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あの飲食店のサービスが「好き」「嫌い」となる理由

東龍グルメジャーナリスト
(ペイレスイメージズ/アフロ)

サービスの「好き」「嫌い」

先日、日経ビジネスで<「店員が出口までお見送り」好きですか?>という記事が配信されていました。

買い物していても外で食事していても、誰しもが受けたことのある接客サービス。なかでも日本流のサービスは、「おもてなし」との言葉が示す通り至れり尽くせりのスタイルが消費者にも定着。世界的にも高い評価を受けている。

 だが市場が成熟しきった日本では消費者の価値観が多様化し、画一的で硬直した接客サービスも目につくようになってきてはいないか。それでは顧客が本当に求めているサービスとは、どんなものなのだろう――。日経ビジネスは、国内在住の約1000人にアンケート調査を実施した。

出典:日経ビジネス

飲食店や小売店などにおけるサービスについて、アンケートで「好き」「嫌い」を集計し、この割合によって、サービスを<「大丈夫」な接客><「要注意」な接客><「黄信号」な接客>に分類しています。

今回は、飲食店で行われるサービスだけについて、飲食店と客それぞれの立場を鑑みながら、アンケート結果を考察していきましょう。

飲食店と客

アンケート結果を分析するにあたり、客と飲食店について、次のことを理解しておくことが重要だと考えています。

客は飲食店で過ごすにあたり、自身の存在を認めてもらえたり、尊重されたりしながらも、プライベートが守られることを重要に考えています。

客にとって重要なこと

  • 存在を認めてもらえる
  • 尊重される
  • プライベートが守られる

飲食店はサービスするにあたり、オペレーションを円滑にし、客に喜んでもらいながらも、売上を増やすことを目指しています。

飲食店にとって重要なこと

  • オペレーションが円滑に運ぶ
  • 客に喜んでもらう
  • 売上を増やす

こういった観点からアンケート結果を考察してみましょう。

「大丈夫」な接客

<「大丈夫」な接客>は「好き」が「嫌い」の3倍以上あるサービスで、飲食店に関しては以下のようなものが挙げられています。

  • 「いらっしゃいませ」という声がけ
  • 「おかわり、いかがですか」など飲食に関する声がけ

「いらっしゃいませ」と声を掛けることは、訪れた人が、飲食店に客として認めてもらえたということなので、客は当然のことながら「好き」となるでしょう。

飲食店にとっても、「いらっしゃいませ」と声を掛けることによって、他のサービススタッフに新しい客の来店を周知し、応対や席への案内など次のアクションへの移行を円滑にできます。

高級フランス料理店などのファインダイニングはカジュアルな居酒屋とは違うので、大きな声で「いらっしゃいませ」とは言いません。

しかし、その代わり、レセプションがあります。レセプションで応対を行うことによって、客の存在を認め、他のサービススタッフと連携するのです。

「おかわり、いかがですか」に関しても「好き」が多く、「大丈夫」な接客>となっています。

フードを食べ終えたり、ドリンクを飲み終えたりして、次を注文しようとした時に、サービススタッフがちょうどやって来て訊いてくれたなら、客は気の利いたサービスと思うはずです。

しかし、回転率を高めるために、食べ終えて話している客に「おかわり、いかがですか」と訊くのであれば、早く退店するように促している感じがするので、客は気持ちよくありません。

アンケートでは「おかわり、いかがですか」がポジティブな結果となりましたが、飲食店では言い方や状況に応じた使い分けが重要であると私は考えています。

「要注意」な接客

<「要注意」な接客>は、<「大丈夫」な接客>の反対となっており、「嫌い」が「好き」の3倍以上あるサービスです。

飲食店に関するものは次の1つです。

  • 「ご友人同士ですか、会社の同僚ですか」など飲食に直接は関係しない声がけ

客はプライベートが守られることが重要なので、こういった突っ込んだ質問が受け入れられないのは当然のことでしょう。

せっかく会社の仕事や家の雑務などから離れ、楽しむために食事しに来ているのに、詮索されるような質問を受けて楽しいわけがありません。

親しいサービススタッフを除いて、このような突っ込んだ質問がプラスに作用することはほとんどありません。

では、どうして飲食店はこのような質問をするのでしょうか。

1つ目は、客の関係を事前に知っておくことで、オペレーションをよりスムーズにできるからです。

例えば、会計のオペレーションを考えてみましょう。

友人同士であれば割り勘の可能性が高いですし、仕事の接待であれば予約した人がホストで支払いすることになります。どのように会計するのか予測できれば、円滑に伝票を渡すことができるのです。

