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今年で5回目を迎える料理コンクール「RED U-35」始まる。これまでの振り返りと課題

東龍グルメジャーナリスト

第5回となる「RED U-35 2017」が開始

<【クッキングコンテストの今】独学者 杉本敬三氏が優勝した「RED U-35」は何が新しいのか?>でも紹介した「RED U-35」の5回目となる「RED U-35 2017」が明日2017年5月8日に始まります。

つまり、この日をもって応募が開始されるということであり、1次審査となる書類審査、2次審査となる映像審査、3次審査となる学園祭審査、そして11月6日の最終審査へと続く長い道程が始まるのです。

5回目を迎える今回は「糖」をテーマとしており、低糖質が注目されている中でどのような展開になるのか、ますます興味深いところでしょう。

これまでの「RED U-35」を振り返り、さらなる発展を期待して、課題を考えてみたいと思います。

大会のコンセプト

まず、改めて「RED U-35」について説明しましょう。

募集資格は次の通りです。

偉大なる料理人になることを目指す「35 歳未満の料理人」

出典:RED U-35とは

抽象的な表現ながらも「偉大なる料理になることを目指す」とはっきり書かれているのは他の料理コンクールにはない要項です。

大会のコンセプトは主に以下のように説明されています。

(略)

君をスター料理人に導いてくれる天使たちが、ここで待っています。

(略)

夢と野望を抱く、新しい世代の、新しい価値観の料理人(クリエイター)を見いだし、世の中に後押ししていくため、これまでの料理コンテストとはまったく異なる視点で、日本の食業界の総力を挙げて開催する料理人コンペティションです。

(略)

出典:RED U-35とは

新しい世代ということで35歳未満の料理人に限定しています。「RED U-35」がスター料理人に導くということで、スター性も兼ね揃える必要があり、セルフプロデュースの能力も試される料理コンクールです。

第1回「RED U-35 2013」から注目

発起人が「ぐるなび」代表取締役会長 CEO・創業者である滝久雄氏と食生活ジャーナリストの岸朝子氏(故人)であることから、「ぐるなび」が全面的に協力したり、食業界の有力者たちが当初から協力したりしました。

総合プロデューサーとして放送作家の小山薫堂氏が采配を奮っており、話題作りが非常に上手です。

その証左に、第1回「RED U-35 2013」では、ミシュランガイドで1つ星を獲得する前の「ラ・フィネス」オーナーシェフの杉本敬三氏が優勝し、「ミシェル・ブラス トーヤ ジャポン」の小岸明寛氏や「ラトリエ ドゥ ジョエル・ロブション」料理長の関谷健一朗氏が最終審査まで残るなど、実力のある若い料理人を引きつけることに成功しました。

日本におけるフランス料理の三大料理コンクールとして<32年振りの快挙なるか? 日本人料理人によるパリ・ファイナルへの挑戦>の「ル・テタンジェ国際料理賞コンクール」や「エスコフィエ・フランス料理コンクール」「ボキューズ・ドール国際料理コンクール」が挙げられますが、いずれとも料理の技術を中心に競争する従来型のコンクールであり、テレビ受けするような「RED U-35」は全く新しいタイプの料理コンクールと言えます。

歴代の優勝者

歴代の優勝者は誰だったのでしょうか。テーマと共に以下記載します。

  • 2013年「卵」

「ラ・フィネス」オーナーシェフ 杉本敬三氏

  • 2014年「豆」

「Restaurant sola paris」オーナーシェフ 吉武広樹氏

  • 2015年「日本米のイノベーション」「ふるさと」

「中国料理 海鮮名菜香宮」料理長 篠原裕幸氏

  • 2016年「発酵」

「中国料理 スーツァン レストラン 陳」副料理長 井上和豊氏

最初の2年はフランス料理人が優勝しましたが、ここ2年は中国料理人が優勝しています。

日本では、中国料理は「日本人が最もよく知っている外国料理」であること、欧米人には評価が難しいことから、ミシュランガイドなどでも他のジャンルに比べて重視されていない印象を受けるだけに、篠原氏や井上氏のような中国料理人がしっかりと評価されているのは嬉しいところです。

日本発の料理コンクールであるだけに、日本料理人が優勝することも期待されますが、残念ながらまだ現れてはいません。

気になるところ

「RED U-35」は私も第1回から注目している料理コンクールですが、次の点が気になっています。

  • メディアへの露出
  • 優勝者のイメージ
  • SNSの活用

それぞれ詳しくは以下の通りです。

メディアへの露出

「RED U-35」がより発展するためには、多くの人に知ってもらうこと大切になります。「RED U-35」を広めるためには優勝者のメディア露出が重要となりますが、どうなっているのでしょうか。

