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最高級のThe Okura Tokyoのフレンチ新料理長は誰? 珠玉の料理とインタビュー全文を公開

東龍グルメジャーナリスト
新料理長の池田進一氏 (C) The Okura Tokyo

食のオークラ

The Okura Tokyoは、2019年にオープンした最高級の日本系ホテルのひとつです。創業したのは1962年で、2022年に創業60周年の節目を迎えます。

世界で注目のThe Okura Tokyoオープン 食のオークラをもっと理解するための3つの考察(東龍) - 個人/Yahoo!ニュース

The Okura Tokyoには、日本料理「山里」、中国料理「桃花林」、フランス料理「ヌーヴェル・エポック」、鉄板焼「さざんか」、オールデイダイニング「オーキッド」と、和洋中の素晴しいレストランが勢揃い。伝統の一皿と他にはないお酒、きめ細やかなサービスと優雅な空間でゲストを魅了し、高い評価を得ています。

この中で今注目したいのが「ヌーヴェル・エポック」。

なぜならば、気鋭の料理長が新しく就任したからです。

新料理長の池田進一氏

ヌーヴェル・エポック (C) 東龍
ヌーヴェル・エポック (C) 東龍

2022年3月1日から新料理長となったのが池田進一氏。

1976年生まれと若く、2007年から「ヌーヴェル・エポック」の前身となる「ラ・ベル・エポック」で研鑽を積んできました。1998年に「クラブ・プロスペール・モンタニェ日本支部 フランス料理最優秀見習い料理人選抜コンクール」ポワソン賞、2017年に「ニュージーランドキングサーモン社 オーラキングサーモン料理コンテスト」3位を獲得し、魚介類の料理が得意です。

池田氏と共に「ヌーヴェル・エポック」を支えるのが、シェフパティシエの黒沢昌弘氏とシェフブーランジェの淡路文雄氏。オークラのスイーツやパンを知り尽くし、池田氏の料理に寄り添うものを紡ぎ出しています。

発見を意味するコース

新しくなった「ヌーヴェル・エポック」で池田氏の料理を堪能するには、「Menu Découvertes」(38,000円、税・サ込)がオススメです。「Découvertes」=「発見」を意味するコースの内容はこちら。

Menu Découvertes(2022年3月~5月)

・始まりのお愉しみ

・牡丹海老のマリネとフランス産オシェトラキャビア 甲殻類のジュレと雲丹のクリーム

・フランス ランド産フォワグラと無添加ドライフルーツのマーブル仕立て アーモンドのエキュームと抹茶のクランブル

・グリーンアスパラガスのグラニテにシトロンオイルの香りをしのばせて

・昆布締めシロギスの焼霜仕立てをのせた鶴ヶ島サフランの風味と蛤のうま味溢れるホワイトアスパラガスのグラタン

・アイスランドの雄大な自然に育まれた仔羊と筍のロースト 春の芽吹きの野菜 白味噌風味の玉葱クーリと木の芽香るジュ

・マンゴーとホワイトバルサミコのブランマンジェ

・イタリア産ローストピスターシュと爽やかなシトラスとの出会い

・食後の小菓子とコーヒー または 紅茶

アミューズにはじまり、冷前菜と温前菜、魚料理、肉料理、デザート2種、小菓子とドリンクというフルコース。オシェトラキャビア、フランス・ランド産フォアグラ、アイスランドの仔羊といった豪華食材が見かけられます。昆布や白味噌、木の芽といった和の素材も使われており、興味がかきたてられるところ。

コースの中にある代表的なメニューやオプションで体験できる料理、ワインを紹介していきましょう。

牡丹海老のマリネとフランス産オシェトラキャビア 甲殻類のジュレと雲丹のクリーム

牡丹海老のマリネとフランス産オシェトラキャビア 甲殻類のジュレと雲丹のクリーム (C) 東龍
牡丹海老のマリネとフランス産オシェトラキャビア 甲殻類のジュレと雲丹のクリーム (C) 東龍

