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3万円の焼肉から神戸ビーフに雷鳥 今注目したい高級肉料理の背景

東龍グルメジャーナリスト
焼肉 X/著者撮影

今注目の肉料理

夏は暑いのでこってりしたものが食べたくなくなりますが、冬は寒いので逆にしっかりとした味付けのものが食べたくなるものです。

しっかりとした食材といえば、やはり肉。動物は寒い冬を乗り越えるために、たくさん栄養のある餌を食べて脂肪を蓄えるので、ますますおいしくなります。

焼肉店はもちろん、肉をメインとする肉業態は人気があり、イタリアンと肉、ビストロと肉といった複合的な業態も少なくありません。

色々な肉料理がありますが、今特に注目したい肉料理を提供している焼肉、鉄板焼、フランス料理を紹介しましょう。

焼肉 X

白トリュフ、松阪牛、都萬牛、但馬玄、但馬牛のディスプレイ@焼肉 X/著者撮影
白トリュフ、松阪牛、都萬牛、但馬玄、但馬牛のディスプレイ@焼肉 X/著者撮影

肉料理といえば、真っ先に思い浮かべるのが焼肉ではないでしょうか。外食でも自宅でも焼肉は人気であり、日本で最も身近な肉料理であると思います。

高級な焼肉店はもちろん存在しますが、多くのファミリー向けチェーン店が全国に展開していることから、焼肉が高級というイメージはあまりないかもしれません。

そのような状況の中、1日4組限定で3万円を超える「おまかせコース」のみを提供し、話題をさらっている超高級な焼肉店があります。

それは、以下をコンセプトにして2019年3月25日にオープンした「焼肉 X(YAKINIKU TEN)」。

  • 本物の和牛の素晴らしさを伝える
  • 本能に訴えかけるタレ焼肉の美味しさ
  • 最高の焼きで仕上げる匠みの焼き
  • 全室『完全個室』、専任の焼き手による至極の贅沢
  • お肉とワインのマリアージュ

焼肉で天、頂点、最上を目指し、全ての生産者や食材に感謝し、その素晴らしさを10割あますことなく伝える責任があるということから、店名が付けられたといいます。

究極の焼肉を目指す「焼肉 X」では、どのような焼肉が提供されているのでしょうか。

コース内容

但馬玄ユッケ@焼肉 X/著者撮影
但馬玄ユッケ@焼肉 X/著者撮影

「焼肉 X」で提供されているのは次の「おまかせコース」のみ。

店主でありシェフを務める川崎亮氏はフレンチやステーキハウスなど様々な業態を経験してきたアイデア溢れる料理人です。

おまかせコース

  • 究極のコンソメエキス
  • 本日のナムル6種盛り合わせ
  • 但馬玄ユッケ
  • 薄切り極みタン
  • 厚切りタン
  • タンしゃぶ
  • ミノサンド
  • チョレギサラダ
  • 極上レバー
  • ホルモンシャンパン煮込み
  • 都萬牛 赤身
  • ギアラと九条ネギ
  • 松阪牛サーロインの極上焼きすき
  • 都萬牛ハラミ
  • 但馬玄カルビ
  • キャビア冷麺
  • ホルモン炊き込み御飯
  • デザート

全部で18品と非常に充実しています。コンソメに始まり、様々な肉を楽しんでから、冷麺とご飯もの、最後にデザートというオーソドックスな流れ。

三大和牛のひとつ松阪牛に加えて、月に2~3頭しか出荷されず、幻の但馬牛ともいわれる但馬玄、年間出荷頭数70頭の宮崎県の都萬牛など、非常に希少な牛肉が組み込まれているのが大きな特徴でしょう。

注目料理

但馬牛のタン@焼肉 X/著者撮影
但馬牛のタン@焼肉 X/著者撮影

「究極のコンソメエキス」は宮崎県の都萬牛を用いた澄み切ったスープ。骨とスネ肉を三日間煮込んでしっかりとした味わいに仕上げています。最初に牛のコンソメを提供するのは、ありそうであまりなかった構成です。

「但馬玄ユッケ」は、但馬玄の12度という融点の低さをじっくりと体験できる前菜。細切りユッケに北海道のウニ、オータムトリュフを合わせた力強い一品と、レモンとサワークリーム、角切りのユッケ、キャビアが層を成すバランス感のとれた一品が同じプレートに。同じユッケで、食味とテクスチャの違いを食べ比べできます。

