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「王妃の館」で甦る250年前の料理

東龍グルメジャーナリスト

映画に登場する料理を監修

映画やドラマなどで食事シーンが登場するのは、ごく日常的な一コマです。ほとんどの場合は、物語で使用される料理には何の変哲もありません。

ダイニング ドゥ ミル
ダイニング ドゥ ミル

しかし、2015年4月25日から東映で配給される「王妃の館」に登場する料理は、東京ドームホテル総料理長 鎌田昭男氏が監修を手掛けているのです。さらにはその料理を楽しめるコースが4月16日から5月31日に提供されています。

王妃の館

「王妃の館」の概要は以下の通りです。

映画は、パリの超高級ホテル シャトー・ドゥ・ラ・レーヌ(王妃の館)のス イートルームに泊まれるツアーの参加者たちを描いた物語です。『太陽王の晩餐』とは、劇中で17世紀にルイ14世に仕えたグランシェフ ムノンが7年間で作った2,555の献立から、「珠玉の料理が食べたい」というルイ14世のためにムノンが選び抜いた前菜・スープ・メイン(2品)・デザート計5品の料理を指します。

反響がある

ラパンのサラダ
ラパンのサラダ

広報・宣伝アシスタントマネージャー 渡辺友紀氏は「映画化の話があった時に最初、大阪辻調理師専門学校に相談があった。そこで、鎌田総料理長であれば1700年代半ばのムノンの料理でさえも再現できるとご推薦いただいて、監修する運びとなった」ときっかけを話します。

面白い試みであると伝えると「たくさんのご反響をいただいている。これまであまりお声掛けのなかったメディアの方からも取材のご依頼をいただいている」とPR活動も順調であるとします。

既にムノンの料理を研究

カボチャのスープ
カボチャのスープ

料理を監修した鎌田氏は「クレッセント」や帝国ホテルで修業した後、1971年に渡欧してスイスやフランスで腕を磨き、帰国後は「オー・シュヴァル・ブラン」の料理長やホテル西洋銀座の総料理長を務めた輝かしい経歴の持ち主ですが、250年くらい前の料理を再現するとは並大抵のことではありません。

そう尋ねると鎌田氏は「監修を引き受ける前から、この件とは関係なく、パリでムノンの本を購入して既に研究していた。そのお陰ですぐに構想を練ることができ、2ヶ月もの間、試作を繰り返してムノンの料理を現代に再現した」と述べます。

素材の持ち味を生かした料理

舌平目のシャンパン蒸し煮
舌平目のシャンパン蒸し煮

どうしてムノンの料理を研究していたのかと訊くと鎌田氏は「日頃から、少しずつ年代を遡っていき料理を研究している」と当然のように説明します。

当時の料理については「ムノンの時代よりも前になると、臭みを消すためにスパイスがたっぷりと使われるので、料理の味が強過ぎる。しかし、ムノンの時代はスパイスやバター、クリームをたっぷりと使うのではなく、素材の持ち味を生かした料理が多い。現代の軽さを志向するフランス料理に通ずる」と現代人の舌にも合うと述べます。

加えて「ムノンは1746年に『ブルジョワの女料理人』を出版するなど、料理の裾野を広げることにも貢献した、王侯貴族の料理は男性が作るので、女料理人は家庭料理の象徴。家庭料理の質の底上げを図り、この時代のベストセラーになった」と知見を披露します。

当時を再現

鳩肉と野菜のオシュポ
鳩肉と野菜のオシュポ

苦労した点について訊くと「当時と同じものを揃えることは大変だったが、料理については配合を変えていない。現代と料理の基本も違うが、そこからおいしさを見出だしていった」と答え、「<カボチャのスープ>では、バターを使わずにコクを出すことが大変であった。カボチャの器を使うのもレシピに従った」と話します。

続けて「レシピの書き方が現代とは異なっている上に、詳しく書かれていないこともあるので、想像力を働かす必要があった。<舌平目のシャンパン蒸し煮>では分量は記載されていなかったので、当時の味付けを考えて分量を調節した。<鳩肉と野菜のオシュポ>では、オシュポはポトフのことだが、澄んだスープではなく黒いスープだったので、どのように再現しようかと頭を悩ませた」と具体的に挙げていきます。

アレンジした点については「<クレームブリュレ>はあまりにもカチカチでさすがに現代の味覚には合わないので小麦粉を抜いた。中にマカロンが入れられているが、カリカリの食感を生かすべきだと考えて、外にトッピングするようにした」と改善点を説明します。

過去の料理と現代の料理

クレームブリュレ
クレームブリュレ

「料理の流行は30年周期で新しくなっている。その歴史の変遷をよく理解していなければ、未来も見えてこない」と語る鎌田氏は、「ムノンの料理を再現するにあたり、おいしくする方法はいくらでも知っていたが、それでは再現することにならないのでできなかった。お客さまには現代のおいしさの価値観で判断するのではなく、現代と過去のおいしさの違いや、その時の移ろいをこそ味わっていただきたい」と、単に現代が過去よりも優れているわけではないと真剣な眼差しで話します。

ムノンと共に一時代を築いたマランは「近代料理は様々な肉から抽出した肉汁を使うことによって成り立っている」とあらゆる要素が凝縮された<フォン>=<出汁>の重要性を示唆しましたが、これは過去や現代といった分類ではなく、現代の料理は常にあらゆる過去の料理を継承しながら成り立っているという、鎌田氏の哲学に適っているのではないでしょうか。

この1ヶ月半は250年の時を超えて現代に甦ったノドンの料理を味わえる貴重なフェアとなりそうです。

情報

詳しくは公式サイトをご確認ください。

参考

レストラン図鑑にもドゥ ミルが詳しく掲載されていますので、ご参考にどうぞ。

グルメジャーナリスト

1976年台湾生まれ。テレビ東京「TVチャンピオン」で2002年と2007年に優勝。ファインダイニングやホテルグルメを中心に、料理とスイーツ、お酒をこよなく愛する。炎上事件から美食やトレンド、食のあり方から飲食店の課題まで、独自の切り口で分かりやすい記事を執筆。審査員や講演、プロデュースやコンサルタントも多数。

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