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「マツコの知らない世界」炎上事件の最終章。本当に「インスタ映えによる食べ残し」は起きているのか?

東龍グルメジャーナリスト
(写真:アフロ)

異論を唱える

私は面識がありませんが、女性に特化したマーケティング事業を行う会社の代表取締役を務める加藤綾氏が書いた<私はマツコさんに異論を唱えたい>をたまたま読みました。

ここ2日続けて「マツコの知らない世界」の「ケーキバイキングの世界」に関して以下の記事を書きましたが、加藤氏は、私が取り上げていなかった部分で思うところがあったようで、自身の主張を述べています。

3つの主張

加藤氏が争点としているのは、「ケーキバイキングの世界」の最後の部分です。出演者が「インスタグラム(Instagram)で撮影するためだけに取って、食べ残す人がいる」「食べ残してはならない」「そのせいでブッフェの値段が上昇している」と問題を投げかけ、それに対してマツコ・デラックス氏がインスタ映えブームに苦言を呈したところになります。

マツコ氏の苦言に対して、加藤氏は以下の3点から主張を展開しています。

  • そもそもスイーツビュッフェやカフェは今フォトジェニックを狙っている店側に対して
  • 食べ残し問題(食品ロス)はインスタ蠅問題以前に、昔からある。
  • 「可愛い」が好きなブスって何が悪いの?

出典:私はマツコさんに異論を唱えたい

私も気になっていたのですが、記事の本題からずれて争点が散らかってしまうために、これについては触れられずにいました。

そこで、当記事ではこの「インスタ映えによる食べ残し」について考えます。

考えるポイント

私も加藤氏の考えと概ね同じですが、順を追ってひとつずつ考えていきたいと思います。

考えるべきポイントは以下の通りです。

  • 何が悪いのか
  • どうして起こるのか
  • 本当にそうなのか

今回のテーマは「ケーキバイキング」でしたが、より視野を広げるために、ブッフェだけではなく、非ブッフェであるアラカルトも交えて考察を展開していきます。

何が悪いのか

インスタ映えに夢中になることは悪いことなのでしょうか。

ただ単によい写真をインスタグラムに投稿したいだけなので、インスタ映えに夢中になることそれ自体が悪いわけではないでしょう。

たとえそれが「いいね」目的の自己承認欲求や、充実した人生であると思いたいがための自己満足であったとしても、その人自身の内面のことなので、他の人にとっては関係ありません。

今回の件については、悪いのはあくまでも、インスタ映えが原因となって食べ残すことです。精神論などに議論が発散せぬように、最初にここをはっきりさせておいた方がよいと思います。

どうして起こるのか

次に考えることは、インスタ映えによって、なぜ食べ残しが起こるのか、です。

加藤氏も述べているように、客に拡散してもらったり、メディアに注目されたりするために、店がインスタ映えするための食べ物やブッフェを提供していることが一因に挙げられるでしょう。つまり、客にとって適量かどうかはさておき、店がインスタ映えする食べ物を提供しているから、客が食べ残し易くなるということです。

これも加藤氏が述べていますが、注文時にボリュームを伝えて確認するなど、店が客にコミュニケーションを取ることが大切になります。

では、客が原因となる食べ残しには、どういったものがあるのでしょうか。それは、もともと食べる気がなかったり、予想したよりボリュームが多くて食べられなかったりする場合が挙げられます。

後者であれば、やはり客と店とのコミュニケーションが重要です。私が以前「ラーメン二郎」で大盛りを食べ残した客は本当に悪いのか? 再発しないための3つの対策で述べたような施策を、店が取る必要があると思います。

問題は前者です。そもそも最初から食べる気がないのであれば、それを止めることは難しいでしょう。

ブッフェであれば、食べ残しに対して罰金を課せば予防できますが、実際に罰金を請求する店は少ないです。ホスピタリティを重んじ、気を遣いすぎる傾向のあるホテルであれば、なおさらのことです。

世界的に食品ロス削減が叫ばれている中で、例えば、私が代表理事を務め、農林水産省とも連携している日本ブッフェ協会が広めようとしている「ちょうどいいが いちばんおいしい」といったスローガンを地道に広めていきながら、徐々にひどい食べ残しに対しても罰金を課していけば、客の意識も変わってくると考えています。

では、最初から食べる気のないアラカルトの食べ残しを防ぐにはどうすればよいのでしょうか。これは非常に難しい問題です。なぜならば、アラカルトはブッフェとは異なり、お金を支払ってその1品を提供してもらっているからです。提供してもらった1品を食べなかったからといって、罰金を課すことは難しいのではないでしょうか。