「ラ・ベル・エポック」時代に冷たいスープとして提供していた「オマールのジュレとウニのクリーム」をアレンジしたスペシャリテ。池田氏は、アムステルダムから帰国した時に日本でウニの冷前菜を食し、そのおいしさに衝撃を受けたといいます。そこからインスピレーションを得て紡ぎ出された一品です。

尾付きの甘いボタンエビの上には、たっぷりのオシェトラキャビアとサクサクの竹炭チュイール。下はオマールのジュレとウニの軽やかなクリームで、魚介の旨味が詰まっています。エディブルフラワーやナスタチウムで彩りも豊かに。

パン

パン (C) 東龍
パン (C) 東龍

パンは全部で5種類くらい用意されています。最初に桜風味のパンとプティバゲット、次にシャンピニオンとオレガノパンが提供されました。定番のパンに加えて、季節に合わせたパンも提供され、料理によく合っています。

フランス ランド産フォワグラと無添加ドライフルーツのマーブル仕立て アーモンドのエキュームと抹茶のクランブル

フランス ランド産フォワグラと無添加ドライフルーツのマーブル仕立て アーモンドのエキュームと抹茶のクランブル (C) 東龍
フランス ランド産フォワグラと無添加ドライフルーツのマーブル仕立て アーモンドのエキュームと抹茶のクランブル (C) 東龍

オークラ伝統の方法でマリネした、気品あるフォアグラのテリーヌを主役に。イチジクなどのドライフルーツを加え、マーブル模様の断面が映えます。フォアグラの濃厚さにドライフルーツの甘味と香味が心地よく調和。

なめらかなアーモンドの泡、風味のよい宇治抹茶のクランブル、フォアグラと相性のよいポルト酒、こんがりと焼かれたブリオッシュも添えられています。どの要素も円形にデザインされており、統一感のあるプレゼンテーションが見事です。

オークラ牛で仕上げた琥珀色に輝くダブルコンソメ(+4,000円、税・サ込)

オークラ牛で仕上げた琥珀色に輝くダブルコンソメ (C) 東龍
オークラ牛で仕上げた琥珀色に輝くダブルコンソメ (C) 東龍

多くのゲストからの要望により、「ヌーヴェル・エポック」になってからは提供していなかったダブルコンソメが復活しました。

新しい付加価値をつけたいという池田氏の想いから、島根県でThe Okura Tokyo専用に肥育されたオークラ牛を用いています。煮出す時間を細やかに調整して、和牛らしい食味と香りが引き出されており、余韻を残す味わい。

プレートはフランス・リモージュの名窯ベルナルドによる「エキューム」=「泡」シリーズで、ダブルコンソメのゴールドがより際立っています。

昆布締めシロギスの焼霜仕立てをのせた鶴ヶ島サフランの風味と蛤のうま味溢れるホワイトアスパラガスのグラタン

昆布締めシロギスの焼霜仕立てをのせた鶴ヶ島サフランの風味と蛤のうま味溢れるホワイトアスパラガスのグラタン (C) 東龍
昆布締めシロギスの焼霜仕立てをのせた鶴ヶ島サフランの風味と蛤のうま味溢れるホワイトアスパラガスのグラタン (C) 東龍

夏が旬のシロギスを用いた、新しいフレンチ。上品で繊細な味わいのシロギスを日本料理の技法である焼き霜で、皮目も一緒に食べられるようにしました。

下にはハマグリと香川県のホワイトアスパラガスのグラタン。その余熱でシロギスを焼き上げており、計算され尽くした火入れに。高品質として評価されている埼玉県鶴ヶ島市の「鶴ヶ島サフラン」は香り高く、モリーユ茸やソラマメなど春野菜もたっぷりです。

