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DeNAコピペメディア騒動の背景にある5つの病の連鎖を考える

徳力基彦noteプロデューサー/ブロガー
DeNA騒動は、DeNA一社の特殊な騒動と片付けて良いのでしょうか(写真:Rodrigo Reyes Marin/アフロ)

WELQを起点とする一連のDeNAまとめサイト騒動の調査報告書が公開されてから、もう2週間が経過しました。

この間、何度か自分の考えを記事にまとめようとしながらも、色んな記事の解説を読みながらモヤモヤしながら、ズルズルと整理できないまま今日に至っているのですが。

昨日(正確には一昨日)、MERYの新代表にまさかの江端さんが就任というニュースもあり、状況も変わってきそうなので、現段階での自分の考えを公開しておきたいと思います。

公開停止中のDeNA「MERY」に新代表が就任ーー再開の可能性を模索

正直、このDeNAコピペメディア騒動ほど、個人的に消化に悩んでいる騒動はありません。

何しろ公表された報告書は全文で277ページ。

私自身もスマホで軽く飛ばし読みしはじめましたが、あまりに大作すぎてとてもスマホでは読み切れず、途中でPCに移動したぐらいでした。本気で読み込めているかというと自信はありません。

おまけに今回の騒動は医療情報の問題に、著作権に対する姿勢の問題、組織のガバナンスの問題など様々に論点があるため、DeNA側の記者会見に対するメディア各社の姿勢も、守安社長の責任を強く指摘するものから、現場側の責任者であった村田マリさんや中川綾太郎さんの責任を強く指摘するものまで多岐にわたります。

特に報告書では、対策の1点目として「永久ベンチャーは免罪符ではない」というフレーズを使っていたことから、この言葉を記事のタイトルに使っているメディアも多いようですし、DeNA固有の特殊な問題として受け止めているメディア関係者も多い印象です。

ただ、個人的に今回の報告書を受けて感じたのは、実は今回の騒動は別に1人2人の悪意や永久ベンチャーを標榜していたから発生した問題というよりは、ネットメディアが陥りがちな構造問題の象徴的事例なのではないかということです。

今回の騒動の後、何名かのDeNA関係者の方の話をいろいろ聞いているせいもあるとは思いますし、私自身が南場さん、守安さん、村田さん、中川さんの4名の関係者とそれぞれ1回~数回程度の面識がある人間ではあるので、バイアスがあることは否定しませんが。

個人的に、今回の報告書をざっと読んで感じたのは、今回のDeNAコピペメディア騒動は、業界でも良く問題視される5つの病気が複合して発症した結果、これほど大きな騒動になるまで放置されてしまい重症化したのではないかということです。

私が感じた5つの病とは下記の5つ。

■大企業病

■株価偏重病

■エクセル病

■ページビュー病

■違法じゃないから大丈夫病

一つずつ簡単に説明しましょう。

■大企業病

大企業病の定義は人によって異なると思いますが、Wikipediaには下記のようにまとめられています

「組織が大きくなることにより経営者と従業員の意思疎通が不十分となり、結果として、組織内部に官僚主義、セクショナリズム、事なかれ主義、縦割り主義などが蔓延し、組織の非活性をもたらす。」

既に多くの方が指摘していますが、報告書では、今回のDeNAのキュレーションプラットフォーム構想が形になっていく過程で、何度も何度も様々な方々がメディアの運営の仕方や記事の質を軽視する姿勢のリスクについて指摘をしているという箇所が出てきます。

しかし、結果的にDeNAのメディア運営の姿勢は、ベンチャー企業時代のiemoの運営の仕方よりも、さらに明確によりSEO重視に、量重視になってしまい、最終的に騒動の際に注目された運営方法になってしまっていたようです。

村田さんや中川さん、守安さんなど個人を戦犯にするのは簡単ですけど、直感的には違う気がします。

本来、ベンチャーであるiemoを買収し、上場企業であるDeNAで事業展開する際に、その際に指摘された問題点について少なくとも改善していくはずだと思います。

それが明らかにSEO手法を中心に逆に悪化しているわけで、これは買収された側の経営者だけでできるわけがない印象です。

ここで象徴的な逸話となるのは、そういった実際のメディアの運営スタイルについて経営者の守安さんがほとんど知らなければ、ユーザーから度々届いていたクレームも守安さんにあげられていなかった点。

