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コロナ禍で横浜中華街も大打撃! あえて本格的な中国料理店が開業した理由

東龍グルメジャーナリスト
「水綾閣」の「横尾総料理長スペシャリテ“北京ダック”」 (C) 東龍

日本有数の横浜中華街

新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、飲食店は大きな影響を受けています。影響を受けているのは、メディアでよく取り上げられている銀座や新橋など、東京の飲食店だけではありません。日本有数の賑わいをみせる横浜中華街も例外ではないのです。

横浜中華街は、神戸の南京町、長崎の新地と並んで日本三大中華街と称されており、年間2000万人以上の観光客が訪れます。1866年からの歴史を有しており、約0.2平方キロメートルのエリア内に約500店以上がひしめいているという、東アジアで最大規模の中華街です。

しかし、コロナ禍の中で大打撃を受けて、客足が大きく落ち込んでおり、この1年間で40店以上も閉店しています。

馬車道に本格的な中国料理店が誕生

このような厳しいコロナ禍の状況にあって、新しい本格的な中国料理店が開業しました。

その中国料理店とは、2021年4月3日に馬車道駅から約徒歩2分の場所にグランドオープンした広東料理「水綾閣(すいりんかく)」。ミシュランガイドのスターシェフとアーティスティックな点心長による、豪華なファインダイニングです。

水綾閣(すいりんかく)(C) 東龍
水綾閣(すいりんかく)(C) 東龍

総料理長を務めるのは横尾博志氏。1991年からキャリアを積み始め、広東、四川、北京の中国料理を習得してきました。2013年には名門ウェスティンホテル東京「龍天門」に焼物料理長として招聘され、焼き物を究めていきます。その後、香港シェラトンホテル「天宝閣」で腕をふるい、難関といわれる焼き物部門においてミシュランガイドで一つ星として掲載。中国料理では珍しく、ふぐ調理師免許を取得しており、フグの扱いにも長けているのが大きな強みです。

点心長は網野北斗氏。1996年に中国料理の道に入り、翌年にはウェスティンホテル東京「龍天門」の点心師に抜擢されました。ストイックで孤高な姿勢と非凡なるセンスから、紡ぎ出された点心は芸術とまで評されています。

まずは、横尾氏と網野氏によって生み出された「水綾閣」のシグネチャーディッシュを紹介しましょう。

沖繩石垣島産 活才巻海老の紹興酒風味“酔っ払い海老”

(C) 東龍
(C) 東龍

(C) 東龍
(C) 東龍

才巻海老をたっぷりの紹興酒で酔わせた後に調理。紹興酒を吸っているのでとても香り高く、鮮度がよいので海老の旨味が凝縮されています。

山口県下関市南風泊港直送“虎河豚の香港式カルパッチョ”

(C) 東龍
(C) 東龍

ふぐ調理師免許を持つ数少ない中国料理人である横尾氏ならではの逸品。フグをふんだんに用いたカルパッチョで、身だけではなく皮も堪能することができます。松の実や白髪ねぎが中国料理らしいアクセント。

横尾総料理長スペシャリテ“焼き物入り前菜盛り合わせ”

(C) 東龍
(C) 東龍

大釜で焼いたスペシャリテです。焼き物が得意な横尾氏らしく、焼き物の盛り合わせでは、品数が豊富であるといえるでしょう。出色なのが、旨味のある上豚の釜焼き叉焼と力強い豚トロのセロリ塩、さらには、テクスチャのメリハリがある皮付き豚バラ肉。平らにカットしてコリコリの食感を強調したクラゲの冷製、贅沢な青鮫と蟹の煮こごりも印象に残ります。

青鮫尾ビレ(約50g)と活蝦夷鮑の上湯煮込み

(C) 東龍
(C) 東龍

フカヒレの王様であるヨシキリザメよりも食味が高いとされるアオザメの尾ビレと、鮮度のよいエゾアワビを競演させたという贅沢な一皿。高級中国料理でも、フカヒレとアワビが同じプレートで提供されることは、ほぼありません。チンゲンサイのシャキシャキ感と黄ニラの旨味が脇を固めます。

横尾総料理長スペシャリテ“北京ダック”

(C) 東龍
(C) 東龍

(C) 東龍
(C) 東龍

表面が艶やかで美しく、パリパリとした食感の北京ダックです。全体を包み込む餅皮の弾力と北京ダックのテクスチャがよいメリハリを生み出しています。

三重伊勢志摩産 活天然伊勢海老の葱生姜煮込み 土鍋仕立て

(C) 東龍
(C) 東龍

(C) 東龍
(C) 東龍

大ぶりの伊勢海老を半身も用いた豪快な一品。土鍋で仕立てられているので、複雑な旨味が感じられます。生姜の香りも素晴らしく、地味になりがちな土鍋料理が華やかに仕上げられているといってよいでしょう。

特選国産牛サーロイン肉と最上級ポルチーニ茸の黒胡椒炒め

(C) 東龍
(C) 東龍

重厚なサーロインに、マカダミアナッツとポルチーニを合わせた面白い一皿。黒胡椒は軽めで、マカダミアナッツの油脂とポルチーニの旨味がサーロインの味わいをさらに強調しています。

