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業界初となる「トレタお見舞い金サービス」はノーショーに対して意味があるのか?

東龍グルメジャーナリスト
トレタお見舞い金サービス

ノーショーやドタキャン

私はこれまでノーショー(No Show=無断キャンセル)やドタキャンについていくつかの記事を書いて問題を提起したり、ノーショーとドタキャンに対応しようとする仕組みを紹介したりしてきました。

最近でも動きがあり、「ぐるなび」が大手オンライン旅行会社と提携して事前決済で予約を受け付けられるようにしたり、「日本美食」が「一休.comレストラン」と提携して事前決済を行えるようにしたりと、ノーショーやドタキャンの対応策が発表されています。

対策は十分ではない

これらの対応は、ノーショーやドタキャンが生じた時にも、客が事前に決済しているのでお金が入ることになっており、機会損失や食材費の無駄を補うことができます。

ノーショーやドタキャンの割合が多いと言われている訪日客から対応することは間違っていませんし、動き出すことはそれ自体が意味あることです。

しかし残念ながら、特定の国からの訪日客に対応したものであったり、訪日客が利用せず、普通の日本人が利用するような店には効果がなかったりするので、まだ十分とは言えないでしょう。

「トレタお見舞い金サービス」開始

こういった状況の中で、全く別の観点から対処しようとしているところがあります。それは、冒頭でも紹介した飲食店向け予約/顧客台帳サービスの大手であるトレタです。

トレタはこれまでノーショーやドタキャンの対策として、予約確認メールを配信したり、リマインドメールを自動配信したり、前受金(保証金)を預かるデポジット機能を提供したりしてきました。

これらに加えて、2017年2月9日からノーショーやドタキャン、さらには災害などで損害を被った店を対象にした「トレタお見舞い金サービス」を開始させたのです。

予約台帳サービスでこういった制度を設けているところを、私は他に知りません。「トレタペイメント」に続いてサービスに自社の名前を冠したあたりも力が入っている証左だと感じられます。

「トレタお見舞い金サービス」の全容

「トレタお見舞い金サービス」はどういうものなのでしょうか。

少し長くなりますが、サービスの全容は以下の通りです。

■サービス対象店舗

(1)トレタ契約プラン「プラス」または「2ねんプラス」をご契約中のお客様(利用料:16,000円/月)

(2)トレタペイメントご契約中のお客様

■お支払い条件

・事前決済時の当日キャンセル料を10,000円以上に設定した予約が、No Showになった場合

・火災や水漏れ等により店舗が損害を受け1日以上休業することにより予約の取消を行った場合

■お支払い対象になる損害の内容

偶然な事由(※)により店舗が損害を受け、1営業日以上休業することにより、予約サービスシステムを通じて予約したユーザーに対してその予約の取消を行った場合

※1. 火災、落雷または破裂・爆発

2. 風災、雹災または雪災

3. 水ぬれ

4. 騒擾、労働争議等

5. 航空機の墜落、車両の衝突等

6. 建物の外部からの物体の衝突等

7. 盗難

8. 水災

9. 1から8までの事故以外の不測かつ突発的な事故

10. 食中毒・特定感染症

■お見舞い金額

1回の申請につき定額10,000円(1年間で3回まで)

出典:トレタ

対象となるのは、1万2千円の「基本プラン」以外のプランを契約している店であり、支払われる金額は定額1万円とされています。

支払い条件は、1万円以上の予約がノーショーになった場合、もしくは、店舗が損害を受けて1日以上休業することになった場合です。

「トレタお見舞い金サービス」におけるポイント

「トレタお見舞い金サービス」について、私が考えるポイントは以下の通りです。

  • 見舞金の多寡
  • 支払いの迅速さ
  • 利用回数

それぞれ説明していきます。

見舞金の多寡

1万円という金額では、複数人で起きることが多いノーショーでは、例えば、平均客単価が1万円以上で20席以下の小さい店では完全に補うことは難しいでしょう。損害を受けて1日以上休業することになった場合には、なおのことです。

しかし、逆に言えば、平均単価が低くて客席数が多い店では、1万円が補償されれば全体的にみて、被害の割合はとても低くなります。

いずれの場合にせよ、これは「補償金制度」ではなく、あくまでも「トレタお見舞い金サービス」なのです。店にとっては何も返ってこないよりは、少しでも返ってきた方が慰めになります。特に注目したいのは追加料金なしで利用できることでしょう。

また、損害の対象が、火災や雪災といった天災から車両の追突や盗難などの人災、さらには食中毒といった店側の不手際まで含んでいるのは、突発的に休業しなくはならなくなった店にとっては、心の拠り所になるはずです。

支払いの迅速さ

先程述べたように、店にとって、この「トレタお見舞い金サービス」は、客を追いかけたり、裁判を起こしたりと、これまで手を打つことが難しかったノーショーに対して、金銭面ではもちろん、心の支えになります。

従って、ノーショーが起きた時に、面倒な手続きがなく、かつ、できるだけ早く見舞金が振り込まれることが重要でしょう。

申請が上がった時に、その妥当性を人が審査するので、実際に始まってみて、オペレーションの負荷がどうなるのか、見守りたいところです。

利用回数

「トレタお見舞い金サービス」を利用できるのは1年につき3回までとなっています。

ノーショーが起こる頻度は、もちろん店によって全く違いますが、大きな店であれば週に1度は起きたり、小さい店であっても繁忙期には連日起きたりするものです。そう考えると、年3回というのは決して多いとは言えません。

ただ、この「トレタお見舞い金サービス」はあくまでも、これまでのプランに加えた付加サービスです。トレタからすれば、1年で1店あたり最大1万円×3回=3万円を捻出することになるので、店との契約料が月1万6千円であることを考えれば、年に売上が15%も落ちる可能性があります。慈善事業でないので、これは十分な回数ではないでしょうか。

外食産業を豊かにする

ノーショーを解決するには、システムを導入するだけではなく、客の意識や慣習も根本から変革していく必要がありますが、ここが最も難しい問題です。

そういった状況で、「トレタお見舞い金サービス」がノーショーという事象に対して、店の金銭的な損害と心理的なストレスを減らそうとしているのは画期的なことでしょう。

「トレタお見舞い金サービス」が作られたきっかけを尋ねると、広報の田美智子氏は「飲食店で度々起こるドタキャンやノーショーの問題に対して、何かできないかという声が社内であがった」と答えます。

こういった声が上がる背景に関して、「トレタは、外食産業を豊かにするには、現場で働くみなさんの負担が減り、本来注力したい人間にしかできないサービスに力をいれることが重要だと考えている。そういった企業姿勢が今回のサービスでも表せたらと思っている」と説明します。

外食産業を豊かにしようとするトレタからは目が離せません。

グルメジャーナリスト

1976年台湾生まれ。テレビ東京「TVチャンピオン」で2002年と2007年に優勝。ファインダイニングやホテルグルメを中心に、料理とスイーツ、お酒をこよなく愛する。炎上事件から美食やトレンド、食のあり方から飲食店の課題まで、独自の切り口で分かりやすい記事を執筆。審査員や講演、プロデュースやコンサルタントも多数。

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