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17歳11ヶ月で最年少タイトル獲得!藤井聡太七段がみせた鮮やかな「桂」使い

遠山雄亮将棋プロ棋士 六段
記事中の画像作成:筆者

 16日、第91期ヒューリック杯棋聖戦五番勝負第4局が行われ、藤井聡太七段(17)が渡辺明棋聖(36)に勝って通算3勝1敗とし、初タイトルを獲得した。

 17歳11ヶ月でのタイトル獲得は、歴代最年少記録だ。

序盤、中盤

 矢倉の急戦に進んだ本局。序盤戦は渡辺棋聖がペースを握っていた。

 しかし、藤井七段も守備金を前線に繰り出して攻めを食い止める。

 急戦調の矢倉は形勢のバランスを崩さずに指し進めるのが難しい。

 定跡の整備が進んでいないため、一手一手を振り絞るように考えて指さないといけない。

 その戦いで藤井七段は渡辺棋聖に一歩も引かず、むしろ主導権を奪い返す強さをみせた。

 特に印象に残ったのが、自陣に守り一辺倒の桂を打った手だ。

 苦しい受けにみえたが、読みの入った一着だった。

 その桂打ちに対してさらに攻勢をかけた渡辺棋聖だったが、その判断がどうだったか。

 渡辺棋聖も自陣に手を入れれば長い戦いが続いたと思うが、感想戦でも言及がなかったので指しにくい手なのだろう。

 そういう局面に持ち込んだ、藤井七段の守りの桂打ちが素晴らしかった。

鮮やかな桂使い

 渡辺棋聖の攻勢に藤井七段も反撃して、一気に攻め合いへ。

 局面が切迫する中、飛車取りを手抜いて桂を打って挟撃態勢を作った。

 挟撃態勢を作り、飛車を取らせた瞬間に一気に攻めかかる。

 言葉にすれば簡単に聞こえるが、いざ実戦でこの手を指せる人は藤井七段以外にいないのではないか。

 そしてこの桂打ちが鮮やかな一着だった。

 渡辺棋聖は残り17分から13分を使って考えるも、飛車を取れず受けにまわった。

 感想戦でも、「桂で負けですか」と藤井七段の妙手を素直に認めていた。

 この鮮やかな桂打ちで挟撃態勢がほどけなくなり、藤井七段の優位がハッキリした。

 その後も桂の乱れ打ちで渡辺棋聖の玉に迫り、最後は桂を合駒に使って自玉の詰みを防いで勝ちを決めた。

初戴冠

 以前、藤井聡太七段は17年前の「渡辺明五段」を超えられるか?という記事を書いた。

 渡辺棋聖のタイトル初挑戦は2003年の第51期王座戦五番勝負。

 相手は羽生善治王座(当時)だった。

 この時、渡辺棋聖は惜しくも2勝3敗で敗退した。

 時代の最強者にあと一歩届かなかった。

 歴史に名を刻んだ棋士でも、初挑戦でその時代の最強者からタイトルを奪うことは難しい。

 そもそもそういう巡り合わせ自体が多くないのだ。

再戦への期待

 藤井七段は挑戦中の第61期王位戦七番勝負でも開幕から2連勝とタイトル獲得へ近づいている。

 二冠に向けて、視界良好だ。

逆転勝利で王位戦2連勝!初タイトルを目指す藤井七段への対抗策はタイムマネジメントにあり

 年内にタイトル戦出場の可能性があるのは、竜王戦になる。

 決勝トーナメントへ進出しており、挑戦まであと5勝だ。

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 二冠に後退する渡辺棋聖も、秋には四冠の可能性がある。

 挑戦中の第78期名人戦七番勝負は現在1勝2敗。ここから佳境を迎える。

 そして第68期王座戦ではタイトル挑戦まであと1勝に迫っている。

 次にこの二人が戦う可能性のあるタイトル戦は、第70期王将戦七番勝負になる。

 開幕は来年の1月を予定している。

 

 個人的には、今シリーズは渡辺棋聖の良さがあまり出なかったようにみえた。

 歴史に名を刻む強者は、必ず巻き返してくる。

 次の戦いは、きっと今回より激しいものになるだろう。今から楽しみでならない。

将棋プロ棋士 六段

1979年東京都生まれ。将棋のプロ棋士。棋士会副会長。2005年、四段(プロ入り)。2018年、六段。2021年竜王戦で2組に昇級するなど、現役のプロ棋士として活躍。普及にも熱心で、ABEMAでのわかりやすい解説も好評だ。2022年9月に初段を目指す級位者向けの上達書「イチから学ぶ将棋のロジック」を上梓。他にも「ゼロからはじめる 大人のための将棋入門」「将棋・ひと目の歩の手筋」「将棋・ひと目の詰み」など著書多数。文春オンラインでも「将棋棋士・遠山雄亮の眼」連載中。2019年3月まで『モバイル編集長』として、将棋連盟のアプリ・AI・Web・ITの運営にも携わっていた。

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