アイスランドの雄大な自然に育まれた仔羊と筍のロースト 春の芽吹きの野菜 白味噌風味の玉葱クーリと木の芽香るジュ

アイスランドの雄大な自然に育まれた仔羊と筍のロースト 春の芽吹きの野菜 白味噌風味の玉葱クーリと木の芽香るジュ (C) 東龍
アイスランドの雄大な自然に育まれた仔羊と筍のロースト 春の芽吹きの野菜 白味噌風味の玉葱クーリと木の芽香るジュ (C) 東龍

アイスランドの雄大な自然に育まれた仔羊と筍のロースト 春の芽吹きの野菜 白味噌風味の玉葱クーリと木の芽香るジュ (C) 東龍
アイスランドの雄大な自然に育まれた仔羊と筍のロースト 春の芽吹きの野菜 白味噌風味の玉葱クーリと木の芽香るジュ (C) 東龍

最初に骨付きのままテーブルまで運ばれて来て、その後にプレートに取り分けられるという、ダイナミックなプレゼンテーション。

仔羊はしっかりとローストされて香り豊かに。骨付きで旨味はありますが、ラムならではのほんのり甘みが感じられるような食味。新タマネギと味噌のコクのあるペーストが添えられ、山菜やタケノコ、木の芽と春の装いです。

イタリア産ローストピスターシュと爽やかなシトラスとの出会い

イタリア産ローストピスターシュと爽やかなシトラスとの出会い (C) 東龍
イタリア産ローストピスターシュと爽やかなシトラスとの出会い (C) 東龍

舟型のタルト2つが美しく配されています。ひとつはローストしたイタリア産ピスタチオのムースがのせられたタルト、もうひとつが清見オレンジ、キンカンのタルトがのせられたタルト。ピスタチオの濃厚さと柑橘類の爽やかさがよいコントラストです。

豊富なワイン

ポメリー ブリュット オークラ エイジング (C) 東龍
ポメリー ブリュット オークラ エイジング (C) 東龍

料理とデザートを紹介してきましたが、本格フレンチだけあって、ワインも非常に充実しています。

食前酒のシャンパーニュは「ポメリー ブリュット オークラ エイジング」。フランスのポメリーのメゾンカーヴ内にThe Okura Tokyoのために専用のセラーが設けられ、通常よりも長く熟成されています。マグナムサイズなので味わいもまろやかになり、辛口のポメリーがより洗練されています。

他には、フランス・ブルゴーニュ地方の白ワイン「ベルナール・モロー・エ・フィス シャサーニュ・モンラッシェ プルミエ・クリュ ラ・マルトロワ」、フランス・ボルドー地方の赤ワイン「シャトー・オー・バタイエ ポイヤック 2015」、さらには最高峰の貴腐ワインと称される「シャトー・ディケム 2015」と、普通であればグラスで提供されないワインがバイ・ザ・グラスで提供。

ワインにも定評のあるオークラフレンチならではのセレクションです。

貴重なテーブルウェア

ショープレート (C) 東龍
ショープレート (C) 東龍

テーブルウェアも言及するに値します。

最初に出合うショープレートは、店名ロゴ入りのフランス・リモージュのサフラン。その妙妙たる質感と存在感に目を奪われます。肉料理のナイフは新潟県燕市の藤次郎で、美しい流線美に加えて、切れ味の鋭さに驚かされることでしょう。

ワイングラスはオークラのロゴが入ったヨーロッパ製特注品。ガラスが薄いので繊細なワインの味わいを的確に捉えることができます。

池田氏が料理長に就任した背景

「ヌーヴェル・エポック」内観 (C) 東龍
「ヌーヴェル・エポック」内観 (C) 東龍

食のオークラらしい新しい発見のあるコースでしたが、池田氏はどのような経緯で料理長に就任したのでしょうか。

「ヌーヴェル・エポック」は、日本のフランス料理の礎を築いたといわれる小野正吉氏の味を大切にしながら、ヘルシー&ガストロノミーをコンセプトにして誕生しました。オープンから2年が経過し、レストランとしての世界観が確立されたことから、次のステップに移行することになります。