これ、本当のベンチャーだったら会社が小さいですから知らないわけないですし、クレームも当然見たくなくても目に入りますからね。悪い情報が経営者に届かないとか、典型的な大企業病の症状だと思います。

もし、キュレーションプラットフォーム事業が会社の浮沈をかけた唯一の事業だったら、問題提起をした法務側のメンバーや、質に対する問題提起をしていたメンバーも、日々同じ議論を事業側のメンバーと続けていたはずで。

買収のタイミングとか、事業チェックのタイミングにせっかく問題点を指摘しているのに、実際にその後の改善をウォッチしている感じがしないので、実は典型的なセクショナリズムの現象のような気がします。

本当のドベンチャーだったら、法務担当の人もそんな問題抱えてる会社にいつまでも勤めてるの怖いから、毎週のように問題提起して、改善されてるかチェックすると思うんです。もちろん経営陣からして全員が確信犯のベンチャー企業は別ですが。

守安さんが実態を知ってビックリして、9つのメディアの公開を止める決断をした、という報道が事実なのであれば、当然守安さんもそこまで確信犯ではなかったと想定されるわけで、組織が縦割りになっているからこそ、メディア事業を別会社のように扱っていたからこそ発生してしまった問題のように思います。

■株価偏重病

当然、大企業病はどこの会社にもあることなので、それ自体でここまでの騒動の根っこにはならないわけですが、今回この大企業病に密接に組み合わさってしまったと想像されるのが株価偏重病です。

この言葉自体は私が勝手に言っている言葉ですが、株価至上主義とか財務戦略偏重と言った方が良いかもしれません。

参考:財務戦略偏重がもたらす重大な副作用

日本においては長らく銀行や企業同士による株式の持ち合いが常態化していたため、どちらかというと「株主軽視」の時代が長く続いていたのが実態だと思います。

それがバブル崩壊後あたりから「株主重視」が強くうたわれるようになりました。

企業経営者が株主重視を意識すると、株価の上下を気にするようになります。

株価は何によって上下するかというと企業業績への期待感です。

それ自体は当然悪いことではないのですが、実は企業のトップが自分を評価してくれる明確な数値指標として株価や短期業績ばかりを意識すると、実は顧客や従業員、そして社会の利益を損なうケースが増えてきます。

つまり株主の利益を最大化することに注力するあまり、それ以外のことがおろそかになりがちなんです。

アメリカだと株主の利益を損なうとすぐに株主代表訴訟をくらうので、経営者が株主の顔色ばかりうかがうようになり大きな社会問題になったと聞いています。

そういうものに対するアンチテーゼとして生まれてきたのがNPOとかなんですよね。

今回の報告書を見ても実に残念だったのは、社長の守安さんの発言に、ほとんど「読者」や「ネット全体」をどうしたいかというイメージは出てこず、売上や利益、サイトのDAUなどの数値ばかりしか出てこない印象が強い点です。

社長なんだから当然だろ、という話かもしれませんし、騒動に対する報告書だからそこにフォーカスしたということかもしれませんが、それにしてもあまりにメディアの議論にしては企業業績の数値の話しか出てこない印象なんですよね。

勝手に想像するに、守安さんからすると、自分が社長になった後にソーシャルゲームのブームが一段落した関係で業績が落ち続けてますから、その挽回に焦っていた面はあるのではないかと思います。

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なにしろ守安さんが担当していたモバゲーはサービス開始後から急速に成長して、DeNAを今の規模まで押し上げるエンジンになっていたわけで。

当然、社長になってからその業績が下がってしまうと、その穴を自らの責任で埋めなければいけないと考えるのは経営者としては当然だと思います。

外部から見るとピークから落ちたとは言え、売上1500億、利益200億ある優良企業なんですけどね。

株価も2011年の守安さんの就任後の9月にピークをつけ、その後半値以下になる展開もあったようですから、とにかく業績の次の柱としてメディア事業に期待していたところも大きいのでしょう。

