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【価格設定の妙手】OZmallが打ち出した5800円と2500円の新プランとは?

東龍グルメジャーナリスト
OZmallレストラン

インターネットでレストランを予約する

レストランを予約する時にはどうしているでしょうか。

電話で予約するという人が最も多いかも知れません。しかし、「一休.com」「OpenTable」といったインターネット予約サービスが伸びていたり、「ぐるなび」や「食べログ」が予約サービスに力を入れていたりすることからも分かるように、インターネットでレストランを予約する人は多くなっています。

インターネット予約利用者の9割以上が満足しているという調査結果もあり、広く受け入れられていると考えてよいでしょう。

1996年にOZmallがオープン

こういった時代の流れの中で、スターツ出版の「OZmall」が果たした役割は大きいです。OZmallは1996年10月に女性向けポータルサイトとしてオープンし、2003年7月にホテル宿泊予約サービス「8800円プレミアムステイ」を、2005年6月にレストラン予約「8800円プレミアムレストラン」を開始しました。

OZmallのページはきらびやかな写真と「恋に効く、恋が見つかる厳選レストラン」「優雅な夜をエスコート」「愛が深まるカップル最強ディナー」といった女性にキャッチーなコピーから構成されており、読者の心を捉えました。

しかし、OZmallが最も画期的だったことは「ターゲットを明確に絞って」ブランディングを行い、そこから「絶妙な価格統一」を図ったことです。

レストランを厳選

オズモール編集部 レストランチーム チーフディレクター渡邊菜摘氏は「ターゲットは29.8歳の独身女性」と定義し「東京OLの恋とキレイを応援する」ミッションを持っているとします。そのため、「本当によいレストランだけを厳選」し、「親友や彼氏を連れて行って喜んでもらえる」レストランだけを掲載していると言います。

「ランチは3800円、ディナーは4800円と8800円に統一されているので、価格が分かり易い」としながらも、「ドリンクが付いたり、ホールケーキが用意されたり、特別席が確保されたり」する特典があり、OZmallオリジナルの特別プランであると説明します。

一流レストランをリーズナブルな価格で

OZmallに掲載されているレストランの中には、ミシュランで星を獲得していたり、一流ホテルのレストランであったりすることが少なくありません。

そういったレストランの場合、例えばフランス料理では通常、ランチで10000円、ディナーで20000円もかかります。内容は全く同じではないにしても、統一されたリーズナブルな価格で一流店を利用できることは非常に魅力的でしょう。

新価格が登場

レストラン特集では「恋に堕ちる Love Magic ディナー」「シャンパン×和牛×フォアグラ豪華ディナー」「美人広報・プレス行き付けレストラン」といった新しい企画を常に創り出してきました。

その一方でOZmallの強みである価格統一は堅持してきましたが、2014年に入ると状況が変わります。2月27日に5800円、3月6日に2500円という新しい価格のプランを販売し始めたのです。

これには一体どういう理由があったのでしょうか。

デート利用を促進したい

5800円プランのレストラン
5800円プランのレストラン

5800円プランを開始したことに関して、オズモール編集部レストラン編集チーム エディターの田谷麻美氏は「2013年のご利用状況を調べるとデート利用が10%」であるとし「記念日やお祝いで使っていただくのは嬉しいが、もっとデートに利用していただきい」と述べます。

8800円プランは単価も高いのでデートではなく誕生日・記念日を想定しており、これよりも手頃な4800円プランで女子会・デートを想定しています。

4800円プランよりも単価を上げて内容をより魅力的にすることで、デート利用を促進しようとして5800円プランが作られたのです。

デート向けの特典を付ける

渡邊氏は「20代後半から30代前半の付き合っていないカップルが、これから仲を深めていく」ことを想定して5800円プランの構想を膨らませたと言います。そういった状況を想定して、「カップル席へご案内したり、乾杯ドリンクを付けたり、最後のデザートをチーズに変更できたり」する特典を盛り込んだと説明します。

5800円プランの「カップル席へご案内」特典は、8800円プランの「特別席をリザーブ」特典をデート向けへと発展させたものと解釈してよいでしょう。8800円の特典が5800円にも付くと考えると、お得であることが分かります。

田谷氏は「最後のデザートはお酒に合うおつまみ料理にも変更できるので、甘いものが苦手な彼を気遣うこともできる」と女性視点にも立った特典であると言います。

レストランや利用者にも喜んでもらえる

渡邊氏は「まだ開始したばかりなので、はっきりとした効果は現れていない」としながらも、「4800円プランに参画いただいているレストランは、よりクオリティの高いプランをご提供できると喜んでいる」とレストラン側にもメリットがあると話します。

オズモール編集部 レストラン事業推進部 マネージャー 関根赴治氏は「席に関するご意見をクチコミでいただいているので、カップル席へのご案内は喜んでいただけるはず」と、利用者のニーズは高いと考えています。