「キムチ」はサラダ感覚で、浅漬けしたもの。白菜、ミニトマト「アイコ」、パイナップル、長芋と面白い取り合わせ。トマトもパイナップルも浅漬けであれば、そのフレッシュさが生きており、おいしく食べられます。川崎氏は「焼肉では季節感を表現しにくいので、サイドメニューで旬を表現したい」と述べます。

「薄切り極みタン」「厚切りタン」「タンしゃぶ」は但馬牛のタンにおける様々な部位を色々な調理法で味わえるのが魅力。「ミノサンド」は宮崎県日向市の特産品である柑橘「ヘベス」をコンディメントにし、ミノの風味を引き出した料理です。

松阪牛サーロイン、都萬牛ハラミ、但馬玄カルビ@焼肉 X/著者撮影
松阪牛サーロイン、都萬牛ハラミ、但馬玄カルビ@焼肉 X/著者撮影

「極上レバー」は目の前で搾られたゴマ油につけて食べます。レバーは味わいも風味も強いですが、搾りたてのゴマ油はピーナッツバターのような濃厚さとまろやかさがあるので、レバーを寛大に包み込むような風味に。

「ホルモンシャンパン煮込み」は、シャンパーニュの「ジャクソン キュヴェ 741」と牛骨などで作られたスープで、小腸を80度6時間煮込んだ一品。シャンパーニュのフルーティーさをまとっており、心地よい酸味も感じられます。

「松阪牛サーロインの極上焼きすき」は松阪牛のサーロインと宮崎県の飛来幸地鶏の卵を用いたすき焼き。季節によってはオプションで白トリュフもたっぷりとスライスされ、非常に豪奢な一皿に。

最後に提供される肉は「但馬玄カルビ」。カルビは重たいので普通最後に提供されませんが、「但馬玄は口の中でさらっと溶けるので、全く重たくない」と川崎氏が述べるように、適度な脂と和牛がもつ旨味だけが残ります。

「デザート」はミルクやアカシアのハチミツを液体窒素で凍らせ、目の前で作られるジェラート。白トリュフは時季によってオプションでスライスしてもらえます。ジェラートは出来たてで空気を多く含んでいるので、ふわっとすぐに口溶けるのが特徴。

背景

ホルモン炊き込み御飯@焼肉 X/著者撮影
ホルモン炊き込み御飯@焼肉 X/著者撮影

「焼肉 X」を運営する株式会社Mark&Westの代表取締役社長である高田賢介氏に話を聞きました。

「肉割烹でも、塩やわさびなどで提供する今風の焼肉でもなく、日本人のルーツに根差したタレ焼肉の最高峰を目指し、1年半前にプロジェクトがスタートした。焼肉の新しい価値に反応していただける感度の高いゲストがメインターゲット」と高田氏は振り返ります。

これだけ高級な焼肉ですが、はじめに価格帯があったわけではありません。どのようなものがあったら嬉しいかを考えたら、このような価格のコースができあがったということです。

それぞれの食材はどのようにして選定されたのでしょうか。

「和牛はプロデューサーの田辺晋太郎さんからの情報をもとに生産者を訪ねた。心から共感してお勧めしたいと選んだのが但馬玄、都萬牛、松阪牛。野菜は、秋田から大分まで、素晴らしい旬の食材をつくっている生産者から直接購入している」といいます。

川崎氏は「どれくらいの品数にしようか色々と考えた。22品や15品も候補に挙がったが、最終的には18品に。そこから改めて何を提供するのか試行錯誤した」と述懐。

「焼肉 X」の特徴として挙げられるのは、全室完全個室であり、ひとつの部屋に2人の専門スタッフがつくこと。全ての料理は、特注ロースターと小さな鉄板を使い分けて、部位によって適切な火入れがされています。搾りたてのゴマ油を提供しているのも、他では見かけられません。

焼肉店であるにもかかわらず、ソムリエが3名もいるというのも驚くべきところ。それなりのフランス料理店であっても、ソムリエが1人いるかどうかといったことは少なくありません。

これから

デザート@焼肉 X/著者撮影
デザート@焼肉 X/著者撮影

よい和牛とは何かと尋ねてみたところ、高田氏は「私たちが考えるおいしい和牛は、どれだけ食べても決してもたれることがなく、体に負担のないもの。それは上質な脂質をもった和牛であり、とても健康的に育てられている」といいきります。

