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もし新幹線が止まったら、お客様はどうしたらよいのか?

鳥塚亮えちごトキめき鉄道代表取締役社長。元いすみ鉄道社長。

先週の金曜日に続き、今日も始発から東北新幹線が運転できなくなりました。

お昼過ぎには運転再開したようですが、駅は大混乱だったものと思います。

もし、新幹線が止まったらあなたならどうしますか?

新幹線や特急列車の運転ができなくなった時の鉄道会社側から見た手続きについてお話ししましょう。

交通新聞社JR時刻表巻末ページより
交通新聞社JR時刻表巻末ページより

JR時刻表巻末のピンクのページには営業案内が書かれています。

ふつうの人はこういうページはなかなかご覧にならないと思いますが、そのさらに巻末の最後のところに「事故などの場合の取り扱い」という項目があります。

そこにはこう書かれています。(要約)

・旅行を取りやめる場合は運賃、料金の全額をお返しします。

・旅行の途中で取りやめる場合は、残りの区間の運賃をお返しし、特急、急行料金は全額お返しします。

・出発駅までお戻りになる場合は無料でお戻りいただき、運賃、料金の全額をお返しします。

・乗車している列車に限って運転できない場合(車両故障など)は後続の列車に乗車できます。

今日の東北新幹線のように運転できなくなった場合は、基本的には「今持っている切符を払い戻します」ということが書かれているだけです。

乗車券類をご購入いただいた際に、お客様は運送約款という決まりをご了承いただいたものとみなされるのですが、時刻表の後ろの方に小さく書かれているのは、その運送約款の中にある旅客営業規則で定められているものの抜粋です。

詳細はJR東日本 旅客営業規則の中にある第7章「乗車券等の取り扱い」、第5款「運行不能及び遅延」の中にある第282条に詳しく定められています。

JR東日本旅客営業規則第282条

ふつうの人はいちいち切符を買う時にこういうところまで見ることはありませんが、切符を買ったということはほぼ自動的に運送約款を了承していることになりますから、「私は知らなかった。」では通じないことになります。

ホテルの手配や代替交通機関の手配は無い

航空輸送であれば、天候などの不可抗力は別として、機材故障など会社が責を負う理由で運航不能になった場合は、食事が出たりホテルの手配をしてもらえたり、他社便や他の交通機関への振り替えをしてもらえる場合があることはよく知られています。

でも、鉄道会社の場合は、持っている切符を払い戻すだけで、基本的には終了となります。

高速バスや航空機などの代替輸送機関へのご案内や食事の手配、宿泊手配などのサービスを提供する決まりは鉄道会社の規則にはありません。

一例を挙げて解説します。

東京から新青森まで、東北新幹線「はやぶさ」の切符を持って駅へ行ったら新幹線が運転できない状態だった場合、鉄道会社は乗車券、特急券を払い戻して終わりです。

乗車券は東京から新青森までお客様を運ぶための運賃で、特急券は速達性を保証するものですから、お客様の旅行開始前に列車が運休していれば運ぶことも時間通りに到着することもできませんから、乗車券と特急券の両方の払い戻しの手続きをしてお仕舞となります。

その後、どうやって青森まで行くかはお客様ご自身が決めて手配することになります。

では、予定通り新幹線「はやぶさ」に乗車した後、途中駅で運転できなくなって列車が停止して運転打ち切りとなった場合はどうでしょうか。

例えば福島で止まってしまったとします。

お客様が旅行を取りやめる場合は、東京-新青森間の乗車券のうち、すでに乗車した東京-福島間は使用したものとみなし、残りの福島-新青森間に当たる部分を払い戻しします。特急券に関しては全額払い戻しです。

お客様が出発地(東京)へ戻られたいということであれば、あくまでも他の列車が動いていることが前提になりますが、お客様は無料で東京まで送還され、東京-新青森間の乗車券、特急券の両方が全額払い戻しになります。

鉄道会社が運送約款に定めているのはこれだけです。

福島で降ろされたお客様が、そこから先、どうやって目的地の新青森まで行くかは鉄道会社が関知するところではありません。

運送約款外のハンドリング

でも、例えば乗っていた列車が福島で運転取りやめになったのが夜だったらどうしますか。

深夜でもう他に交通機関も動いていません。

そういう場合は救済措置として、例えば列車ホテルなど提供する場合があります。

また、一部の特急列車の停車駅には非常用の食料や水などを備蓄している駅もありますから、お客様にそういうものを提供したり、あるいは駅構内の待合室を開放したりすることはあります。

筆者が目撃したのは新潟発の信越本線の特急列車「しらゆき」が遅延して、上越妙高駅で最終の北陸新幹線「はくたか」に接続しなかったことがありました。その際には上越妙高駅のJRの駅員さんが、特急「しらゆき」のお客様のお出迎えをして、北陸新幹線「はくたか」に接続する予定のお客様を翌日便に振り替え、駅前のホテルにご案内していました。