本来であれば、オープン前のブリーフィングで客の関係を把握できているのがベストですが、客が事前に伝えていない場合が多いので難しいところでしょう。

事前に把握できていなくても、客が席に着いた時点で上席が分かるので、ある程度は推測できますが、カジュアルな業態であれば、客もあまり上席を気にして座りません。

いずれにせよ、オペレーションをスムーズにするために、客の関係について質問することがあります。

2つ目は、客とコミュニケーションをとろうとして、悪気はないながらも、余計な質問をしてしまう場合です。

規模の大きいチェーン店やファインダイニングなどの高級店であれば、接客マニュアルがあったり、ある程度の研修を行ったりしますが、プライベートなことに触れないようにと、会話にまで明示的に指導しているところは少ないでしょう。

カジュアルな業態だけではなくファインダイニングでさえも、親近感を生むようにと、むしろ積極的に会話することを奨励しているところもあります。

飲食店から客へコミュニケーションを図ることは基本的によいことですが、客と親しくなりたいのであれば、一歩踏み込む時の会話は、料理やドリンク、天気や世の中のニュースから入るのが一般的です。これは通常の人間関係でも同じでしょう。

一般的な無難な話題を積み重ねていった後であれば、突っ込んだ質問をしても違和感を抱かず、「嫌い」なサービスにはならないはずです。

「黄信号」な接客

最後の<「黄信号」な接客>は「好き」と「嫌い」が3倍以上の差が付いていない「大丈夫」とも「要注意」とも判別できないサービスです。

飲食店に関しては以下の通り。

  • 「店員による小皿への取り分け」

サービススタッフが小皿に取り分ける行為に関しては、記事中で触れられていなかったので、どういった理由で「好き」なのか「嫌い」なのか分かりませんが、推論しながら考えてみます。

サービススタッフが取り分けるのは通常、料理が大皿(大鍋を含む)で提供されてからすぐです。

大皿に美しく盛られた完璧な料理の完成形を持って来て、客に見せてから「お取り分けしてもよいですか」と尋ねて小皿に盛るのが普通の流れとなります。

もしも、客が自分たちで取り分けたければ、尋ねられた時に断ればよいだけのことで、「嫌い」とまではならないはずです。

従って、客が自分たちで取り分けたかったのに、サービススタッフが意向を訊きもせずに小皿へ取り分けた場合に「嫌い」となっているのではないでしょうか。

本来はキッチンで予め取り分けた方が最も効率がよいのに、わざわざ大皿に載せてきれいな状態を見せてから取り分けてくれているので、手間暇かけたよいサービスであることは間違いありません。

サービススタッフの負担がかかるので、大皿のまま置いておく飲食店が多く、大衆的な居酒屋などカジュアルな業態ではむしろ普通のことです。

よいサービスが「嫌い」となるのは残念なので、コミュニケーションを改善して「好き」が増えるようになってもらいたいと思います。

飲食店以外

飲食店ではなく小売店のケースで、気になったものがあります。

それは、<会計が終わった商品を持っての、店の出口までの「お見送り」>が<「黄信号」な接客>になっていたことです。

何故ならば、飲食店でも<店の出口までの「お見送り」>は頻繁に行われているからです。

飲食店でも、ファインダイニングであれば、シェフもわざわざキッチンから出て来て、店の外まで見送ってくれることが少なくありません。

小売店の場合には大袈裟なサービスという感じがするので「嫌い」という人が多いのでしょう。

飲食店の場合、客が帰るのは、フルコースを十分に食べ、ワインなどのお酒も飲んだりし、話題が尽きるまで会話を交わして、店内で2~3時間も過ごした頃です。

大いに楽しんでリラックスして、飲食店に対する親近感も高まっているので、お見送りを「好き」と感じる人が少なくありません。

中には、まだ他の客が残っていて忙しいのに、キッチンからシェフが急いで出て来るのが申し訳ないと思う人もいますが、「嫌い」というのとは違うでしょう。

むしろ、高級店にも関わらず、会計を済ますと、最後の見送りどころか、もうあまり関心を持たれなくなり、ひどい扱いをされたという不満の方がよく聞きます。

サービスの裏側

今回のアンケートはサービスを客観的に数値化しているので役に立ちますが、「好き」「嫌い」をさらっと紹介するだけではなく、その裏側も考察されていれば、なおよかったと思います。

飲食店のサービススタッフは客に喜んでもらいたいと思うからこそ、拘束時間が長くても、立ち仕事が多くても、理不尽な苦情があっても耐えられるのです。

客も、せっかく選んで入った飲食店で、気分よく過ごして帰りたいので、飲食店におけるサービスの裏側が分かれば、相手への理解が深まり、「嫌い」という気持ちが緩和され、「好き」という気持ちが増えてくるのではないでしょうか。

グルメジャーナリスト

1976年台湾生まれ。テレビ東京「TVチャンピオン」で2002年と2007年に優勝。ファインダイニングやホテルグルメを中心に、料理とスイーツ、お酒をこよなく愛する。炎上事件から美食やトレンド、食のあり方から飲食店の課題まで、独自の切り口で分かりやすい記事を執筆。審査員や講演、プロデュースやコンサルタントも多数。

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