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藤井聡太八冠のライバル誕生か?プロ入りを懸けた第74回三段リーグは3/9に決着

遠山雄亮将棋プロ棋士 六段
記事中の画像作成:筆者

 本日(3月9日)は、第74回奨励会三段リーグ戦の最終日です。この日に18・19回戦が行われて全日程が終了し、プロ入りとなる四段昇段者が決まります。

 現在、12勝4敗が4名、それを追う5敗勢も2名いて混戦模様です。

 リーグの現況と昇段を争うメンバーについて、ここから解説していきます。

昇段争い

プロ入りをかけた戦いは、ほぼ7名に絞られている
プロ入りをかけた戦いは、ほぼ7名に絞られている

 三段リーグは基本的に一日に2局行われます。第74回は奇数人数で行われているため、抜け番が生じていますが、昇段を争うメンバーは全員2局指すことになっています。

 12勝4敗の4名のうち、前期成績に基づく順位が上位の山川三段と高橋三段が自力(※)の権利を持っています。二人とも、18回戦に勝利すると他の結果によっては昇段が決まる可能性もあります。

 直接対決は、最終19回戦に組まれている山川三段ー村上三段のみです。他の結果次第では、「この一戦に勝った方がプロ入り」という人生をかけた大一番になる可能性もあります。
 また、11勝5敗の2名は4敗勢よりも順位が上なので、自らが連勝すればチャンスが出てきます。例えば木村三段は、自らが連勝して、4敗勢のうち3名が1敗すれば昇段となります。

 16・17回戦は2月18日に行われ、昇段を争うメンバーが星を伸ばせず混戦に拍車がかかりました。
 首位の山川三段は15回戦まで12勝2敗でしたが、16・17回戦で連敗を喫しました。表の他の6名も16・17回戦で一人も2連勝できず、抜け出せませんでした。プレッシャーもあるでしょうし、三段同士の実力差が小さいことも要因と思われます。

※この場合の自力は、2連勝すれば他者の成績に関わらず昇段が決まることを指す

昇段を争うメンバーについて

順位は前期成績に基づいて決まる。村上三段はリーグ初参加
順位は前期成績に基づいて決まる。村上三段はリーグ初参加

 ここから、昇段を争っているメンバーを簡単に紹介していきます。

 首位の山川三段は13期目。実力を認められながら爆発力に欠けて、ここまでは10勝前後に終わることが多かったです。
 しかし、今期は開幕7連勝とスタートダッシュに成功して現在も首位をキープしており、最終戦の村上三段との直接対決が注目されます。師匠は広瀬章人九段(37)で、順位戦A級で無念の降級となった師匠に朗報を届けられるでしょうか。

 2番手の高橋三段は筆者と同じ一門で、練習将棋を指す機会も多いです。人懐っこい性格で先輩棋士に可愛がられ、将棋を教わっている成果でこの一年ほど実力が向上しており、それに伴って成績も良くなってきました。
 最終日は、17歳の小窪三段、18歳の渋江三段(藤井八冠の弟弟子)と若い三段との対戦が続きます。勢いを持ってぶつかってくるだけに嫌な相手と言えますが、若さを力でねじ伏せることができるでしょうか。

 3番手の岩村三段は、藤井八冠も認めるほど詰将棋の才能に長けている17歳です。実力は折り紙付きで、3期前には昇段争いにも加わっています。
 振り飛車党でしたが、今回のリーグでは居飛車も積極的に採り入れているようです。プロ入りとなれば最年少棋士となりますし、詰将棋の才能(創る方でも賞を取っている)と合わせて話題になりそうです。

 4番手の村上三段は、初参加のリーグで昇段争いに加わってきました。若い頃から才能を認められながらなかなか三段リーグへ到達できませんでしたが、蓄積した力を爆発させています。
 師匠は今期順位戦で旋風を巻き起こして話題となった佐藤慎一五段(41)です。今度は弟子が話題をさらうでしょうか。先ほど述べた通り、最終戦の山川三段との直接対決がカギを握ります。

 表では一番下、7番手につけている山下三段は15歳でまだ中学3年生です。プロ入りを果たせば藤井八冠以来の中学生棋士誕生となります。ただ、16回戦で唯一の女性である中三段に敗れて(中三段は15回戦でも山川三段に勝利)、4敗勢と星の差が2つあるため、順位最上位といえど厳しい状況です。

厳しいリーグ

 今回の三段リーグは45名という過去最高の在籍人数も話題となりました。
 そのうち2名しかプロ入りできないのは、人数比としてみると厳しいです。ただ、昇段ラインは「上位の13勝、下位の14勝」で変わりがなく、結局この成績を残さないとプロ入りの可能性がないと考えると、参加者にとってこの人数比が厳しさを増すものなのか、解釈が難しいところもあります。
 とはいえ45名のうち2名しかプロ入りできないのは当事者からすると希望を持ちにくいのも事実なので、個人的には、好成績を残せば必ずプロ入りにつながり(次点枠の拡充など)、一方で降段の仕組みをもう少し厳しくして(4勝以下を2回で降段など)参加人数を絞る形が望ましいと考えています。

 三段リーグ(奨励会)には年齢制限があり、原則26歳の誕生日時点で参加しているリーグを最後に退会しないといけません(勝ち越すと次回も参加できるなど、救済措置もある)。そこまでにプロ入りをしないといけないということです。
 今回のリーグでも、残念ながらすでに数名の退会が決まっています。
 昇段争いをしているメンバーでは、首位の山川三段は年齢制限まであまり時間がないため、かかるプレッシャーも他のメンバーより大きいと思われます。
 筆者もプロ入り時に年齢制限ギリギリだったため、プレッシャーが大きかったことを思い出します。

 今回の三段リーグはここに来て昇段を争うメンバーの星が伸び悩んで混戦模様となっており、最終日も何が起こるかわかりません。
 過去にも三段リーグでは様々なドラマが起きてきました。

 表で山下三段に色が付いていますが、これは過去に次点(3位)を獲得した印で、もし今回も次点になると「次点2回でプロ入り(フリークラスからのスタート)」という規定によりプロ入りが決まります(ただし、本人がプロ入りを拒否して三段に留まることも可能)。
 もつれにもつれて、山下三段が3位に滑り込んで中学生棋士が誕生するような展開も十分に考えられます。

 果たしてどのような結末になるのでしょうか。三段リーグでは対局の中継を行わないのが将棋界の伝統です。結果が出れば日本将棋連盟HPなど、各メディアで報道が出ますので、そちらにご注目ください。 

将棋プロ棋士 六段

1979年東京都生まれ。将棋のプロ棋士。棋士会副会長。2005年、四段(プロ入り)。2018年、六段。2021年竜王戦で2組に昇級するなど、現役のプロ棋士として活躍。普及にも熱心で、ABEMAでのわかりやすい解説も好評だ。2022年9月に初段を目指す級位者向けの上達書「イチから学ぶ将棋のロジック」を上梓。他にも「ゼロからはじめる 大人のための将棋入門」「将棋・ひと目の歩の手筋」「将棋・ひと目の詰み」など著書多数。文春オンラインでも「将棋棋士・遠山雄亮の眼」連載中。2019年3月まで『モバイル編集長』として、将棋連盟のアプリ・AI・Web・ITの運営にも携わっていた。

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