大反響のキッチンも客席もシェアする新しい飲食店とは?
フードシェアリングが盛り上がっている
シェアリングエコノミーが引き続き世の中を賑わせています。
宿泊施設や民宿を貸し出す人向けのサービス「Airbnb」や自動車配車サービス「Uber」が発展を遂げていく中で、食品ロスを削減できるという観点もあって、食を共有するフードシェアリングも進化しています。
<絶対にやってもらいたい食品ロスを削減するための最も簡単なこと>では、フードシェアリングを実現する国内初のアプリ「TABETE」などを取り上げました。
食材や料理をシェアして有効に使うことによって、食品ロスを削減するサービスがほとんどですが、ここにきてまた新しい形のフードシェアリングのサービスがローンチされようとしています。
それは、キッチンも客席もシェアする飲食店「シェフのためのコワーキングスペース」です。
シェフのためのコワーキングスペース
2018年9月3日に、食マーケティング総合企業「favy」が「シェフのためのコワーキングスペース」へ入居する料理人の募集を始めました。
これまでに、ひとつのレストランでシェフが替わっていくということはありました。しかし、プレスリリースにも記載されているように、シェア型レストランとして飲食に特化したコワーキングスペースは、日本で初めてではないでしょうか。
概要
「シェフのためのコワーキングスペース」の概要はこちらです。
1つの飲食店を5人のシェフで共有する仕組みです。
共有するとなると、ダイニングスペースは狭くなりそうですが、実際はどうなのでしょうか。
シェフが5人いて、それぞれに調理機材と収納スペースが用意されているので、通常のレストランよりもキッチンは広いと考えられます。仮にキッチンが店舗の50%くらいを専有していたとすると、120坪で120席なので1坪あたり2席。
1坪あたり2席であれば、ファインダイニングより狭いですが大衆居酒屋よりはずっと広いでしょう。
解決できる課題
この日本でも珍しい「シェフのためのコワーキングスペース」を作るにあたって、「favy」が解決しようとした課題は次の通りです。
料理人が独立して自分の店をオープンしようとした時、確かにこの3つの課題に悩まされます。理由は、料理人は料理を作るのが得意ですが、ここで挙げられた3つは調理能力と全く関係ないからです。
全てのリスクをいきなり負って飲食店をオープンするのではなく、まずはリスクの少ない「シェフのためのコワーキングスペース」で起業し、そこからノウハウを蓄積していくのは、料理人にとってよいのではないでしょうか。
「シェフのためのコワーキングスペース」を卒業して独立する際には、「favy」から仕入先の紹介やスタッフの教育など、飲食店を経営するノウハウも提供されます。
いくつかのポイント
ここまで紹介してきたように、「シェフのためのコワーキングスペース」は店舗をシェアして、キッチンや客席、そして客を共有するという新しいフードシェアリングです。
しかし、プレスリリースからだけでは分からない点があり、いくつか疑問に思う点があります。
経営戦略室長 兼 広報部長の佐藤直樹氏と広報の加納美優子氏に取材したことをもとにして、この画期的なサービスをもう少し詳しく掘り下げていきましょう。
フードコートとの差別化
同じスペースでいくつもの異なる料理が食べられる仕組みは、フードコートと似ています。
フードコートの流れは次の通りです。客が各自で店の前に並んで料理を購入し、好きなテーブルまで運んで行って食べます。食べ終えたら、自分でテーブルをきれいにして、テーブルウェアも片付けるのです。フードコートは非常にカジュアルな形態であり、あまりオシャレなイメージもありません。
「シェフのためのコワーキングスペース」は一見するとフードコートのようですが、客はどのように利用するのでしょうか。
客は予約もできますし、予約せずにウォークインでふらりと入ることもでき、入店時は通常のレストランと同じように、サービススタッフによってテーブルへ案内されます。
サービススタッフが注文をとりに来るので、テーブルに着席したまま伝えればよいです。5人のシェフの料理を好きなように注文できるのは便利でしょう。
食事後の支払いは、5人のシェフの料理をまとめて支払うことができます。より利便性を高めるために、キャッシュレス化も予定しているということです。
このような流れを鑑みると、通常の飲食店と同じサービスを受けられることが分かるでしょう。
フードコートのように様々な料理を自由に選べながらも、飲食店レベルのサービスを受けられるので、客にとっては嬉しい仕組みといえます。
シェフの裁量
「シェフのためのコワーキングスペース」で働く料理人のメリットは、あまりリスクを負うことなく、余裕をもって飲食店をオープンできることです。
とても素晴らしいフォーマットですが、自由度が低ければ、シェフのポテンシャルが発揮できず、魅力も半減してしまいます。
シェフの裁量はどのようになっているのでしょうか。
サービススタッフは「favy」が採用します。キッチンスタッフは基本的にシェフ1人を想定していますが、もしもアシスタントなどのキッチンスタッフが必要な場合には、シェフが採用することが可能です。
食材の仕入れはシェフに任せられていますが、「favy」を通して発注することもできますす。「favy」から近々リリースされる「飲食店サポート」という仕入れサービスを利用することも可能です。
食器、グラスといったテーブルウェアは「favy」が用意するので、シェフが気に入っていたり、この料理にはどうしてもこれと思っていたりする食器は使えません。
営業時間は18時から23時を想定しており、ランチは未定です。客単価に関しては上限を設けず、シェフと協議して検討するということなので、単価とクオリティの高い料理が提供されることも期待されます。
シェフとの金銭的な契約に関しては、売上の一部をシェアする形であり、具体的な比率などは、これから議論していくということです。
テーブルウェアは自由にできないものの、キッチンスタッフや食材、単価は融通が利くので、シェフにとってはかなり好きなことができるのではないでしょうか。
苦労したところ
ところで、このような先進的なフードシェアリングを実現するにあたり、どのような点で苦労したのでしょうか。
よい物件があったとしても、新しいスタイルの飲食店ということで理解が得られず、物件を確保することが容易ではなかったようです。
飲食業界として初めての取り組みなので、レジや決済などのシステム、スタッフのオペレーションを決めるのが大変でもありました。シェフに負担のかからないオペレーション構築をするために、キャッシュレスに挑戦し、極力デジタルで分析のしやすい環境に挑戦しています。
シェフの料理がより素晴らしくなるようにするため、シェフを応援し、評価できる仕組み作りにも腐心しています。注文データを分析するだけではなく、客の声を伝えられるユーザー参加型の投票システムの導入も検討しているということです。
飲食店が簡単に潰れない世界
「favy」はビジョンに「飲食店が簡単に潰れない世界を創る」を掲げており、2018年10月に完全会員制・完全予約制の肉料理専門店「29ON(ニクオン)」や、サブスクリプションモデルを世に知らしめた定額でコーヒーを楽しめる「coffee mafia(コーヒーマフィア)」をオープンし、あっという間に外食産業の寵児となりました。
実をいえば、その「favy」は創業当時から料理人の開業支援を真摯に考えており、「シェフのためのコワーキングスペース」は1年くらい前に企画が持ち上がったといいます。
プレスリリースが配信されてから僅か24時間で数十名の料理人からエントリーがあったことを鑑みると、多くの料理人から支持されたといってよいでしょう。
オープン予定は2018年11月後半から12月初旬なので、「飲食店が簡単に潰れない世界」に近づくことができるかどうか、これまで以上に注目していきたいです。