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帝国ホテルが開業131年で初めてオープンした日本料理店では何が食べられるのか?

東龍グルメジャーナリスト
帝国ホテル 東京「帝国ホテル 寅黒」 (C) 東龍

日本の食をリードしてきた帝国ホテル

帝国ホテルは1890年に開業した、日本を代表するホテル。

食に定評があります。1934年にロシア人オペラ歌手であるフョードル・イワノビッチ・シャリアピンのために考案され、1936年にメニュー化された「シャリアピンステーキ」、1975年にイギリスのエリザベス女王のために創作され、名前を冠することが認められた「海老と舌平目のグラタン “エリザベス女王風”」を生み出しました。1958年にオープンしたブッフェスタイルのレストラン「インペリアルバイキング」が、日本におけるバイキングの発祥となったのも有名です。

その帝国ホテル 東京では、昨年2021年11月1日に「ラ ブラスリー」がコンセプトやメニューを一新してリニューアルオープンしたり、「ホテルバル」が誕生したりして、大きな話題を呼びました。

帝国ホテル 東京のレストランがリニューアル あの人気料理も復刻して目の前でつくってもらえる!(東龍)/Yahoo!ニュース

帝国ホテル 寅黒 (C) 東龍
帝国ホテル 寅黒 (C) 東龍

同じ日に「ラ ブラスリー」のすぐ向かいに日本料理「帝国ホテル 寅黒」もオープン。帝国ホテル 東京が初めて日本料理店を直営するということで、ここでも耳目を集めました。

「帝国ホテル 寅黒」はどのような日本料理店なのでしょうか。

落ち着いた雰囲気

エントランスを入ったエリア (C) 東龍
エントランスを入ったエリア (C) 東龍

外観は落ち着いた佇まいです。エントランスを入ると、金魚が泳ぐつくばいがあったり、掛け軸や生花があったりと、日本料理店らしい余白の空間があって心が和みます。

メインとなるのは8メートルほどもある、一枚板で造られたカウンター10席。木の造りと柔和な間接照明で、落ち着いた雰囲気です。テーブルが4席、個室2部屋も設けられているので、様々なシーンで利用できることでしょう。

おまかせコースのみを提供

「帝国ホテル 寅黒」の調理責任者を務めるのは、鷹見将志氏。

1991年栃木県鹿沼市で生まれ、料理人だった父親の背中を見て育ちます。子供の頃の夢であった日本料理の料理人になることを目指し、専門学校を卒業すると石かわグループに入社。「神楽坂 石かわ」や「虎白」で研鑽を積んできました。そして、帝国ホテル 東京が石かわグループとアライアンスを組むことになり、若手の実力派である鷹見氏が「帝国ホテル 寅黒」の調理責任者として抜擢されたのです。

「神楽坂 石かわ」と「虎白」はミシュランガイドで三つ星として掲載されるような、日本でも指折りの日本料理店。そこで腕を磨いてきた鷹見氏が提供するのは、旬の食材をふんだんに用いた「おまかせコース」(33,000円、税込・サ別)のみ。先付、揚物、椀物、造り、中皿、焼物、冷物、煮物、食事、甘味というような10品前後のコースになっています。

どういった料理なのか、詳しく紹介しましょう。

先付

毛蟹 賀茂茄子 生姜ジュレ

先付 (C) 東龍
先付 (C) 東龍

肉厚な石川県の毛蟹と、とろっとした賀茂茄子の取り合わせです。さっぱりとした生姜のジュレと、鮮やかな花穂紫蘇が爽やかなアクセント。木匙ですくって全体を食べると、様々な味覚と食感が一体になります。最初に食べるのにぴったりの軽やかな先付です。

揚物

稚鮎 玉蜀黍餅

揚物 (C) 東龍
揚物 (C) 東龍

長野県天竜川の稚鮎は、躍動感のある姿で登場。天ぷらにした稚鮎を、仕上げにトウモロコシの皮で燻しています。ふっくらとした身と肝の苦味が秀抜。下にはトウモロコシの葛餅があり、その甘味と肝の苦味がよいコントラストです。信楽焼の陶器にも味があります。

椀物

焼穴子真丈 蓴菜 木の芽

椀物 (C) 東龍
椀物 (C) 東龍

アナゴは白焼きにしたあとに鰹出汁で炊き、骨までやわらかく叩いてから、身も骨もつかって大きな真丈に。アナゴの豊かな佳味が感じられます。秋田県のジュンサイや木の芽と合わせて、緑の薫りを。

造り

真子鰈 うに 生のり 山葵

造り (C) 東龍
造り (C) 東龍

活け締めにした宮城県のマコガレイの身とエンガワ、ミョウバン不使用の北海道のキタムラサキウニをお造りにしました。どれも最高の酒肴です。磯の香ばしさが感じられる生海苔、高知県室戸の塩を添えて。

中皿

伊勢海老 新牛蒡

中皿 (C) 東龍
中皿 (C) 東龍

滋味たっぷりの三重県の伊勢海老の身と、その殻でとった出汁の餡。伊勢海老がまるごと使われており、帝国ホテルが目指すサスティナブルな考えにも相応しい料理です。薬味に芽ネギをトッピングし、やわらかく甘味のある新ゴボウは揚げて付け合わせに。

焼物

のどぐろ 白アスパラ炭焼き 酢山椒

焼物 (C) 東龍
焼物 (C) 東龍

食味に優れた北陸のノドグロを炭火焼きにし、鰹昆布出汁と合わせました。ノドグロそのものの旨味と、炭焼きの香ばしさが口の中に広がります。フランス・ロワール地方のホワイトアスパラガスはしなやかで甘味があり、木の芽が爽やかです。