これだけのこだわりをもち、話題になっている「焼肉 X」を今後展開していく予定はあるのでしょうか。

「最上のものを最上のゲストに届けるという方針なので、多店舗展開していくことは難しい。しかし、和牛の仕入れのシナジーを活かすことを考えれば、最高級のしゃぶしゃぶや鉄板焼を展開することはありえる」と述べるので、最高峰を標榜する「しゃぶしゃぶ X」や「鉄板焼 X」を体験できる日も近いかもしれません。

鉄板焼みたき

焼き胡麻豆腐@鉄板焼みたき/著者撮影
焼き胡麻豆腐@鉄板焼みたき/著者撮影

高級な肉料理として挙げられるのがステーキ。中でも、目の前で料理人が焼いてくれる、日本独特の鉄板焼は肉料理の極みといってよいでしょう。

訪日外国人が増える中、黒毛和牛を堪能できる鉄板焼店が増えてきましたが、2019年9月26日にオープンした三井ガーデンホテル銀座五丁目の「鉄板焼みたき」に注目したいです。

福岡で宮崎牛を提供する隠れ家的な「鉄板焼みたき桜坂」を展開していますが、この銀座でも新たに鉄板焼店を開業し、今度は神戸ビーフをメインに据えました。

フジテレビ「料理の鉄人」において和の鉄人として知られる中村孝明氏のレストランで、取締役総料理長まで務めた鈴木一生氏が統括総料理長として全ての料理を手掛けています。

「鉄板焼みたき」では、どのような鉄板焼が楽しめるのでしょうか。

コース内容

フォアグラ大根@鉄板焼みたき/著者撮影
フォアグラ大根@鉄板焼みたき/著者撮影

「鉄板焼みたき」の鉄板焼を存分に楽しむのなら、こちらのコース。

極コース

  • 焼き胡麻豆腐
  • フォアグラ大根
  • 鮑と帆立焼き 焼き野菜と一緒に
  • 伊勢海老クリームチーズ味噌
  • 鯛と果実のサラダ
  • 神戸牛リブロース(80g)
  • 鮮魚と季節野菜の酢物 煎酒ジュレ掛け
  • ガーリックライス または トリフ香る茸ライス ハーブ卵添え
  • 赤出汁 香の物
  • デザート
  • コーヒー または 紅茶

目玉となる神戸ビーフに加えて、フォアグラ、鮑、伊勢海老、黒トリュフと高級食材が目白押しです。中でも珍しいのは、黒トリュフを用いた最後のご飯ではないでしょうか。

注目料理

伊勢海老クリームチーズ味噌@鉄板焼みたき/著者撮影
伊勢海老クリームチーズ味噌@鉄板焼みたき/著者撮影

「焼き胡麻豆腐」は、胡麻豆腐を鉄板焼で仕上げるという珍しいもの。胡麻豆腐のしっかりとした風味とウニの濃厚さが合っています。最初は冷前菜を提供することが多いですが、「せっかく鉄板があるので、焼いて温かいものを食べていただきたい」というのは鈴木氏。

「フォアグラ大根」は大根の上にフォアグラをのせた和洋折衷の一品です。餡は鰹出汁、醤油、ミリンで作られており、大根も鰹出汁で味付けしています。フォアグラは濃厚ですが、大根のジューシーさでさっぱりとした後口。

「伊勢海老クリームチーズ味噌」は、オーソドックスなクリームソースのグラタンであるテルミドールではなく、クリームチーズと西京味噌を合わせたオリジナルメニューです。クリームチーズの甘味と西京味噌の甘味が、伊勢海老の旨味を引き出しています。鈴木氏曰く「クリームチーズに何か和の調味料を合わせたいと思い、醤油、ミリンなど色々と試してみたところ、チーズ同様に発酵食品の西京味噌が最も合っていた」ということです。

「鯛と果実のサラダ」は、普通のサラダだとつまらないということから、サラダによく合う白身魚やフルーツを合わせ、相性のよい柚子ドレッシングをかけています。

神戸牛リブロース(80g)@鉄板焼みたき/著者撮影
神戸牛リブロース(80g)@鉄板焼みたき/著者撮影

「神戸牛リブロース」は、脂がのっているので、80グラムでかなりのボリューム感。コンディメントはおろしポン酢、本わさびという定番に加えて、ねぎ味噌も。ねぎ味噌の甘味と塩味が、神戸ビーフの味わいを深めます。