第1回「RED U-35 2013」優勝者である杉本氏はTBS「いっぷく!」の料理コーナーに出演していましたが、同番組が2015年3月27日をもっと終了したこともあり、その後の大会では優勝者がテレビ番組へレギュラー出演することはなくなりました。

第2回「RED U-35 2014」優勝者の吉武氏はフランスのパリに店を構えるオーナーシェフで、活動拠点はフランスであるだけに、頻繁に日本のメディアに露出することは難しいでしょう。そうなると、せっかく優勝者を売り出して「RED U-35」を宣伝したくても、簡単にはできなくなります。

第3回「RED U-35 2015」優勝者の篠原氏と第4回「RED U-35 2016」優勝者の井上氏は、中国料理の料理人です。中国料理は他のジャンルと比べると、テレビや雑誌、インターネットなどのメディアで特集として取り上げられることはそう多くないので、露出はあまり増えないかも知れません。

「RED U-35」はスター料理人の育成を目的としているだけに、優勝者が「RED U-35」と共に、よりメディアに露出する仕掛けがあればよいと思います。

優勝者のイメージ

「RED U-35」の優勝賞金は500万円で、さらに副賞も付いているので、他の料理コンクールと比べても破格の報酬を得られます。

「エスコフィエ・フランス料理コンクール」は30万円、「ル・テタンジェ国際料理賞コンクール・ジャポン」が2400ユーロなどであることを鑑みると、従来の料理コンクールと比べて、いかに高額であるかが分かるでしょう。

こういった高額賞金に加え、募集要項には<偉大なる料理人になることを目指す「35 歳未満の料理人」>とあり、料理のジャンルや手法のクラシック・モダンも問わないので、実に様々な料理人が応募します。

昨年「RED U-35 2016」では最終審査に<女性料理人はなぜ活躍しにくいのか? 女性料理人の意義と強み>でも紹介した桂有紀乃氏や服部萌氏といった女性が残るなど新たな面も見せているので、よい傾向だと感じています。

ただ、「RED U-35」に勝ち残る料理人の共通項として、料理技術やセルフプロデュースに長けた35歳未満の料理人が挙げられるものの、よくも悪くも優勝者のキャラクターは今のところバラバラです。

そのため、「RED U-35」優勝者はこういう料理人というイメージが持てず、全体的な印象が薄くなっているように感じられます。

料理コンクールなので、もちろん、公平に審査することが最も大切ですが、ある程度は優勝者像の規格化も必要になってくるのではないでしょうか。

SNSの活用

昨年「RED U-35 2016」では新しい試みとして最終審査に残った6名をグルメブロガーが応援する手法を採用しました。

SNSでの発信にも力をれて「RED U-35」を知る人の裾野は広がったように思います。

しかし、突然グルメブロガーが応援を始めたので唐突感があったり、それがどのように本選に結びつくのか不明であったりして、ややチグハグとした印象を受けました。

もしかすると、主催者側が意図するような感じで進められなかったのかも知れません。

<今最も信頼されている食のアワード「世界のベストレストラン50」を知る>でも紹介したように、食のアワードでSNSは必須となってきています。

インターネットの大手グルメサイトである「ぐるなび」が全面協力しているだけに、効果的なSNSの発信を期待したいです。

今後への期待

以上、気になるところを挙げてきましたが、「RED U-35」は従来の料理コンクールとは異なるので応援しています。と言うのも、料理コンクールがたくさんあればあるほど料理人のチャンスも広がり、より多くの料理人の未来が拓けるからです。

ミシュランガイドは「ぐるなび」と提携してから、Web掲載を始めて利用し易くなったり、ラーメンを加えてファインダイニングとは縁遠い多くの人々を取り込んだりして成功しました。それだけに、「ぐるなび」が立ち上げの段階から関わっている「RED U-35」がどのようにして発展していくのか引き続き期待したいです。

グルメジャーナリスト

1976年台湾生まれ。テレビ東京「TVチャンピオン」で2002年と2007年に優勝。ファインダイニングやホテルグルメを中心に、料理とスイーツ、お酒をこよなく愛する。炎上事件から美食やトレンド、食のあり方から飲食店の課題まで、独自の切り口で分かりやすい記事を執筆。審査員や講演、プロデュースやコンサルタントも多数。

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