いたランプの握り。しっかりとした赤身の食味が感じられ、シャリとの相性も抜群です。

テールタレ焼き

実山椒

テールタレ焼き 実山椒 (C) 東龍
テールタレ焼き 実山椒 (C) 東龍

テールは7時間蒸して、肉が骨がほろりと外れるほどにやわらかくし、適度に脂を落としました。炭火焼きされているので、香り高いです。実山椒が心地よい刺激。

シャトーブリアン

サンドイッチ、玉ねぎソース

シャトーブリアン サンドイッチ、玉ねぎソース (C) 東龍
シャトーブリアン サンドイッチ、玉ねぎソース (C) 東龍

薄いパンで、厚く切ったシャトーブリアンをサンドしました。ほんのりと酸味の利いた玉ねぎソースが、シャトーブリアンの旨味を際立たせます。和辛子のピリ辛さが全体を引き締めていました。

ステーキ

三田牛ヒレ月齢37ヶ月

山ワサビ、ゲランド塩、生胡椒、お新香、天日干し白米

ステーキ 三田牛ヒレ月齢37ヶ月 山ワサビ、ゲランド塩、生胡椒、お新香、天日干し白米 (C) 東龍
ステーキ 三田牛ヒレ月齢37ヶ月 山ワサビ、ゲランド塩、生胡椒、お新香、天日干し白米 (C) 東龍

メインディッシュは食味に優れた三田牛のフィレ肉。噛めば噛むほどに、妙妙たる味わいが深まっていき、和牛香も極めて上品。大久保氏いわく「普通のフィレは味が薄いですが、三田牛のフィレはしっかりと味わいがあります。塩だけで調味していますので、素晴らしい食味をご賞味ください」。

味わいが凝縮された山形県産の天日干ししたコシヒカリに、お新香やコンディメントが添えられています。三田牛と共にご飯やコンディメントを味わうと、新たな変化を楽しめるでしょう。

食事3種

牛時雨煮、カレー、ボロネーゼパスタ

牛時雨煮 (C) 東龍
牛時雨煮 (C) 東龍

カレー (C) 東龍
カレー (C) 東龍

ボロネーゼパスタ (C) 東龍
ボロネーゼパスタ (C) 東龍

〆の食事は3種類から選べます。全部を少しずつチョイスすることも可能なのは良心的です。滋味のあるシラスも加えた甘辛い牛時雨煮、ほんのりスパイシーで複雑味のあるカレー、挽肉がおいしいボロネーゼパスタと、それぞれ個性的。

デザート

キャラメルアイス、甘夏マーマレード、石垣島パイナップル

デザート キャラメルアイス、甘夏マーマレード、石垣島パイナップル (C) 東龍
デザート キャラメルアイス、甘夏マーマレード、石垣島パイナップル (C) 東龍

白い卵黄の卵を用いたキャラメルアイスに、甘酸っぱい甘夏マーマレード、甘い石垣島のパイナップルという組み合わせ。甘味を楽しめながらも、さっぱりとした後口です。

お酒のペアリング

ボトル以外でオーダーできるアルコールが充実しているのも嬉しいところ。一合で日本酒4種類、グラスでシャンパーニュ1種類、白ワイン1種類、ロゼワイン1種類、赤ワイン2種類が用意されています。

ブリス エリタージュ ブリュット (C) 東龍
ブリス エリタージュ ブリュット (C) 東龍

「ブリス エリタージュ ブリュット」(グラス 2,000円)はオレンジやレモンのような爽やかさが感じられるシャンパーニュ。トウモロコシのすり流しの甘味にちょうどよい酸味です。ボリューム感と芳醇な香りもあるので、飲み応えも満点。

七田 純米 七割五分磨き (C) 東龍
七田 純米 七割五分磨き (C) 東龍

「七田 純米 七割五分磨き」(一合 1,200円)はあえて酒米を磨かないという七割五分シリーズのパイオニア。あまり磨いていませんが、1年以上熟成させているので、きれいな味わいです。大久保氏が紡ぐ繊細な料理にぴったりでしょう。

天青 純米吟醸 酒未来 無濾過生原酒 mugen INFINITY (C) 東龍
天青 純米吟醸 酒未来 無濾過生原酒 mugen INFINITY (C) 東龍

「天青 純米吟醸 酒未来 無濾過生原酒 mugen INFINITY」(一合 1,700円)はフルーティーな香りとほのかな甘味を有しています。ホワイトアスパラガスの滋味に寄り添い、しゃぶしゃぶ肉の旨味を引き出していました。

肉割烹を開業した背景

料理長の大久保丈太郎氏 (C) 東龍
料理長の大久保丈太郎氏 (C) 東龍

なぜ肉割烹という新しい業態を開業したのか、大久保氏は振り返ります。

「当時はうしごろの店舗で料理長をしていました。スタッフがお客様の目の前で肉を焼き始めていた頃で、非常に好評だったので、このような業態がよいのではないかと考えていたんです。肉割烹はまだほとんどなくて、可能性を感じていました」

先駆けであっただけに、ゼロから構築するという苦労もあったといいます。

「準備期間が1年あったので、色々と考えましたが、実際にオープンしてから、お客様の反応をみて日々変えていきましたね。たとえば、お客様にご満足いただきたい一心で、肉を中心にして、ボリュームが多すぎたこともありました。現在では、本当においしい牛肉だけを少しずつ色々な技法で調理し、魚介類もふんだんに用いています。旬の野菜もたっぷりつかって、季節を感じていただけるようにもしていますね」

料理のインスピレーション

静謐とした個室 (C) 東龍
静謐とした個室 (C) 東龍

どのようなところからインスピレーションを得ているのでしょうか。

「肉料理だけを見ていると影響を受け過ぎてしまうので、常に色々な店をチェックしています。鮨、日本料理、イタリアンからヒントを得ることが多いですね。旬の料理や価格、繁盛している理由や、逆にあまり流行っていない原因も考えています」

大久保氏は日本料理の特長である、素材の持ち味を生かすことを、大切にしています。日本料理店によく訪れており、日本酒やワインも嗜みます。

「魚介類はたくさんつかっていますが、青魚や貝類はあまりお出ししていませんね。柑橘の酸味が好きで、脂もきれいに流してくれるので、効果的につかっています」

支持されるように日々進化

「肉割烹 上」が入居するビル (C) 東龍
「肉割烹 上」が入居するビル (C) 東龍

「肉割烹 上」は予約が難しい店となっていますが、多店舗展開する予定はあるのでしょうか。

「今のところ特に考えていません。来てくださっているお客様に満足していただくことが最も大切なので、日々進化していけるように努めています」

将来やりたいことについて訊きました。

「まだ具体的にはお伝えできませんが、アイデアはいくつかもっています。これまでとは違う牛肉をご提供したいので、是非とも楽しみにお待ちください」

「肉割烹 上」の店名の由来は「極上の食材、至上の技、上質な空間とおもてなし、最上を目指す心粋」。オープンしてから現在に至るまで、大久保氏がこのコンセプトを真摯に具現化してきたからこそ、「肉割烹 上」がこれだけゲストから支持される店となり、肉割烹という業態がこれだけ確立されたのだと感じられてなりません。

グルメジャーナリスト

1976年台湾生まれ。テレビ東京「TVチャンピオン」で2002年と2007年に優勝。ファインダイニングやホテルグルメを中心に、料理とスイーツ、お酒をこよなく愛する。炎上事件から美食やトレンド、食のあり方から飲食店の課題まで、独自の切り口で分かりやすい記事を執筆。審査員や講演、プロデュースやコンサルタントも多数。

東龍の最近の記事