「鮮魚と季節野菜の酢物 煎酒ジュレ掛け」は、次に提供されるお食事前の口直し。グラニテではなく酢の物を合わせたところがポイントです。「煎り酒のジュレでやや甘めになっている。鉄板焼では生魚があまり出てこないので、ここでは炙りサバやカンパチを使用している」と鈴木氏は述べます。

「トリフ香る茸ライス ハーブ卵添え」はニンニクが苦手でガーリックライスを食べられない人でも食べられるご飯。卵は黒トリュフと相性がよいことから、ハーブ卵も添えられています。

デザートは専任のパティシエが作ったイタリア・ガルバーニ社のマスカルポーネチーズ。ラム酒と木枡の香りが豊かです。

背景

ガーリックライス または  トリフ香る茸ライス ハーブ卵添え@鉄板焼みたき/著者撮影
ガーリックライス または トリフ香る茸ライス ハーブ卵添え@鉄板焼みたき/著者撮影

オリジナリティに溢れる鉄板焼ですが、どのような経緯でオープンに至ったのでしょうか。

「福岡で運営している『鉄板焼みたき桜坂』が好評であり、銀座という立地でも、上質な和牛を堪能できる鉄板焼が支持されるのではないかと考えた。『鉄板焼みたき』は『SHARI』という和食店の中に入らないと辿り着けないので、『鉄板焼みたき桜坂』と同じように隠れ家的な鉄板焼」と鈴木氏は説明します。

「鉄板焼みたき桜坂」では宮崎牛を提供していますが、「鉄板焼みたき」ではなぜ神戸ビーフを提供しているのでしょうか。

「銀座には多くのブランド食材が集まり、訪日外国人の観光で賑わう。世界中の人々に利用していただき、高揚感を楽しんでいただくには、世界に通じる神戸ビーフがよいと考えた」と答えます。

「和食店の中に鉄板焼があり、和食の職人もいるので、本格的な和食も楽しんでいただける。神戸ビーフのステーキと和食が楽しめるということでは、二度おいしいレストランではないか」と和食にも自信があるということです。

これから

デザート@鉄板焼みたき/著者撮影
デザート@鉄板焼みたき/著者撮影

神戸ビーフという目玉に加えて、職人による和食も食べられ、他では食べられない独自のメニューも少なくありません。

今後どういったことを考えているのかと訊くと「これまでの鉄板焼コースでは、ステーキ以外の料理は添え物に過ぎなかった。しかし、『SHARI』は王道の日本料理もステーキも楽しんでいただける。和食と鉄板焼をますます融合させていきたい」と力を込めます。

店名の「みたき」は、同じグループが運営している1946年に開業した料亭「三瀧荘(みたきそう)」からとりました。

料亭から名をいただき、日本料理にも自信をもつ「鉄板焼みたき」で神戸ビーフと日本料理を楽しんでもらうことによって、国内外の人に日本の食の素晴らしさが伝わることを期待したいです。

レ セゾン(帝国ホテル 東京)

猪のゼリー寄せ モンブランに見立てて@レ セゾン/著者撮影
猪のゼリー寄せ モンブランに見立てて@レ セゾン/著者撮影

肉料理といえば、ステーキといった肉業態を想像することが多いですが、美食を誇るフランス料理では、メインディッシュとして肉料理がとても重要視されます。

特にこの秋は、狩猟が解禁されてジビエが出回る時季。本格的なフランス料理であればあるほど、旬の食材を大切にするので、ジビエ料理に力を入れています。

ただ、一流ホテルの高級フランス料理店となると、ジビエが苦手なゲストがいたり、特別メニューを提供するのは手間がかかったりするので、なかなかジビエを全面に押し出さないものです。

そのような状況で、毎年本格的なジビエ料理を提供し、フランス料理としての矜持を示しているレストランがあります。

それは、ミシュランガイドで1つ星を獲得し続けている帝国ホテル 東京「レ セゾン」です。

シェフを務めるのは、フランス・シャンパーニュ地方を代表する名門レストラン「レ クレイエール」でもシェフを担ったティエリー・ヴォワザン氏。ヴォワザン氏が紡いだ料理の数々は、まさに本場のフランス料理そのもの。日本にいながらにして、本当のフランス料理の哲学を体験できるということで、根強いファンが多いです。