プチゴージャスを満喫

2500円プランのレストラン
2500円プランのレストラン

ランチの2500円プランを開始した理由を、「30歳前後になると子育てしている友達と夜に会うことが難しくなる」として「昼に気軽に女子会を開けるようにした」と田谷氏は説明します。

渡邊氏は「会社のチームで目標を達成した時になど、ちょっとしたお祝いにも使える」、加えて「要望の高かったひとり予約も同じタイミングで開始した」と、これまでは届かなかったターゲットにアプローチできると言います。

爆発的な人気

渡邊氏は「ホテルブッフェで2000円台が人気だったので2500円プランは自信があった」と述べますが、田谷氏は「最も人気があるキーワードの『いちごスイーツ』でさえ通常アクセスの4倍だが、2500円プランは通常アクセスの6倍」と、予想以上の成功に驚いています。

利用者からニーズがあるだけではなく、渡邊氏は「もともとディナーの4800円プランに参画しているレストランから、手頃なランチを提供したいというご要望があった」とレストラン側からもニーズがあったと説明します。

2500円プランが大成功した理由

渡邊氏は「当初は2500円か2800円か悩んだ」と振り返りますが、2500円にして3800円とより明確に差別化したおかげで、双方のプランでパイを奪い合うことがなかったのでしょう。

値段は手頃ですが、特典として「厳選したレストランで、ディナーの名物メニューも提供し、デザートも付けた」ことが、大成功した大きな要因であると分析します。

確かに、単に3800円から2500円に安くしただけであれば、「安かろう悪かろう」と思われて敬遠されていたのかも知れませんが、利用者に嬉しい特典をしっかりと用意したことで付加価値が高まり、「安くてお得」と思われるようになったのでしょう。

ターゲットが明確になっているOZmallだからこそ、どういった要望があるかを知悉しており、効果的な特典を用意できたのではないでしょうか。

5800円プランの価値をさらに高めたい

全てが順調満帆に思えますが、まだ課題はあると言います。

5800円プランでは、田谷氏は「カップル席では数が限られる」としてスケールを広げることが難しいとし、渡邊氏は「カップル席の定義も詰めなければならない」と定番である窓際席やカップルソファー席以外をカップル席とするかどうか、という課題を挙げています。

加えて「4800円プランとさらに差別化したり、グレードアップのオプションを提供したりして、独自の価値を高める必要がある」と考えています。

2500円プランもまだ上を目指していく

2500円プランでは、田谷氏は「レストランによって3皿であったり6皿であったりとボリュームがまちまち」なので精査する必要があるとし、「想定されたママ友の女子会や会社員の利用がどれくらいあるかを調査する」と、結果は出ていますがさらなる高みを目指します。

渡邊氏は「ひとり予約は利用者がまだ少なく、想定していたよりも年齢層が高い」と、ターゲットへ正しくアプローチできているかどうかを俎上に載せます。

構造的な変化にどう対応していくか

今後について、田谷氏は「もっと価格が低いディナープランも考えたりしている」と展開を述べ、渡邊氏は「消費税が段階的に上がり、食材費や家賃が値上がりする中で、どのような価格を設定するか」と悩みを覗かせます。

OZmallは価格設定の妙手であるが故に、価格設定の難しさをよく分かっているのでしょう。

女友達であるお客さまを絶対に裏切らない

2013年開催オズモールガールズパーティ(500人が参加)
2013年開催オズモールガールズパーティ(500人が参加)

OZmallの会員数は2009年10月に100万人、2014年1月には200万人を突破しました。女子会イベントでは「Luckyカクテルパーティ」で3000人という桁外れの人数を集め、どの女子会イベントも応募者が多過ぎるため抽選にせざるを得ないほど盛況です。

田谷氏は「365日利用していただけるようにしたい」とさらなる向上を目指し、渡邊氏は「女子は素敵なレストランに連れて行ってもらいたい」と女性の心理を代弁します。

両氏とも「OZmallにとって、お客さまは大切な女友達。女友達を絶対に裏切っていけないのと同じように、お客さまを絶対に裏切ってはいけない」と真摯に語り、だからこそ「OZmallでは引き続きクオリティやコストパフォーマンスが高いレストランを厳選して紹介していく」と約束します。

OZmallの強さは、コンセプトやビジョンがはっきりしており、想いが伝わっていることではないでしょうか。

OZmallが今後、大切な女友達をどこへ導いてくれるのか、価格設定の妙手による次の一手を注目したいです。

情報

詳しくは公式サイトをご確認ください。

グルメジャーナリスト

1976年台湾生まれ。テレビ東京「TVチャンピオン」で2002年と2007年に優勝。ファインダイニングやホテルグルメを中心に、料理とスイーツ、お酒をこよなく愛する。炎上事件から美食やトレンド、食のあり方から飲食店の課題まで、独自の切り口で分かりやすい記事を執筆。審査員や講演、プロデュースやコンサルタントも多数。

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