もともと食べる気のないアラカルトの食べ残しについては、食品ロスの観点、および、作り手や食べ物に尊敬の念を表することの大切さを説くことによって、客の意識を変えていかなければなりません。

本当にそうなのか

そして、最後の考察です。私はここが最も肝になると考えています。

加藤氏は、以下のように述べていますが、全く同感です。

少なくとも私が行ったことのあるお店では、安くない値段かつ長時間並んでいるので、8割以上が食べているし、食べ残しも少しであることが多いです。

出典:私はマツコさんに異論を唱えたい

もともと食べる気がなく、インスタグラムに投稿するためだけに食べ物を注文する人など、本当にいるのでしょうか。

私の経験ですが、アラカルトに関して言及すれば、インスタ映えする食べ物の定番であるパンケーキやパフェ、かき氷などの人気店に行っても、最初から食べる気のない人を見掛けたことはありません。

また、ここまで大きな問題となっている割には、今のところ、インスタ映えのために食べ残しが増えて困っていることを、ホテルや飲食店からほとんど聞いたことがないのは不思議です。

インスタ映えのために訪れている人は、仕事で興味なく撮影しに行っているわけではなく、プライベートの時間と自分のお金を出して訪れています。そうであれば、インスタ映えする写真を撮影したいだけではなく、食べたいとも思って訪れているはずなので、食べるのは当然のことでしょう。お金を払っているにも関わらず、どうしても写真は撮りたいけれども、絶対に食べたくないという場合を、私は想定することができません。

みなさんは、インスタ映えする写真を撮影したら、すぐに店を出たり、食べ物にほとんど手を付けなかったりする人を見たことがあるでしょうか。もしいたとしても、食品ロスの問題につながるほど、多いでしょうか。

こういった考察をもとに、私はアラカルトの「インスタ映えによる食べ残し」が問題として取り上げなければならないほど起きていることに懐疑的です。

次は、ブッフェについてです。ブッフェに関しては、写真を撮影するためにたくさん取って食べ残す人が、残念ながら一定数います。ただ、インスタ映えが大きな要因になっているかと言えば、そうではありません。ブログが流行し始めた頃から、一部のブッフェマニアでそういった問題が起きていました。

インスタ映えを目指す人の多くは、きれいに盛ることが難しい自身の皿ではなく、ダイナミックかつ整然と美しく並べられたブッフェ台を撮影します。そのため、テーブルにたくさんの皿を持ってきて撮影するよりも、完璧な状態のブッフェ台を懸命に撮影する傾向にあります。

実際にインスタグラムで「#ザテラス」「#マーブルラウンジ」と検索してみれば分かりますが、皿に盛った写真よりも、ブッフェ台の写真の方が多いでしょう。

私はブッフェの「インスタ映えによる食べ残し」も限定的であると考えています。それよりも、「元を取る」「大食い」のように、お腹に無理やり詰め込もうとする考え方の方がずっと、食べ残しの原因になっていると危惧しています。

そして、それは残念ながら、食品ロスが問題になっているこの時代においてさえも、あまり変わっていません。

食べ物や作り手への尊敬

出演者が述べたように、食べ残しによって、店のコストが不必要に増え、それによって、食材の質が低下したり、種類が減ったり、値段が高くなったりすることは確かなことです。

しかし、「元を取る」「大食い」「苦しくなるまで食べる」を前面に出した後で、食べ残しの原因を全てインスタ映えに転嫁する展開となったのでは、視聴者からすると、唐突に論点をすり替えられたような気がして、納得がいかないのではないでしょうか。

加えて、食べ物や作り手に尊敬の念を抱いていない哲学や食べ方だったので、食べ残しはよくないのでしっかり食べましょうと正論を述べられても、悲しく沈んだ心には響きません。

インターネットの時代ともてはやされながらも、テレビがまだ最強のメディアであることに変わりはありません。その最も影響力のあるテレビの番組では、作り手と食べ物のことを大切にし、食べ手も作り手も幸せになる食のコンテンツを、是非とも作ってもらいたいです。

グルメジャーナリスト

1976年台湾生まれ。テレビ東京「TVチャンピオン」で2002年と2007年に優勝。ファインダイニングやホテルグルメを中心に、料理とスイーツ、お酒をこよなく愛する。炎上事件から美食やトレンド、食のあり方から飲食店の課題まで、独自の切り口で分かりやすい記事を執筆。審査員や講演、プロデュースやコンサルタントも多数。

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