このヴォワザン氏によって、どのようなジビエ料理が生み出されているのでしょうか。

コース内容

なめらかに仕上げた雌雉のヴルテ@レ セゾン/著者撮影
なめらかに仕上げた雌雉のヴルテ@レ セゾン/著者撮影

ヴォワザン氏による初冬のジビエコースはこちらです。

La saison des saisons 初冬のジビエメニュー

  • 猪のゼリー寄せ モンブランに見立てて
  • なめらかに仕上げた雌雉のヴルテ
  • 青首鴨と伊勢海老 季節の茸と干し柿
  • 蝦夷鹿ロース肉のロティ 酸味のあるマルメロとビーツのコンディマン 薫香をつけたバターナッツカボチャ
  • 雷鳥のインペリアル風
  • 甘いスパイスを香らせた洋梨とムントック産白胡椒風味のグラス
  • カフェとショコラ

猪、雌雉、青首鴨、蝦夷鹿、雷鳥と、一つのコースの中で前菜からメインまで全てをジビエで構成しており、まさにジビエ尽くしの内容となっています。これだけ多くの希少なジビエを一度に堪能できるコースなど、他を探してもなかなかないでしょう。

ゼリー寄せやなめらかなスープに仕上げたり、甲殻類と組み合わせたり、ロースト、ロワイヤル(血入りの赤ワインソース)と調理方法もバラエティに富んだりしているので、ジビエが続いても全く飽きさせない構成です。

また、帝国ホテルには肉専門のブッチャーシェフがおり、目利きして良質な肉を取り入れていることは有名。ジビエに関しても、ブッチャーがフェザンタージュ(熟成)し、ブッチャーシェフが熟成具合を鑑みて、ヴォワザン氏と相談し、一番よい状態のものを厳選して提供しています。

まさに、フランス料理のジビエとは何であるかを物語っているのではないでしょうか。

注目料理

青首鴨と伊勢海老 季節の茸と干し柿@レ セゾン/著者撮影
青首鴨と伊勢海老 季節の茸と干し柿@レ セゾン/著者撮影

「猪のゼリー寄せ モンブランに見立てて」はサングリエ(猪)を用いた最初の冷前菜。栗のチップとクリームが添えられており、見た目がまさに美しいモンブランのアシェットデセール(皿盛りデザート)です。

サングリエは赤ワインと香辛料で1日マリネした後、弱火で6時間も煮込み、煮汁でゼリー寄せに仕上げています。野性味が穏やかになり、赤ワインとスパイスによってサングリエの風味がより一層豊かになり、トリュフ風味のビネグレットも心地よい刺激。

「なめらかに仕上げた雌雉のヴルテ」はフェザン(雉)のガラでとった出汁で作った濃厚でなめらかなスープ。フェザンのしっかりとした滋味が感じられますが、蕎麦の実が散らされているので、香り高く、口当たりも軽やかです。ヴルテの中には、フェザンの腿肉と胸肉のムースが入っていて、味わいに複雑さを与えています。

「青首鴨と伊勢海老 季節の茸と干し柿」は、高い食味を誇る食材として知られるコルヴェール(青首鴨)と、日本の美食材のひとつである伊勢海老を取り合わせた意欲的な料理。スープは伊勢海老と赤座海老による甲殻類の旨味がたっぷりで、フェンネルが爽やかさを加えています。

蝦夷鹿ロース肉のロティ 酸味のあるマルメロとビーツのコンディマン 薫香をつけたバターナッツカボチャ@レ セゾン/著者撮影
蝦夷鹿ロース肉のロティ 酸味のあるマルメロとビーツのコンディマン 薫香をつけたバターナッツカボチャ@レ セゾン/著者撮影

「蝦夷鹿ロース肉のロティ 酸味のあるマルメロとビーツのコンディマン 薫香をつけたバターナッツカボチャ」は、蝦夷鹿をローストしたオーソドックスな肉料理だと思ったら、蝦夷鹿にパンチェッタを巻いた、濃厚ながらもマイルドに洗練された一品に仕上げられています。カリンに似た果物であるマルメロとビーツの甘いコンディメントを合わせるとよいアクセントになり、バターナッツカボチャのクリームを合わせると旨味が強調されます。

