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なぜ雪が降ると飛行機が飛ばないのか? 本当の理由ってご存知ですか?

鳥塚亮えちごトキめき鉄道代表取締役社長。元いすみ鉄道社長。
大雪の新千歳空港で出発の準備をするANA機

この3連休は関東地方に大雪の予報が発表され、羽田や成田を発着する多くの便に欠航が出ました。

でも、実際に羽田や成田の空港や滑走路が大雪で閉鎖されたわけではありませんし、通常通り運航された飛行機もたくさんありました。

なのに一部の便には「雪のために欠航します。」の表示が。

これはいったいどうしたことなのでしょう。

雪が降ると、なぜ飛行機が飛ばないのか。

都市伝説が数ある中で、実際のところはどうなっているのでしょうか。

そのあたりの航空会社の事情を独断と偏見で解説いたします。

飛行機が来ないから欠航します。

まず、筆者が書いた先日釧路空港で自分の乗る飛行機が欠航になったニュース。

釧路空港から羽田に向かう飛行機を予約していましたが、羽田空港から釧路に向かって飛んできた飛行機が着陸できずに引き返してしまいました。

そうなると、当然ですが折り返し便となる釧路発羽田行の便も欠航になります。

欠航理由として、これはご理解いただけると思います。

羽田から飛んできた飛行機が釧路空港の近くでしばらく旋回して着陸を試みましたが、降りることができず羽田へ戻ってしまった航跡。
羽田から飛んできた飛行機が釧路空港の近くでしばらく旋回して着陸を試みましたが、降りることができず羽田へ戻ってしまった航跡。

飛行機は天候に左右される乗り物ですが、天候というのは風速、風向、視程、雲高などとそれによる滑走路や誘導路などの状態で、降りられるか降りられないかを飛んできた機長が判断することになります。

悪天候を予想してあらかじめ欠航を決定する。

これに対して、悪天候を予想してあらかじめ欠航便を決定する場合があります。

今回の羽田空港や成田空港のように航空会社のベースとなる大きな空港に悪天候が予想される場合は、実際に飛んできた飛行機が降りられるかどうかという判断で欠航となるのではなく、あらかじめ欠航便を決定して最初から飛ばさないという欠航の方法を取ります。

その手順をご紹介します。

まず、空港にある気象台が15時に翌日の予報を出します。

これは「マルロク」と呼ばれるもので、世界標準時の06時(日本時間の15時)に出す予報のために「マルロク」と呼ばれているものですが、その予報を元に当日夜から翌日の朝にかけての悪天候が見込まれる場合は、航空会社だけでなく航空局、飛行場管理会社など、空港を運営する会社の合同会議が持たれます。

そして、その会議で警戒レベルごとの各機関の対応が話し合われます。

これは以前から筆者が申し上げているBCP(Business Continuity Planning:業務継続計画)の一環として、航空局、空港管理会社や航空会社があらかじめ定めている規定を適用するかどうかという判断のもとになる会議です。

▼BCP(業務継続計画)についてはこちらをご一読ください。

JRの一斉運休に見る日本のお寒いBCP事情

例えば、羽田空港や成田空港のような大きな空港の場合、通常であれば2~3分ごとに飛行機が離着陸していますが、強風や視界不良などの悪天候の場合は、管制塔からこの離着陸の間隔をいつもよりも長く取る処置が取られます。通常を100%とすると、悪天候の場合は段階的に70%や50%といった発着回数の制限が行われます。

このように発着回数に制限が設けられるようになると、航空会社としては通常通りの便数を全部飛ばすことは難しくなりますから、この段階でいくつかの欠航便をノミネートすることになります。

大雪の場合、いきなり滑走路が閉鎖になるのではなくて、降雪の状況を見ながら段階的に航空機の運航を減らしていき、悪天候が回復しない場合は最終的に滑走路を閉鎖するという段階的処置を取りますから、航空会社はそれにしたがって翌日の自社便の運航計画を立てることになります。

滑走路が開いていても飛行機は飛べない

では、実際に雪が降りはじめるとどういうことが起きるかというと、滑走路は除雪対策や融雪剤の散布などで便数制限は出るかもしれませんが、飛行機の離着陸は可能な状況です。でも、ゲートに停まっている飛行機がお客様を乗せて出発するためには、機体に着いた雪を取り除く必要があります。

