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テレビCMも放送する大江戸温泉物語が施設を再生できる理由とそのブッフェが人気の秘密

東龍グルメジャーナリスト
金目鯛をはじめとした刺し身(熱海伊豆山 ホテル水葉亭)/著者撮影

温泉好きな日本人

日本人は世界の中でも温泉好きであるといわれています。

国内には約3000もの温泉があり、湯治だけではなく娯楽としても温泉を利用していることが特徴的です。こういった温泉好きや風呂好きという連想から、日本人は清潔できれい好きというイメージを世界からもたれています。

日本人は縄文時代から温泉に入っていたかもしれないといわれているほどで、現在では温泉がひとつの娯楽としてしっかり定着しており、温泉をコンセプトにした施設も少なくありません。

そして、温泉をコンセプトにした施設を運営する会社といえば、全国に37施設を擁する大江戸温泉物語ホテルズ&リゾーツが筆頭に挙げられるのではないでしょうか。

2019年5月25日から関東でテレビCMが放送されているので、訪れたことがない人であっても名前を聞いたことがある人は多いかもしれません。

大江戸温泉物語ホテルズ&リゾーツは「いつでも、気軽に、何度でも」利用できることをコンセプトに掲げており、リーズナブルな料金に設定し、賑やかで楽しく過ごせる温泉宿や温泉テーマパークを展開しています。

東京であればお台場にある「東京お台場 大江戸温泉物語」が特に有名ではないでしょうか。

TAOYA志摩がオープン

この大江戸温泉物語ホテルズ&リゾーツが37施設目として2019年4月19日にオープンしたのが、新ブランドの温泉リゾートであるTAOYA志摩です。中京や関西のテレビなどで紹介されており、注目されている施設となっています。

「ゆったりと、たおやかに」過ごせることをコンセプトにしており、開放感溢れるオーシャンビューを擁し、館内もモダンな造りとなっていますが、これまでの施設と同じように手軽さや気軽さはそのまま踏襲しています。

実は、このTAOYA志摩を含めたどの宿泊施設も、ゼロからは造られていません。もともとあった施設を購入してリブランドとリノベーションを行い、新しい温泉施設として甦らせているのです。

多くの施設を生まれ変わらせていることから、大江戸温泉物語ホテルズ&リゾーツは温泉施設の再生企業として注目されています。

2018年の客室稼働率に関していえば、観光経済新聞<客室稼働率じわり上昇、昨年61% 観光庁速報、2010年以降で最高値>によるとシティホテルが79.9%、ビジネスホテルが75.3%、リゾートホテルが58.3%、旅館が39.0%、簡易宿所が28.6%となっており、IR資料によると、大江戸温泉物語ホテルズ&リゾーツの施設は87.5%なので非常に好調であることが分かるでしょう。

再生できる理由

では、どうして不振を極めていた施設を再生させられるのでしょうか。

マーケティング本部次長を務める前原孝行氏は以下の3つを主因として挙げます。

  • 集客を最大化するマーケティング
  • 顧客目線のサービス
  • 効率的なオペレーション

マーケティング本部が、本来のマーケティング業務だけではなく、レベニュー(客室の値段)をマネジメントしていたり、コールセンターを管理していたりし、集客にまつわる全ての機能を有しています。そうすることによって、いちはやくゲストの動きを把握して臨機応変に対応できるのです。

次に、旅館でありながらも顧客目線からプライベートを重要視しているといいます。たとえば、前敷きといってチェックイン前に布団を敷いておく方式を採用しているので、ゲストが客室に入ってから布団を敷くということはありません。

最近では客室に他人を入れたくないというゲストが多いので、前敷きはとても好評です。荷物を置くスペースはしっかり設けられているので、布団が敷いてあっても気にならないでしょう。

最後に挙げられている効率的なオペレーションとは、主にブッフェのことです。これまで仲居が全て部屋まで訪れて上げ下げしていた食事スタイルから、ブッフェに変更したことによって、オペレーションが効率化されました。効率化された分だけ食事の質を上げることができ、顧客満足度も高まったというのです。

