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コロナ禍でも開業した西麻布の隠れ家イタリアンがすごい5つの理由

東龍グルメジャーナリスト
「ISSEI YUASA」の「近江牛のアロスト」 (C) 東龍

隠れ家レストラン

飲食店は多くの人に訪れてもらいたいので、普通は店を目立たせ、気付いてもらえるようにするものです。ウォークインの客が入りやすくなることは当然のことながら、存在に気付いてもらえれば、あとで予約して訪れてもらうこともできます。

ただ、飲食店には様々な業態があり、それぞれのコンセプトやターゲットは異なるもの。中には、逆に目立たないようにし、知っている人だけに訪れてもらおうという飲食店もあります。何もサインを掲示しないような隠れ家レストランも少なくありません。

そういった隠れ家レストランの中でも、特に気になる店が2021年4月22日にオープンしました。

それは、西麻布の「ISSEI YUASA」。

隠れ家のモダンイタリアン

「ISSEI YUASA」外観 (C) 東龍
「ISSEI YUASA」外観 (C) 東龍

「ISSEI YUASA」は店名がガラスボードにさりげなく記されているだけなので、一見すると何の店なのかもわかりません。

実は、わずか6席のカウンターを有する気鋭のモダンイタリアンなのです。

14品前後という多皿で構成された「おまかせコース」(19,800円、税込・サ別)が中心で、21時からはアラカルトも提供されます。

※緊急事態宣言の期間中は20時までの営業、酒類提供はなし

ハーフペアリング5種類(13,200円、税込・サ別)、フルペアリング8種類(19,800円、税込・サ別)も用意されており、コースに合わせることができるのも魅力です。

シェフは湯浅一生氏

シェフを務めるのは湯浅一生氏。

日本の有名イタリア料理店で5年間研鑽した後にイタリアへ渡り、トスカーナ州やエミリア・ロマーニャ州などで経験を積んで、2012年に帰国します。横浜「SALONE2007」、南青山「IL TEATRINO DA SALONE」を経て、2015年に渋谷「BIODINAMICO」シェフに就任。

そして2020年11月13日にオープンした恵比寿「湯浅一生研究所」でもシェフを務め、同店が西麻布「ISSEI YUASA」へ移転し、現在に至ります。

本場イタリア修業時代に各地を食べ歩いた経験から、イタリア料理に対する情熱は非常に深い湯浅氏。

そんな湯浅氏の代表的な料理をいくつか紹介しましょう。

平貝とペストモデネーゼのピアディーナ

平貝とペストモデネーゼのピアディーナ (C) 東龍
平貝とペストモデネーゼのピアディーナ (C) 東龍

イタリア北部ロマーニャ地方の無発酵生地でつくられたパリパリのサンドイッチ「ピアディーナ」。

豚の背脂を塩やスパイス、ニンニクで調味したペストモデネーゼとタイラガイを挟んでいます。ハリッサがよいアクセントになっており、キリッとしたシャンパーニュによく合うでしょう。

インサラータ ディ トリッパ

インサラータ ディ トリッパ (C) 東龍
インサラータ ディ トリッパ (C) 東龍

日本の食材を用いてつくった伝統的なイタリア料理。国産牛の第2胃袋であるハチノスをサラダにしました。適度に酸味があるので、内臓を用いた料理ですがとても爽やかです。

リヴォルノ風カチュッコ

リヴォルノ風カチュッコ (C) 東龍
リヴォルノ風カチュッコ (C) 東龍

イタリアの港町の漁師料理で、魚介類たっぷりのスープ。主役のキンメダイは下田産で食味が素晴らしく、別々に取った海老や魚、貝類の出汁を合わせたスープが非常に濃厚です。本枯れ鰹節がまろやかな味わいの秘密。

タリアテッレ ブッロ エ パルミジャーノ

タリアテッレ ブッロ エ パルミジャーノ (C) 東龍
タリアテッレ ブッロ エ パルミジャーノ (C) 東龍

栃木県のブランド卵「パワードエッグ力丸くん」を用いたタリアテッレ。もちもちとしていながらも、豊かな風味です。金華豚とシャモのスープにバターを合わせたソースは力強さが印象的。最後に24ヶ月のパルミジャーノ・レッジャーノを削って、食欲をそそる香りをまとわせます。

烏賊墨のビーゴリ 白魚とカラスミ

烏賊墨のビーゴリ 白魚とカラスミ (C) 東龍
烏賊墨のビーゴリ 白魚とカラスミ (C) 東龍

ビーゴリは北イタリア名産の押し出してつくられる太麺の高級パスタ。茨城県霞ヶ浦の白魚にはカラスミが合わせられ、濃淡のある味わいに。赤タマネギの酢漬けとレモンが軽やかで、ミントが鮮烈です。