大雪の新千歳空港で出発前に機体の除雪作業をするANA機 (筆者撮影)
大雪の新千歳空港で出発前に機体の除雪作業をするANA機 (筆者撮影)

飛行機は胴体はもちろんですが、主翼や尾翼などに雪が残っていると揚力が出なくなりますから飛び上がることができません。

これはDe-icing(ディアイシング)、Anti-icing(アンチアイシング)と言って、機体についた雪や氷を取り除き、さらに離陸までの一定時間、雪や氷が機体に着かないように薬剤を塗布する作業で、過去には機体への着雪、着氷による大事故が不幸にも何軒も発生していますから、航空会社としては、降雪時には特に慎重になってこの作業を行います。そして、この作業には、飛行機の大きさにもよりますが、最低でも15~20分という時間が必要になります。

いくら滑走路が離着陸できる状態であっても、出発準備が完了した飛行機は、通常のようにいきなりプッシュバックするのではなく、この離陸前の除雪作業が必要になりますから、どうしてもその作業時間分、最低でも20分程度出発が遅れることになります。

飛行機の運用を考えてみましょう。

ここで、飛行機の運用について考えてみましょう。

単純に羽田と伊丹を往復している1機の飛行機があるとします。

仮に飛行時間を60分、折り返しのための所要時間を60分としますと、

1便:羽田6時発→伊丹7時着

2便:伊丹8時発→羽田9時着

3便:羽田10時発→伊丹11時着

4便:伊丹12時発→羽田13時着

5便:羽田14時発→伊丹15時着

6便:伊丹16時発→羽田17時着

7便:羽田18時発→伊丹19時着

8便:伊丹20時発→羽田21時着

と、こういった機材運用で1機の飛行機が1日中飛んでいます。(実際にはこれほど単純ではありませんが、あくまでも一例)

ここに、降雪時に必要となる機体の除雪作業が加わるとどういうことになるでしょうか。

飛行機は羽田空港を出発するたびに最低20分の遅延が加算されることになります。

羽田や成田といった空港は新千歳のような雪国の空港とは違い、機体の除雪をする作業車も最低限の数しか配置されていませんから、作業時間だけでなく、作業車の順番待ちといった状態も発生します。下手をするとお客様が搭乗完了して出発準備が整ってから1時間も2時間も機内で待たされることもザラにあります。

飛行機の運用を考えた場合、離陸前に除雪作業の時間を組み込めば遅れがどんどん後ろに伸びていくことになります。そうなると1日に渡ってすべての便のお客様にご迷惑をおかけすることになりますし、伊丹空港もそうですが、空港によっては離着陸に門限を設定しているところもありますから、最終便が運航できなくなることも十分に考えられます。

これを防ぐために、どうするかというと、上記運用で言えば、例えば5便、6便の1往復をあらかじめ「欠航」として、遅れをその時間で吸収する措置を取ることで、その後の便を定刻で運航できるようにします。

大雪が予想される時、前日の段階ですでに欠航が決まっている便というのは、こういう考えに基づいたものであります。

JALのホームページで見る羽田ー伊丹の運航状況。朝のうちは飛んでいますが、お昼前の便に「予報」段階での計画欠航が見られます。
JALのホームページで見る羽田ー伊丹の運航状況。朝のうちは飛んでいますが、お昼前の便に「予報」段階での計画欠航が見られます。
こちらはANAの運航状況。同じようにお昼前の便に「予報」段階での計画的欠航が見られます。
こちらはANAの運航状況。同じようにお昼前の便に「予報」段階での計画的欠航が見られます。

特にLCC(格安航空会社)の場合は、地上での折り返し時間をギリギリに設定してありますから、初便の遅れを最終便まで引きずることも珍しくありません。LCCは早くから「欠航」を決めるというのは、折り返しのための時間設定が35分程度と、ただでさえ飛行機の運用に余裕がありませんから、どんどん間引きしていくしか方法がないということなのです。

また、この時期は羽田空港や成田空港以外でも天候調査中という空港が特に雪国で多く見られます。

羽田の悪天候だけならまだしも、目的地の空港まで悪天候という路線では、さらなる混乱を防ぐために、前日から欠航便としてノミネートして、最初から飛行機を飛ばさないというのも、航空会社の運航管理としては重要な判断になります。