そして、これらを実現していながらも、1泊2食付きで有名温泉に入れて1万円以下というコストパフォーマンスが圧倒的な支持を得ているといいます。

ブッフェに注力

施設を再生させる理由のひとつとして紹介しましたが、大江戸温泉物語ホテルズ&リゾーツがとりわけ力を入れているのがブッフェです。

ブッフェのレベルを高めるため、2007年に最高料理顧問として高階孝晴氏を迎えました。

高階氏は、年間80万もの人々が訪れ、最も有名なホテルブッフェのひとつとして挙げられる品川プリンスホテル「ハプナ」で料理長を務めたその道のスペシャリストです。

高階孝晴氏プロフィール

  • 1972年

株式会社プリンスホテル入社

  • 1988年

東京プリンスホテルガーデン料理長

  • 1991年

東京プリンスホテル洋食調理課長

  • 1996年

厚生省専門料理師 労働省調理技能士

  • 1997年

品川プリンスホテルレストラン「ハプナ」料理長

  • 1998年

全日本司厨士 銀メダル

  • 2003年
  • 品川プリンスホテル料理部部長
  • 2004年

東京都優良調理師知事賞

  • 2007年

株式会社大和さくらい総料理長、大江戸温泉物語株式会社顧問

以上の経歴からいっても、一流の料理人であることは確かでしょう。

高階氏による改革

寿司の実演(伊東温泉 ホテルニュー岡部)/著者撮影
寿司の実演(伊東温泉 ホテルニュー岡部)/著者撮影

高階氏によって、主に以下の要素をブッフェに取り込んで顧客満足度を高めてきました。

  • 目玉になる地元特産品の提供
  • できたてを提供できるライブキッチン
  • 季節に合わせて年4回のフェア料理

それぞれの地域に合わせた特産品を提供して、地元ならではの味わいを体験できるようにしました。

観光宿のブッフェであるからといって出来合いのものを許さず、しっかりと作り上げてライブキッチンで臨場感たっぷりに提供するようにしています。

一年中同じような品揃えを提供するのではなく、旬をしっかりと感じられるようにと、フェアを開催してメニューも入れ替えました。

目玉商品、ライブキッチン、フェア開催という要素は、洗練されたシティホテルのブッフェでも重要となる要素です。

このどれもが提供者に負担がかかるものなので、宿泊とセットになったブッフェであれば、料飲部は本来あまりやりたがらないものでしょう。

しかし、ブッフェの価値を向上させるために、高階氏のもとで、あえて負担のかかることを行い、顧客満足度を高めてきたのです。

ブッフェの詳細

では、具体的にはどのようなブッフェが提供されているのでしょうか。

特に人気の観光地である伊東や熱海を例にとってみましょう。

1人前の舟盛りになった金目鯛の刺し身(伊東温泉 ホテルニュー岡部)/著者撮影
1人前の舟盛りになった金目鯛の刺し身(伊東温泉 ホテルニュー岡部)/著者撮影

伊東温泉 ホテルニュー岡部では、エントランスに入るとすぐ目の前で寿司が握られており、鉄板焼、天ぷらも実演で行われています。目玉となる金目鯛の刺し身は、甘海老と共に1人前の舟盛りで提供されているので、非常に特別感が溢れているでしょう。

アミューズや実演料理が並んだ長いブッフェ台(熱海伊豆山 ホテル水葉亭)/著者撮影
アミューズや実演料理が並んだ長いブッフェ台(熱海伊豆山 ホテル水葉亭)/著者撮影

熱海伊豆山 ホテル水葉亭は、約20メートルのカウンターに美しいグラスのアミューズが並べられており、その隣には鉄板焼や天ぷらが提供されています。海鮮類は甘海老、鯛、金目鯛、鮪、鰹の刺し身は大きな舟盛りで用意されており、圧巻であるといえるでしょう。

ブッフェカート(熱海伊豆山 ホテル水葉亭)/著者撮影
ブッフェカート(熱海伊豆山 ホテル水葉亭)/著者撮影

ブッフェカートが準備されており、楽にブッフェプレートを運べるようになっているのも注目です。カートが通れるくらいの通路幅を確保しなければならないので、他のレストランではそうそう真似ができません。

どちらの施設とも海の幸がふんだんに使われており、アイテム数は全部で100種類以上を超える壮大なブッフェとなっています。

他に注目の施設として挙げたいのは箕面観光ホテル。「和洋中の三大料理の巨匠が贈る豪華バイキング」と題して、洋食の高階氏、中国料理の陳建一氏、日本料理の前川敬一氏がコラボレーションしたブッフェが行われています。

シティホテルであれば話題の料理人を招聘してコラボレーションを行うことも珍しくありませんが、リゾートの宿泊施設で全国区レベルの料理人たちが腕をふるうのは非常に驚きです。

現在のブッフェに至るまで

金目鯛をはじめとした刺し身(熱海伊豆山 ホテル水葉亭)/著者撮影
金目鯛をはじめとした刺し身(熱海伊豆山 ホテル水葉亭)/著者撮影

魅力的なブッフェを完成させるまでに、どういった背景があったのでしょうか。

高階氏は「私が関わるまでは、料理の味を均一化するために出来合いのものを使っていた。しかし、そういった料理ばかりであると、いずれ飽きが訪れるので改革が必要であると考えていた。手作りした料理を提供できるように、また、調理場の意識を高められるようにと、リノベーションする際にライブキッチンを設置するようにした」と説明します。

大手の宿泊予約サイトで口コミ評価が高いことに関しては「伊東温泉 ホテルニュー岡部は個室感があり、刺し身や煮物にも力を入れているので、安定した人気がある。熱海伊豆山 水葉亭は長いブッフェ台がとてもダイナミックで、女性のゲストが多い」と分析します。

さらには「ブッフェで寿司、天ぷら、刺し身に肉料理まであり、季節によってはカニも用意している。これだけのものをご用意していても、お得に感じていただきたいので、無駄を省いて値段を極力抑えるように努力している」と真摯に述べます。

国内旅行のテーマで「食・グルメ」が2位

JTBのアンケートによれば、国内旅行のテーマは「温泉(64.4%)」「食・グルメ(55.0%)」が1位と2位を占めていますが、これはつまるところ、大江戸温泉物語ホテルズ&リゾーツの施設が強みとしている要素ではないでしょうか。

前原氏が「今後も引き続き、ブッフェのフェア企画を継続していき、新しい名物料理を開発していく」と力を込めて語ると、それに呼応する形で、高階氏が「オープンしたばかりのTAOYA志摩では初めての試みとして、ビスクや飲茶をワゴンサービスでテーブルまで運んでいる」と例を挙げます。

その地域の有名温泉で疲れた体を癒すことができ、ライブキッチンと共に地元の食材や料理を堪能できるブッフェで満足させてくれる大江戸温泉物語ホテルズ&リゾーツは、まさに現代のニーズを的確に捉えた、人々の心身を甦らせる企業であるといってよいかもしれません。

グルメジャーナリスト

1976年台湾生まれ。テレビ東京「TVチャンピオン」で2002年と2007年に優勝。ファインダイニングやホテルグルメを中心に、料理とスイーツ、お酒をこよなく愛する。炎上事件から美食やトレンド、食のあり方から飲食店の課題まで、独自の切り口で分かりやすい記事を執筆。審査員や講演、プロデュースやコンサルタントも多数。

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