もちろん宿泊のためのホテル代は鉄道会社持ちです。

これはいわゆる人道上の救済措置であり、鉄道会社が好意として任意で行うものですが、その場合も、あらかじめ特急列車から新幹線に乗り継ぐ切符をお求めいただいている方だけが対象となります。これから切符を買って乗る予定だったお客様に対してはこの取り扱いをしていませんでした。

また、本日の新幹線の運休のように、全列車が運転停止するようなことがあれば、対象となるお客様は数千人、数万人となりますから、当然すべてのお客様にこのようなオファーをすることは不可能です。今回のような車両故障ばかりでなく、天候や天災等不可抗力の場合を含めて、鉄道輸送は航空輸送とは比べ物にならない人数のお客様を運びますから、一人一人いちいち対応することは不可能なのです。

この切符は昨年の9月6日に筆者が乗車していた特急「しらゆき4号」が、大雨で長岡駅で運転取りやめになった時の特急券です。

新潟から長岡まで乗ってきて、長岡駅で運転打ち切りとなりましたが、特急料金は全区間払い戻し対象です。長岡駅の精算所では券面に「9/6 大雨のため事故扱い (長岡駅)」と書かれて、「1年以内でしたらJR東日本のどこの駅でも払い戻しできます。」と案内されました。

特急列車の乗客は4両編成で数十名だったと記憶していますが、その場で払い戻すだけの現金が準備できていなかったのかどうかはわかりませんが、切符に手書きで書いて押印しただけの処理でした。

もし、筆者が上越妙高から接続する北陸新幹線の特急券、乗車券を所持していたら、長岡駅から上越新幹線に乗り、高崎乗り換えで北陸新幹線への輸送手配をしていただけたかもしれませんが、その場合は「他経路乗車の特認」という扱いとなります。

もっとも、その他経路が自社管内ということに限るようですが、筆者は上越妙高までですので他経路乗車の特認にはならず、救済のバスに案内されました。

ところが、筆者はバスがあまり得意でないため、その救済輸送のバスをお断りしました。

鉄道会社が用意した救済バスを断るということは、「あとは自分で頑張っていきます。」ということですから、筆者は長岡-越後川口-十日町-犀潟-直江津-上越妙高というコースをたどりましたが、長岡-越後川口-十日町までは所持している信越本線の乗車券でそのまま乗車し、他社区間となる十日町-犀潟間は自己負担で切符を買って上越妙高に到着しました。

フリー切符の場合はどうなるのか?

企画切符やフリー切符というお得な切符を最近よく見かけます。

フリー切符というのは、どこへでも好きなところへ行かれるのでお客様にとっては実に便利でありがたい切符ですが、鉄道会社から見ると、目的地が決まっていませんから輸送契約が成立していません。

つまり、鉄道会社の全区間が運休の場合ならともかく、一部の路線だけ、今回の場合は東北新幹線の大宮-仙台間だけが運休のような際の払い戻しは基本的にはありません。

駅の窓口や券売機で購入する普通乗車券が航空会社で言うところの正規のノーマル券とすれば、フリー切符のような企画切符類は格安券ですから、使用に当たっては様々な制約が課せられます。当然列車運休時の払い戻し等も対象外となる場合がありますので注意が必要です。

これから、ゴールデンウィークの混雑時期を迎えます。

小さな駅では指定券窓口も閉鎖され、お客様対応の駅員さんも減らされている状況の中で、新幹線や特急列車を利用される場合は、万が一列車が大幅遅延したり運休になった場合、お客様はご自身でサバイバルする必要がありそうですので、どうぞ余裕を持った計画をお作りいただくようにお願いいたします。

もしもの場合の代替ルートを考えておくのも良いかもしれませんね。

皆様方の楽しい御旅行を願っております。

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※本記事は一般の皆様方にわかりやすく解説したものです。使用した文言を含め、実際の旅客取扱とは異なる場合がありますのでご承知おきください。

※本文中に使用した写真はすべて筆者撮影のものです。

えちごトキめき鉄道代表取締役社長。元いすみ鉄道社長。

1960年生まれ東京都出身。元ブリティッシュエアウエイズ旅客運航部長。2009年に公募で千葉県のいすみ鉄道代表取締役社長に就任。ムーミン列車、昭和の国鉄形ディーゼルカー、訓練費用自己負担による自社養成乗務員運転士の募集、レストラン列車などをプロデュースし、いすみ鉄道を一躍全国区にし、地方創生に貢献。2019年9月、新潟県の第3セクターえちごトキめき鉄道社長に就任。NPO法人「おいしいローカル線をつくる会」顧問。地元の鉄道を上手に使って観光客を呼び込むなど、地域の皆様方とともに地域全体が浮上する取り組みを進めています。

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