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JALもANAも秋田行の午前便が欠航していますね。JALのホームページに見る「「羽田空港降雪の予報により欠航」の文字が計画欠航であることがわかりますが、この日は秋田の天候も悪かったのです。
JALもANAも秋田行の午前便が欠航していますね。JALのホームページに見る「「羽田空港降雪の予報により欠航」の文字が計画欠航であることがわかりますが、この日は秋田の天候も悪かったのです。

このようにして、航空会社は空港そのものの運用制限に伴い、どの便を運航して、どの便を欠航させるかという判断をすることになりますが、こういう判断に基づいた欠航であれば、予想以上に雪の降りが少なくて早めに天候が回復したとしても、そのまま欠航となるというのが、降雪予報のために取った対策としての欠航便ということになります。

「雪は止んでいるのに、なぜ飛ばないのですか?」という疑問に対する答えですね。

航空会社というのは、あらかじめ決められたBCPの方針を元に、ぎりぎりまでなんとか飛行機を飛ばそうと努力していますが、空港そのものの処理能力が減速される状況の中では、あらかじめ前日の段階で欠航便を指定して運航調整を行うことで、可能な限りの便を飛ばす対策を取っているということになります。

ただし、不幸にしてご自分の便が欠航となってしまった場合は、前回も申しあげました通り、できるだけ速やかに、例えば翌日便への予約振替やホテルの手配など、自分自身で置かれた状況から抜け出す努力をして、当面の対策を立てなければならないのは言うまでもありません。

なぜなら、飛行機の故障などによる欠航とは違って、悪天候の場合は影響がすべてのお客様に及びますから、とても航空会社側で対応できる数を超えていることと、ホテルなどの宿泊施設の空室も限られますから、早くアクションをした者勝ちという状況だからです。

飛行機が飛ばないということは、到着のお客様も来られないということになりますから、ホテルの部屋もキャンセルが出る可能性が高くなりますし、翌日の便にもポツリポツリ空席が出始めることがよくありますので、ネットをよくチェックしながらチャンスを待つのが辛抱のしどころということになるでしょう。

皆様方の旅が、快適な旅であることを願っております。

おまけ

飛行機の除雪作業は2つの段階で行われます。

1:De-icing (ディアイシング)

機体に着いた雪を取り除く作業です。

まず、ファンで圧縮された強風を送り、機体の雪を飛ばします。

そして溶剤を混ぜたお湯を散布します。

これは見ているとビチャビチャと機体に勢いよくかけているのがわかります。

2:Anti-icing (アンチアイシング)

除雪した後、機体に雪が付かないようにする作業です。

これは粘度の高い特殊溶剤をスプレーして機体をコーティングすることで着氷を防ぐものです。

寒冷地仕様など、場所によって使用する溶剤が異なるようですが、散布後効果が持続する時間は30分程度と言われています。

このため、飛行機は作業終了後は速やかに滑走路へ向かい、離陸しなければなりません。

滑走路に離陸待ちの順番ができていたりすると、離陸までに時間切れとなる可能性もありますから、ランプコーディネーターと呼ばれる地上作業責任者は、すべての状況を把握して作業指示を出すことが求められます。

出発前の除雪作業を受けるANAの小型飛行機。(筆者撮影)
出発前の除雪作業を受けるANAの小型飛行機。(筆者撮影)

なお、除雪に使用する溶剤は環境に配慮した成分で、散布するランプ(駐機場)は空港外部へ直接汚水が流れ出ることがない構造になっていますので土壌汚染など周辺環境への影響はないと言われています。

えちごトキめき鉄道代表取締役社長。元いすみ鉄道社長。

1960年生まれ東京都出身。元ブリティッシュエアウエイズ旅客運航部長。2009年に公募で千葉県のいすみ鉄道代表取締役社長に就任。ムーミン列車、昭和の国鉄形ディーゼルカー、訓練費用自己負担による自社養成乗務員運転士の募集、レストラン列車などをプロデュースし、いすみ鉄道を一躍全国区にし、地方創生に貢献。2019年9月、新潟県の第3セクターえちごトキめき鉄道社長に就任。NPO法人「おいしいローカル線をつくる会」顧問。地元の鉄道を上手に使って観光客を呼び込むなど、地域の皆様方とともに地域全体が浮上する取り組みを進めています。

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