近江牛のアロスト

近江牛のアロスト (C) 東龍
近江牛のアロスト (C) 東龍

湯浅氏が滋賀県にまで訪れて探しだした近江牛のウチモモのロースト。サシが適度に入り、赤身がジューシーです。下にはホクホクのジャガイモがあります。

ゴルゴンゾーラのジェラート

ゴルゴンゾーラのジェラート (C) 東龍
ゴルゴンゾーラのジェラート (C) 東龍

デザートも得意な湯浅氏のスペシャリテ。イタリア時代の修業先で学んだレシピに栗の花の蜂蜜を合わせるなどアレンジが施されています。

直火式エスプレッソメーカー「マキネッタ」で入れたエスプレッソ (C) 東龍
直火式エスプレッソメーカー「マキネッタ」で入れたエスプレッソ (C) 東龍

最後は福岡県の八女茶をベースにしたミントティーと、直火式エスプレッソメーカー「マキネッタ」で入れたエスプレッソ。

ワインの拡充

ワインセラー (C) 東龍
ワインセラー (C) 東龍

シャンパーニュも希少なものばかり (C) 東龍
シャンパーニュも希少なものばかり (C) 東龍

料理はどれも興味深いものばかりですが、他にも特筆するべき点があります。

まず、移転してからワインがより拡充されたこと。支配人兼ソムリエの藤田啓介氏が「以前からラインナップを広げようと考えていた」と述べる通り、以前まではブルゴーニュワインが中心でしたが、他の地方のワインやビオワインも充実させました。そのおかげで選択肢が広がり、料理の味わいをより深めることができています。

「ヒルドン」が無料でフリーフローとなっていることも良心的。イギリスを代表する世界的なミネラルウォーターが自由に飲めるようになっているのは嬉しいサービスです。

充実したパスタ

「タリアテッレ ブッロ エ パルミジャーノ」の調理 (C) 東龍
「タリアテッレ ブッロ エ パルミジャーノ」の調理 (C) 東龍

「烏賊墨のビーゴリ 白魚とカラスミ」の調理 (C) 東龍
「烏賊墨のビーゴリ 白魚とカラスミ」の調理 (C) 東龍

次に挙げたいのはパスタが充実していること。いくらデギュスタシオンとはいえ、パスタが2品も体験できることはなかなかありません。パスタは30種類以上のレパートリーの中から、シンプルなものと複雑なものをというように、違いを味わえるようにセレクトされています。重たくならないボリュームに調整されているので、女性でも軽く食べられることでしょう。

こだわりの近江牛

「近江牛のアロスト」の調理 (C) 東龍
「近江牛のアロスト」の調理 (C) 東龍

メインディッシュの近江牛は湯浅氏がわざわざ滋賀県にまで足を運んで厳選した食材。頭から様々な部位を食べ比べてみた結果、ロースやフィレではなく、ウチモモを採用することにしました。湯浅氏いわく「最後の方に食べる料理なので、重たくならない部位がいい。ウチモモは赤身が中心でさっぱりしているが、旨味がしっかりとある」と自信を持ちます。

テーブルウェアが素晴らしい

珍しい白のクチポール (C) 東龍
珍しい白のクチポール (C) 東龍

幅が約1メートル、長さが約6メートルの大きな大理石カウンターが目を引きますが、テーブルウェアも目をみはるものがあります。ポルトガルのクチポールは、ファインダイニングのシーンにおいて人気のカトラリーですが、ポピュラーな黒ではなく、あえて珍しい白を用意。店内の雰囲気と非常に合っています。

陶磁器は、魯山人、大樋長左衛門、今泉今右衛門のほかに、現代陶芸作家である岩崎龍二氏の作品もあり、ここでしか体験できないものばかり。ワイングラスはオーストリアのロブマイヤーで揃えられており、こちらもまた一級のブランドです。料理のモダンなプレゼンテーションに加えて、テーブルウェアの美しさにも目を奪われることでしょう。

アートを鑑賞できる

店内はまるでアートギャラリー (C) 東龍
店内はまるでアートギャラリー (C) 東龍

目を奪われるといえば、アートまで鑑賞できます。店内はメインダイニング、個室、ウェイティングバー、サロンに分かれており、その至るところに作品が展示。ジャコメッティやレオナール藤田、アレックス・カッツといった世界的巨匠から、 五木田智央、KYNEといった現代アーティストの作品に囲まれており、まるでプライベートギャラリーのようです。

万全を期してオープン

ここまで紹介してきたように、「ISSEI YUASA」はただ単に見つけづらい場所にあるだけのレストランではありません。

「イタリアを感じる料理でないと本物のイタリア料理ではない。イタリア人が日本で食べたいと思えるイタリア料理を目指している」と力強く述べるように、湯浅氏のイタリア料理への情熱や覚悟は半端ではなく、その追求心が色濃く料理に反映されています。

「湯浅一生研究所」はわずか5ヶ月足らずで移転しましたが、実は予定していたことでした。「ISSEI YUASA」がオープンするまでに時間があったので、試行錯誤するために「湯浅一生研究所」を短期間だけ開くことにしたのです。ここまで万全を期して開業した「ISSEI YUASA」が、今年最も注目される隠れ家レストランのひとつになることは間違いありません。

グルメジャーナリスト

1976年台湾生まれ。テレビ東京「TVチャンピオン」で2002年と2007年に優勝。ファインダイニングやホテルグルメを中心に、料理とスイーツ、お酒をこよなく愛する。炎上事件から美食やトレンド、食のあり方から飲食店の課題まで、独自の切り口で分かりやすい記事を執筆。審査員や講演、プロデュースやコンサルタントも多数。

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