「雷鳥のインペリアル風」は完成までに4日間を要する手間暇のかかる料理。グールーズ(雷鳥)には独特の風味があるので、赤ワインと香味野菜で一晩マリネした後に12時間火入れし、じっくりと調理されています。グールーズの内臓も共にクレピネットで包み込んでおり、赤ワインに合うどっしりとした味わいに。トリュフを取り入れているのも特徴です。トランペット茸が合わせられており、旨味が増しています。

「甘いスパイスを香らせた洋梨とムントック産白胡椒風味のグラス」は、インドネシア名産の白胡椒を使ったアイスクリームで、スパイシーさが印象に残るさっぱりとした味わい。洋梨の泡とチップ、洋梨とイチジクも添えられているので、変化を楽しめます。

背景

雷鳥のインペリアル風@レ セゾン/著者撮影
雷鳥のインペリアル風@レ セゾン/著者撮影

毎年充実したジビエ料理を提供しているだけに、ヴォワザン氏によるジビエの目利きには非常に信頼が置かれますが、今年のジビエのクオリティや値段はどうなのでしょうか。

ヴォワザン氏は「価格や質は例年通りではないか」と答えます。

毎年楽しみにしているゲストも多いですが、改めてなぜジビエコースを提供しているのかと尋ねると「ジビエはフランスの食文化であり伝統料理。旬に召し上がっていただきたいので、毎年ご提供している。日本で例えると、お正月におせち料理を食べるような感じかもしれない」と分かりやすく説明します。

昨年のジビエコースとの違いについては「今年はより多くのジビエをコースの中に取り入れた。昨年は3品であったが、今年は前菜からメインまで5品全てがジビエで構成されている。ジビエを目当てにいらっしゃるゲストも多いので、ますますご満足いただいている」。

今年は5品ものジビエ料理を提供していますが、何か気を付けていることはあるのでしょうか。

「ジビエでコースを構成するにあたって、四つ足動物、鳥をバランスよく取り入れるように心掛けている。メインを選定する際にはソースの濃さをポイントにした。コースを召し上がっていただく中で、だんだんと濃厚になるようにしていき、一つ一つ味わいや料理の印象が残るよう、順番に配慮している」とジビエに関する哲学を述べます。

これから

甘いスパイスを香らせた洋梨とムントック産白胡椒風味のグラス@レ セゾン/著者撮影
甘いスパイスを香らせた洋梨とムントック産白胡椒風味のグラス@レ セゾン/著者撮影

ジビエを知り尽くしているヴォワザン氏は、ジビエに対してどのような調理方法がよいと考えているのでしょうか。

「素材が最も生きる調理法を第一に考えている。見せ方はその時にあったものを取り入れられたらよいのではないか」と、ジビエそのものを尊重しているといいます。

来年も引き続きジビエコースが提供されるということですが、次回はどのように四つ足動物と鳥を組み入れるのか、どのジビエをメインディッシュにするのかなど、興味は尽きません。

本物のジビエ料理を知るヴォワザン氏によるジビエコースは、この時季しか提供されないだけに、是非とも訪れたい高級肉料理ではないでしょうか。

世界的に肉の消費量が伸びている

最高峰の焼肉を標榜して完全個室で専属スタッフがつく「焼肉 X」、神戸ビーフをメインに据えながらも新しいスタイルに挑戦する「鉄板焼みたき」などの肉業態に加えて、この季節だけしか堪能できない美食のジビエコースを提供する帝国ホテル 東京「レ セゾン」のフランス料理を紹介しました。

食の多様性が尊重されるようになり、肉を全く食べない方もいますが、今も昔もメインディッシュは肉料理であることから、肉が人類のご馳走であることは間違いありません。

農林水産政策研究所による「2028年における世界の食料需給見通し」では、肉の消費量は世界的に伸びることが示されており、人類の肉好きはこれから先も続くようです。

肉には良質なタンパク質や亜鉛など栄養分も豊かであり、焼肉や鉄板焼、フランス料理で存分に楽しむことができるだけに、今注目の肉料理を体験してみることをオススメします。

グルメジャーナリスト

1976年台湾生まれ。テレビ東京「TVチャンピオン」で2002年と2007年に優勝。ファインダイニングやホテルグルメを中心に、料理とスイーツ、お酒をこよなく愛する。炎上事件から美食やトレンド、食のあり方から飲食店の課題まで、独自の切り口で分かりやすい記事を執筆。審査員や講演、プロデュースやコンサルタントも多数。

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