値段が異なる3本のコースを、同じ値段のコース2本という構成に刷新。オークラ伝統の味を現代風にアレンジしたコースと、旬材の魅力をクリエイティブに仕立てたコースを提供することになりました。

そこで新しい料理長として、「ラ・ベル・エポック」の料理に造詣が深く、アムステルダムに3年半出向した経験をもつ池田氏に白羽の矢が立ったのです。オークラフレンチをよく理解していながらもクリエイティビティに溢れる池田氏は、まさに適任であったといえるでしょう。

池田氏へのインタビュー

料理長となったのが池田進一氏 (C) The Okura Tokyo
料理長となったのが池田進一氏 (C) The Okura Tokyo

オークラフレンチを担うことになった池田氏はどのような料理人なのでしょうか。池田氏へのインタビュー全文を紹介します。

Q:料理長を打診された時、どのような気持ちでしたか?

池田氏:私は年齢的にも若く、他に適任と思われる先輩方がたくさんいらっしゃるので、話をいただいた時には驚きました。不安やプレッシャーもありますが、自分の料理を提供できる機会を嬉しく思います。

Q:大切にしていることは何ですか?

池田氏:The Okura Tokyoには、日本料理や中国料理のレストランがありますが、「ヌーヴェル・エポック」に来てくださるお客様は、ホテル内にある他のレストランの中からフランス料理を選んでくださっています。したがって、様々な食材や技法を取り入れる際にも、和食や中華のような料理にするのではなく、フランス料理としておいしい料理を大切にしていますね。

Q:どういった食材や料理が好きですか?

池田氏:釣りが趣味ということもあり、季節感があり調理法も幅広い魚貝類が好きです。様々な組み合わせができるフォアグラも好きですね。オークラで学んできたソースの数々をアレンジしていき、新しい料理をつくりたいと思います。

Q:今後「ヌーヴェル・エポック」をどのようにしていきたいですか?

池田氏:お客様は世界中のレストランで食事されており、求めることも変化しています。これまでの伝統やオークラフレンチをベースにしながらも、新しい技術や様々な食材を取り入れたり、時代に相応しいプレゼンテーションに仕上げたりしたいですね。

また、日本や東京ならではの食材や調理法、文化に基づいた料理や表現、食の安全性やフードロスへの配慮も、これまで以上に大切にしたいと思います。

Q:他に何かありますか?

池田氏:料理界では人材の確保や育成が大きな課題のひとつとなっています。私としては「ヌーヴェル・エポック」で働きたいからオークラに入社したという人が出てくるように、チームを牽引していきたいですね。

ゴールデンウィークに伝統のコンソメを味わえるイベントも

池田氏が料理長に就任したことによって、「ヌーヴェル・エポック」は伝統とモダンのオークラフレンチが融合した新しいスタイルとなりました。ダブルコンソメも復活して、ゲストには喜ばしい限りですが、実はオークラ伝統のコンソメをイベントで体験できる機会があります。

その機会とは、ゴールデンウィーク期間中の5月4日と5日の昼に開催される、小学生以上を対象とした「食のレッスン」(大人 10,000円、子供 3,000円)。テーブルセッティングやテーブルマナーの講習と共に、伝統のコンソメスープ、さらにはメインディッシュとデザートまでも味わえます。

文化的な活動に積極的なオークラらしいイベントであり、子供たちにとっても貴重な体験となることでしょう。そして、The Okura Tokyoのコンソメで素晴らしい食体験をした子供たちが、未来の料理人となり、サービススタッフとなれば、飲食業界が盛り上がり、日本の食文化もさらに発展することは間違いありません。

グルメジャーナリスト

1976年台湾生まれ。テレビ東京「TVチャンピオン」で2002年と2007年に優勝。ファインダイニングやホテルグルメを中心に、料理とスイーツ、お酒をこよなく愛する。炎上事件から美食やトレンド、食のあり方から飲食店の課題まで、独自の切り口で分かりやすい記事を執筆。審査員や講演、プロデュースやコンサルタントも多数。

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