虎河豚と白海老の炒飯/虎河豚の極上澄ましスープ

(C) 東龍
(C) 東龍

虎河豚の身を炒飯やスープに仕上げた、他では食べられない締めの料理。炒飯は白海老のサクサク感が心地よいです。スープは虎河豚の旨味が溶け込んでおり、口の中で素晴らしい風味が広がります。

網野点心長お薦め本日のスイーツ

(C) 東龍
(C) 東龍

網野氏による繊細な技法とサプライズ感溢れる演出を楽しめるデザート。紹興酒のプリンとやわらかいクリームを包んだカスタード饅頭がワンプレートになっています。

特筆するべき特長

どれも非常に贅沢なメニューばかりですが、「水綾閣」の特長はまだ他にもあります。

(C) 東龍
(C) 東龍

最初が、鮮度にこだわっていること。大きな水槽が置かれており、伊勢海老や才巻海老、虎河豚や蝦夷鮑などが入れられています。調理される直前まで生きていて状態も最高なので、当然のことながら食味も出色。“活”と付いたメニューは特にオススメです。

ジャン・ジョスラン・キュヴェ・ジャン・ブリュット (C) 東龍
ジャン・ジョスラン・キュヴェ・ジャン・ブリュット (C) 東龍

次に挙げたいのが、驚くほどワインが充実していること。立派なワインセラーが設けられており、そこには70種ものワインがあります。シャンパーニュ12種に加えてボルドーやブルゴーニュのフランスワイン、それにアメリカ・カリフォルニア州のワインが7種と、王道のチョイス。ワインとのペアリングを存分に楽しむことができるでしょう。もちろん、紹興酒も揃えられており、かめ出しが12年、それ以外は10年、15年、30年とバラエティに富んでいます。

アフタヌーンティー飲茶を体験できるのも素晴らしいです。ランチタイムには、点心を中心とした中華風アフタヌーンティーが行われています。日本でも飲茶は非常に人気があり、アフタヌーンティーはコロナ禍にあっても客足が落ちていません。網野氏の実力を存分に生かした試みであるといってよいでしょう。

「水綾閣」内観 (C) 東龍
「水綾閣」内観 (C) 東龍

最後に挙げたいのが内装。実はこの場所には以前、うなぎ店が入居しており、畳が張られた和風造りでした。コロナ禍なので、本来であればあまり経費をかけたくないところですが、全てをスケルトンにしてゼロから設計したので、黒やベージュを彩った落ち着いた雰囲気へと変わり、7つもの個室が設けられ、中国料理店として利用しやすくなったのです。厨房も什器が新調され、大きなホテルで使われているような釜も設置されました。焼き物が得意な横尾氏の才能をいかんなく発揮できるようになっているといえるでしょう。

オープンに至った背景

「水綾閣」のような高級中国料理店が、どうしてコロナ禍の中でオープンしたのでしょうか。

同店を運営する株式会社アールエヌフーズの代表取締役を務める西坂理恵氏は次のようにいいます。

「新型コロナウイルスの影響を受けて、横浜の飲食店は甚大な被害を受けた。この状態が長く続けば、街全体の活力が失われてしまうのではないかと危惧した」

そして、中国料理界に精通した知人を通して、横尾氏と網野氏を紹介してもらったといいます。

「2人とも横浜出身で横浜への愛着が深い。プロフェッショナルな姿勢と高い技術力にも感銘を受けた。何とかして一緒に横浜を盛り上げていきたいと気持ちがひとつになり、本格的な中国料理店をオープンするに至った」

開業するにあたっては、入口で検温と消毒を徹底し、席間隔も十分に設けました。光触媒(酸化チタン)、抗菌触媒(銀)、三元触媒(プラチナ)の組み合わせを応用した抗菌・防カビ・消臭製品「デルフィーノ」を店内全てにコーティングしているのも特筆するべき点です。これならば、コロナ禍でも十分に安心して食事できることでしょう。

横浜や中国料理を盛り上げるために

馬車道は歴史と先端、伝統と流行が混在し、街自体が進化を続けている特殊な場所。1869年「町田房蔵」による「氷水屋」が日本初のアイスクリーム製造・販売とされているなど、様々な食文化も内包されています。

日本人にとって最も馴染みのある外国料理は、中国料理であるといって間違いありません。「ミシュランガイド東京 2021」では、初めて中国料理店が三つ星として掲載されるなど、中国料理への関心も高まっています。

昔からトレンドを生み出す場所として注目されてきた馬車道に、実力派の料理人たちが腕をふるう本格的な中国料理店がオープンしたことによって、横浜の飲食店や中国料理が改めて耳目を集め、コロナ禍の逆境を乗り越え、再び盛り上があることを期待したいです。

グルメジャーナリスト

1976年台湾生まれ。テレビ東京「TVチャンピオン」で2002年と2007年に優勝。ファインダイニングやホテルグルメを中心に、料理とスイーツ、お酒をこよなく愛する。炎上事件から美食やトレンド、食のあり方から飲食店の課題まで、独自の切り口で分かりやすい記事を執筆。審査員や講演、プロデュースやコンサルタントも多数。

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