冷物

帆立 キャビア 青柚子

冷物 (C) 東龍
冷物 (C) 東龍

冷菜がよいメリハリとなっています。北海道の甘い生ホタテの下には、カツオの旨味を閉じ込めた生クリームとホタテのふわふわとしたムース。上にはオシェトラキャビアを贅沢にのせています。

煮物

すっぽん 冬瓜 木耳 スナップエンドウ

煮物 (C) 東龍
煮物 (C) 東龍

スッポンの出汁でとったスープと皮付き肉。スッポンは60度で20分低温調理してから強火で炙っているので、弾力があって旨味がたっぷりです。滋味深い味わいにホッとする一品。トウガン、スナップエンドウ、キクラゲと旬の野菜を揃え、アサツキを散りばめています。

食事

金目鯛と万願寺唐辛子ご飯

食事 (C) 東龍
食事 (C) 東龍

食事 (C) 東龍
食事 (C) 東龍

お食事は、千葉県の金目鯛をふんだんに用いた新潟県コシヒカリの炊き込みご飯。鷹見氏が自ら釜を持って席に来てくれる演出に心が躍ります。出汁味噌で旨味が増していて、細切りにした万願寺唐辛子や紫蘇で風味が豊かに。途中で海苔を加えると、味わいが変わります。

甘味

ラム酒アイス 黒蜜 メロン きな粉ガレット

甘味 (C) 東龍
甘味 (C) 東龍

夏らしく涼しげなヴェリーヌ仕立てに。香り高いラム酒アイスに、黒蜜の濃厚さ、きな粉ガレットの軽快さが一体となっています。

椰子の白わらび餅

椰子の白わらび餅 (C) 東龍
椰子の白わらび餅 (C) 東龍

最後はココナッツをまとわせたわらび餅。夏らしい爽やかさで、ホッとするようなやさしい甘味です。

豊富なお酒

南部美人 あわさけ スパークリング (C) 東龍
南部美人 あわさけ スパークリング (C) 東龍

お酒も充実しており、日本酒はもちろんのこと、シャンパーニュや白と赤のワイン、焼酎も用意されています。普通のレストランであれば、ボトルで提供されているようなプレミアム酒も多数。

色々なお酒が用意されているので、セットがオススメです。大吟醸1種・純米1種・吟醸1種・プレミアム日本酒1種の「寅黒 日本酒セット」(13,200円、税込・サ別)、白ワイン3種・シャンパーニュ1種・赤ワイン1種の「寅黒 ワインセット」(15,400円、税込・サ別)が用意されています。

ソムリエや唎酒師がセレクトした料理に寄り添うお酒ばかりなので、是非とも体験するとよいでしょう。

帝国ホテルの和食

「帝国ホテル 寅黒」の個室 (C) 東龍
「帝国ホテル 寅黒」の個室 (C) 東龍

「帝国ホテル 寅黒」は帝国ホテル 東京で初めての直営日本料理店となりますが、どういったことを意識しているのでしょうか。鷹見氏は次のように答えます。

「最初は、フランス料理を主体としてきた帝国ホテルで提供する日本料理ということで、フランス料理で使う食材を用いるなどして、日本料理を表現したいと思っていました。しかしその後、帝国ホテルが“日本の迎賓館”という役割を担って誕生し、海外の賓客を迎えてきたことを鑑みると、日本の文化である和食をしっかり伝えることが大切であると考えるようになりました」

そこから、フランス料理の要素を取り入れた料理と王道の日本料理を同じくらい取り入れ、「伝統と革新」を表現するコースを紡ぎ上げたといいます。

ホテルの日本料理の魅力については、このように述べます。

「ゆったりとした空間で、洗練されたサービスを受けながらお召し上がりいただけることが、ホテルの和食の魅力だと思いますね」

もっと手間を加えた料理を提供したい

「帝国ホテル 寅黒」調理責任者の鷹見将志氏 (C) 帝国ホテル 東京
「帝国ホテル 寅黒」調理責任者の鷹見将志氏 (C) 帝国ホテル 東京

利用したゲストの反応はいかがでしょうか。

「木の芽をたたく音、擂った胡麻の香り、炭で火入れする時の音や燻香など、五感でお楽しみいただけるのがカウンターの醍醐味です。お客様からも、料理を五感で味わえるのがよいというお声をいただいています」

今後はどういったことを考えているのでしょうか。

「店がオープンしてから半年以上にわたり、日本料理の知識や技術を学んできた今、これまでよりもさらに洗練された料理に仕上げ、旬の食材の味わいに加えて、驚きもある料理をご提供したいです。例えば、新タマネギは焼いたり煮たりするだけでも十分においしいですが、以前、新タマネギを炭焼きにしてたたき、葛粉を合わせてから揚げて、ご提供したことがありました。すると、タマネギにこんなおいしい食べ方もあったんだと、お客様から喜びの声をいただいたことがあります」

歴史と格式のある帝国ホテル 東京において、鷹見氏による「伝統と革新」を表現したコースはどのように進化していくのでしょうか。オープンしてから約半年が経ちますが、今後ますます目が離せなくなりました。

グルメジャーナリスト

1976年台湾生まれ。テレビ東京「TVチャンピオン」で2002年と2007年に優勝。ファインダイニングやホテルグルメを中心に、料理とスイーツ、お酒をこよなく愛する。炎上事件から美食やトレンド、食のあり方から飲食店の課題まで、独自の切り口で分かりやすい記事を執筆。審査員や講演、プロデュースやコンサルタントも多数。

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