Yahoo!ニュース

逆転勝利で王位戦2連勝!初タイトルを目指す藤井七段への対抗策はタイムマネジメントにあり

遠山雄亮将棋プロ棋士 六段
記事中の画像作成:筆者

 14日に2日目が指し継がれた第61期王位戦七番勝負第2局は、挑戦者の藤井聡太七段(17)が木村一基王位(47)に勝って、開幕から2連勝とした。

 先手番の木村王位が相掛かり戦法を選択し、中盤から局勢をリードする。

 しかし終盤、藤井七段が驚異の粘りをみせ、双方秒読みの中、一瞬のスキをついて体を入れ替えて逆転で勝利した。

初の封じ手

 本局、藤井七段が初めて封じ手を行い、話題となった。

 その封じ手から藤井七段が攻勢を強め、木村王位が受ける展開に。

 両者の持ち味がぶつかった。

 中盤、「千駄ヶ谷の受け師」の異名を持つ木村王位の面目躍如という手順が出た。

 相手の飛車をわざと成らせて反撃に出るというものだ。

 これは並の発想では絶対に気が付かない順で、強い将棋AIもすぐには示さない手だった。

 木村王位らしさを存分に発揮した順で、筆者も感嘆した。

逆転

 終盤は形勢に差がつき、木村王位の寄せを見るばかりとみられていた。

 しかし、藤井七段はしぶとい。

 決め手を与えず、攻防の香打ちで反撃に転じる。

 最後、木村王位に詰めろ逃れの詰めろとなる決め手があるようにみえた。

 恐らく木村王位もその手で勝ちをつかむ予定だったのだろう。

 終局後、真っ先にその手を示していた。

 しかしその手を放っても、素直に応対されると藤井七段の玉がギリギリで詰まないのだ。

 筆者も、そしてABEMAの解説者も、「まさか詰まないのか」と驚嘆していた。

 藤井七段の終盤力、確かな読みが発揮された場面だった。

 優勢になってからの藤井七段の対応は正確で、木村王位も追いすがるが再逆転とはならなかった。

棋聖戦

 本局、木村王位が金取りを放置して踏み込んだ手が敗着になったようだ。

 あの場面でもう少し時間があれば、受けにまわって勝利をつかんでいたことだろう。

 本局の藤井七段は、木村王位が得意とする相掛かりに対して研究が整っていることを示した。

 序盤戦の指し方は、筆者も大変参考になった。

 逆転での勝利に加え、今後の後手番での戦いに手応えも得て、藤井七段にとって大きな1勝だった。

 そして明日、藤井七段は返す刀で棋聖戦第4局を戦う。

 初タイトルをかけた大一番だ。

藤井七段が初タイトルまであと1勝に迫る棋聖戦五番勝負
藤井七段が初タイトルまであと1勝に迫る棋聖戦五番勝負

タイムマネジメント

 王位戦第2局に続く後手番となる藤井七段。

 作戦巧者の渡辺明棋聖(36)が相手でもあり、ここでも主導権を取られる展開になりそうだ。

 渡辺棋聖は月曜日に豊島将之竜王・名人(30)と対戦し、先手番で角換わりを採用して快勝した。

 棋聖戦第3局もいい内容で藤井七段をくだしており、上り調子だ。

 木村王位は秒読みに追い込まれたことで最後は逆転を許した。

 棋聖戦第3局では、渡辺棋聖が終盤まで時間を残し、藤井七段の粘りを振り切って勝った。

 藤井七段戦においてはタイムマネジメントが普段以上に求められる。

 驚異の終盤力に対抗するには、持ち時間を残しておくことが重要だ。

 棋聖戦第4局はどんな展開になるだろうか。

 渡辺棋聖は、ここ一番でとっておきの作戦を準備し、タイムマネジメントも考慮して勝利への道筋を立ててくるに違いない。

 連戦の藤井七段には疲れもあるだろう。しかし逆転で勝利した勢いがある。

 果たしてどんな結末を迎えるのか。明日もご注目いただきたい。

将棋プロ棋士 六段

1979年東京都生まれ。将棋のプロ棋士。棋士会副会長。2005年、四段(プロ入り)。2018年、六段。2021年竜王戦で2組に昇級するなど、現役のプロ棋士として活躍。普及にも熱心で、ABEMAでのわかりやすい解説も好評だ。2022年9月に初段を目指す級位者向けの上達書「イチから学ぶ将棋のロジック」を上梓。他にも「ゼロからはじめる 大人のための将棋入門」「将棋・ひと目の歩の手筋」「将棋・ひと目の詰み」など著書多数。文春オンラインでも「将棋棋士・遠山雄亮の眼」連載中。2019年3月まで『モバイル編集長』として、将棋連盟のアプリ・AI・Web・ITの運営にも携わっていた。

遠山雄亮の最近の記事