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なぜテレビのグルメ番組はダメなのか?

東龍グルメジャーナリスト

グルメ番組

先日、TBS「時事放談」プロデューサー高橋正嘉氏の記事「<今のテレビは更新されないミシュランガイド?>グルメ番組がいつも同じ高級すし屋を紹介する理由」を拝読して感じ入ることがありました。

私は記事を書いてグルメを紹介するなど<取材する側>でもありますが、テレビや雑誌などで<取材される側>に回ることもあります。

<取材される側>を経験していくうちに<グルメ番組の問題>について思うことが募ってきていたところ、前述の記事を読んだことをきっかけにして、私なりの考えを述べることにしました。

なお、ここで述べている「グルメ番組」とは、グルメをテーマにした番組だけではなく、番組内でグルメを扱ったコーナーも含めます。

覆面審査官

まず、前述の記事の要点をまとめると以下の通りです。

  • ミシュランガイドを支えているのは覆面審査官
  • テレビの役割も本来はミシュランガイドと同じだが、今は機能していない
  • 店を探しだす楽しさが、今のテレビ界にはない

ミシュランガイドにおける本来の調査方法などはさておき、記事の中では覆面審査官というのが大きなポイントになっており、「覆面審査官」=「しっかりと評価する人」=「信頼がある人」といった描かれ方をしています。

一方テレビはどうかと言えば、いつも同じ店しか選ばない上に見せ方も考えられていないのでダメであり、その理由はネットの検索に頼ったり、リサーチャーに任せたりしているからであると述べています。

グルメ番組の問題

私は<グルメ番組の問題>を以下のように考えています。

  • 番組制作の過度な効率化
  • 利害関係による店選別

番組制作の過度な効率化

「アッコにおまかせ!」の事件は記憶に新しいところですが、電話だけで訊きたいことだけを訊き、謝礼もクレジットもないのは、お金と時間をかけずに情報を得ようとする典型的な例であり、私もテレビに出演する際にこれと近いことを感じることがあります。

お金をかけないことによって、情報元に謝礼を支払えずにきちんとした情報を得られなかったり、スタッフを雇えないので満足なリサーチができず、最初の段階で多くの店を対象にできないことがあったりします。

時間をかけないことによって、しっかりとロケハンできずに、メニューが思ったものと違っていたり、カメラワークがうまくいかないこともあるでしょう。レストランではアイドルタイムにしか撮影できないことも少なくありませんが、放送日までに余裕がなく撮影できる日が少ない場合には、レストランとスケジュールが合わず、紹介したかったのに残念ながら紹介できないこともあります。

このようにお金と時間をかけずにいると、良質なグルメ番組を制作することは難しいです。

インターネットの時代だと言われている中で、テレビ局はインターネット時代以前ほどの力はないものの、やはり今でもまだ最強のメディアであり続けています。売上や営業利益も高いというのに、番組制作にお金と時間を費やしていないのは残念です。株式会社である以上は、売上と利益をより高めていかなければなりませんが、最も大切ともいえるコンテンツの制作にお金も時間もかけなくなってしまったのでは、本質を見失ってしまうのではないでしょうか。

利害関係による店選別

テレビのグルメ番組では「1000円以下のお得ランチ」「春の限定グルメ」「贅沢ホテルレストラン」など、だいたいの場合は、何かのテーマを設けた上で、識者が自分の判断で決めたり、何かの基準で採点したりして店を選ぶことになりますが、本当によい店だけが選ばれるわけではありません。なぜならば、紹介する店がそれぞれ特徴づけられるように、ジャンルや値段、特徴や場所といったバランスを考慮して、店が選ばれるからです。

このようにコンテンツとしてよりよいグルメ番組にするために、本当によい店以外も選んでいるのであれば構わないのですが、利害関係によって店を選ぶことがあれば問題ではないでしょうか。程度の差こそあれ、このような問題は昔から存在していますが、テレビ局が主軸である放送収入(テレビCM)以外の売上を模索するようになったここ最近になって、この問題が大きくなっているような気がします。

例えば、ある番組では自局と関連あるクーポンサイトで大幅な割引をしている店だけを紹介しています。資本的な関わりはありませんが、業務提携のプレスリリースを出しており、局員も送り込むなどしているので非常につながりが深いです。

このクーポンサイトでは、店ではなく客からの月額費によって売上を立てており、クーポンを利用するためには月額費用を払って会員になる必要があります。グルメという一般的な内容にも関わらず、特定のクーポンサイトの会員だけが得をするということを押し出しているのは、公共の電波という点でも中立性が保たれているようには感じられません。

このような制約のもとで店を選んだとしても、とてもよい店とは言えず、自らの商品を自らの電波にのせてPRしているだけという印象を与えるのではないでしょうか。現場のテレビマンも決してそのような番組を制作したいのではないと思います。

テレビマンが楽しんで制作できるグルメ番組を

前述の高橋氏の記事を振り返ってみましょう。

考えてみればミシュランガイドの命は覆面審査官への信頼である。

普通に考えれば宣伝ランキングである。それを宣伝ではない、ひとつの権威にしているのだ。

以上のようにミシュランガイドの本質を捉えた後で、テレビ業界について以下のように述べています。

ネタを選ぶ覆面審査官が機能しなくなっている。

選んだ理由をどうしたら説明できるか。そういう選択の緊張がなくなっている。

そして次のように締めています。

今もおいしい店を探しだす特ダネ感だけは妙に覚えている。たぶんそれは覆面調査官が発掘する、新しいひとつ星の店に近いかもしれない。

今、そんな店を探し出す楽しさがテレビ界に一番欠けているような気がする。

高橋氏が述べるように楽しさは必要ですが、ただ楽しめと言っても、現場のテレビマンが楽しむことは難しいのではないでしょうか。楽しんでよいグルメ番組を制作するためにはまず、テレビ局の経営層が現場のテレビマンから時間とお金の制約および利害関係の呪縛を解き放つことが何よりも先決であると、以前よりもテレビを観なくなったもののグルメ番組はいまだに好きな私は思うのです。

元記事

レストラン図鑑に元記事が掲載されています。

グルメジャーナリスト

1976年台湾生まれ。テレビ東京「TVチャンピオン」で2002年と2007年に優勝。ファインダイニングやホテルグルメを中心に、料理とスイーツ、お酒をこよなく愛する。炎上事件から美食やトレンド、食のあり方から飲食店の課題まで、独自の切り口で分かりやすい記事を執筆。審査員や講演、プロデュースやコンサルタントも多数。

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