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文春の報道から食べログの有名レビュアーの全レビュー削除へ至った件で、みなさんに理解してもらいたいこと

東龍グルメジャーナリスト

週刊文春が発端

週刊文春の記事が発端となり、食べログのレビュアーの記事が全て削除されました。それによって、ここ最近のグルメ業界では、食べログのレビュアーやレビューに対して懐疑的な視線が向けられています。

こういった事象に対して人々がネガティブな反応を示すのは理解できます。しかし、ここで改めて、食べログや食の取材について、みなさんに理解してもらいたいことがあります。

  • 評価ロジック
  • 無料取材

前者は食べログに関してであり、後者は食の取材に関してです。

評価ロジック

食べログの評価ロジックに対して多くの苦情が見受けられます。一部のレビュアーだけを優遇するシステムとなっているから、接待など不正なレビューが起こるという意見です。

私が考える範囲では、食べログは自身の「レビュー点数」の強みをよく理解しており、だからこそ、不正レビューに対しては非常に気を遣っています。

当初は単純平均に近かったものを、加重平均(ユーザー影響度を加味)に変更したのは、やらせレビューを撲滅するためでした。単純平均では、例えば、レビュー数5程度のレビュアーとレビュー数500程度のレビュアーが、フォロワー数10人のレビュアーとフォロワー数1000人のレビュアーが、ほぼ同じ影響力を持ってしまいます。

そのため、やらせ業者(悪徳なインフルエンサーマーケティングの代理店)がこれを悪用し、新設した多くのアカウントから不正なレビューを投稿し、食べログは苦い思いをしました。

こういったやらせレビューに対抗する手段として、携帯電話番号で本人を認証したり、レビュー数やフォロワー数が多いレビュアーに比重を置いたりする施策が取られたのです。その結果、レビュー数やフォロワー数が多いレビュアーの影響力が大きくなりました。

このような経緯があるので、特定のレビュアーが影響力を持つのは危険だからといって、単純平均に戻すのはよい施策とは思えません。単純平均に戻せば、有象無象のやらせ業者が再び跋扈し、レビュー点数がより恣意的に上下するだけです。

食べログは影響力のあるレビュアーの影響度合いを調整する必要はありますが、だからと言って、今回の騒動で加重平均が悪いとするのはどうかと思います。やらせ業者が簡単にビジネスできないようにするためにも、やはり加重平均にする必要はあるのです。

無料取材

無料取材はごく普通に行われています。飲食店の発表会やパーティー、大小含めた試食会では、有料となることはほとんどありません。それ以外の通常の取材でも、媒体から経費が出る場合は支払いますが、そうでなければ無料で取材することが一般的です。

しかし、無料で取材したからといっても、広告ではないので、編集権は編集部にあります。そのため、記事内容が取材先の思い通りになることはなく、それぞれの媒体の編集方針をもとにして記事が作成されます。

こういった無料の取材は、食だけではなく、美容、文芸、映画などほとんどの業界で見られることではないでしょうか。美容業界であればサンプル品を使用できますし、文芸業界であれば献本は一般的ですし、映画業界であれば試写会が案内されます。

ただ、食べログのレビューでは、適切な費用を支払った料理やサービスに対する評価を行うことを前提としているだけに、無料で享受した料理やサービスに対してレビューを行うことを許していません。そのため、こういった取材に対しては、「通常利用外」という項目にチェックして、明示する必要があります。

今回の有名レビュアーの全レビュー削除の要因は、無料取材それ自体にはなく、それに伴って「通常利用外」のチェックがされていなかったこと、通常の取材を超えた優待があったことなのです。

飲食店の記事や評価に対する意識

レビュー点数が重要な指標となる食べログで、飲食店が影響力のあるレビュアーに便宜を図りたくなることは容易に想像できます。食べログがレビュー数やフォロワー数が多いレビュアーに影響力を持たせ続けるのであれば、影響力のあるレビュアーには特別な規約を踏まて改めて注意を促したり、何かあった場合に飲食店に大きなペナルティを与えたりする必要があるかも知れません。

ただ、今回の件によって、「だから食べログはダメだ」「優待取材は絶対に悪」と短絡的に帰結せず、飲食店の評価や記事に対する意識を高めてもらえる機会になってもらえればよいと考えています。

(誤解が生じる内容や表現があったため、記事を修正しました)

グルメジャーナリスト

1976年台湾生まれ。テレビ東京「TVチャンピオン」で2002年と2007年に優勝。ファインダイニングやホテルグルメを中心に、料理とスイーツ、お酒をこよなく愛する。炎上事件から美食やトレンド、食のあり方から飲食店の課題まで、独自の切り口で分かりやすい記事を執筆。審査員や講演、プロデュースやコンサルタントも多数。

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