逆に言うと、その後株価を回復させている守安さんの手腕は凄いと言えますが、一方で今回の騒動を産む土壌を知ってか知らずか作ってしまった面はあると思います。

キュレーションプラットフォームの10個というメディアの数やDAUの目標数値は、守安さんがトップダウンで決めて、事業責任者は難しいとこぼしていたというくだりがあったと思いますが、おそらくは株価をあげるために必要な業績目標を設定して、その目標を達成するためのメディア事業の数値目標だったのではないでしょうか。

本来はソーシャルゲームブームがプチバブルだったと思えば、今が適正な業績と考えることもできたと思うのですが、下がったものは上げろという圧力が来るのが株式投資の世界。

この大企業病と株価偏重病のコンボは、実は多くの大企業における不正の温床になっています。

東芝においても、歴代の社長が自分が社長の時代の業績に傷をつけないために、部下にチャレンジを強いたことが不正会計の温床になっていることが明確になりましたが、実はDeNAの構造も悪意があったかどうかは別として、残念ながらこれに似た精神構造になってしまっていたのではないかと想像されます。

あくまで勝手な憶測ですが。

■エクセル病

この大企業病と株価偏重病のコンボに拍車をかけたのが、「エクセル病」と私が読んでいる現象です。

正確には「質を無視して量だけを重視してしまう病気」という方が正しいでしょうか。

ノルマ病と言っても良いかもしれませんが、要はエクセルで管理できる数値だけを重視してしまう病です。

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参考:上場企業の粉飾会計が過去最多…背景に現場へのノルマ圧力

くどいようですが、報告書を読む限りキュレーションプレットフォームのチームは、とにかく高い目標数値に追いまくられていたようです。

当然、数値目標だけが決まっていて、そのプレッシャーが高ければ高いほど、人間はその数値を持っても簡単な手段で埋めに行く、水が低きに流れる現象が良く起こります。

数値目標が明確であればあるほど、その数値を埋めれば褒められる、その数値が足りなければ怒られるわけですから、その数値だけに意識が行くんですよね。

当然ながら、今回の騒動においてもせっかく質と量の議論がされていたのに、当然のように量の目標へのプレッシャーが質の議論を後回しにしてしまっています。

これ、ネット広告の世界でもしょっちゅう発生する良くある問題なんです。

一昔前にGoogle Adsenseのバナーで大手メーカーが、ちょっとエロいメッセージのバナーを出していて物議を醸したことがありました。

多分、そのバナーを出せば実際に釣られてクリックして購入する人が多いから成果は出るんでしょうけど、実はそのバナーを見てこんな大企業がこんな広告出すんだ、とガッカリした人も多いわけです。

その会社はしばらくしてそれに気づいてそれから一切そういう手法はとらなくなりましたが、実際にはこの手の数値目標を達成するために手段を選ばなくなる事例はネット広告業界にはたくさんあります。

フォロワーの目標数を達成するために、どこかの闇アカウント業者からフォロワーを買ってきたりとか、動画再生数の目標を達成するために動画を再生したユーザーに小銭を払うサービスを使ったりとか。

数値目標だけ達成しようと思ったら、質はほっておいて数値目標を埋めてくれる手段に頼った方が楽なわけです。

昨年大きな騒動になったPCデポの営業方針も問題の構造は同じでしょうし、昨年話題になったネット広告不正騒動が発生した背景にある精神構造も似たような原因だと思います。

量としての数値の目標設定だけを見てしまうと、本来そこと並行してあるべき質の議論がどうしても負けてしまうんです。

目標に20%届いてません、というのと、質が下がってます、という議論だとどうしても量の議論の方が分かりやすいんですよね。

本当は質が下がると絶対量にも影響出るはずなんですけど。

短期的には量の目標を埋める方が分かりやすいわけです。

DeNAのキュレーションメディア群においても、質の低い記事を量産したことで、こんな記事を公開していて良いのかというクレームが複数会社に届いていたはずなんですが、現場は高い目標を達成するのが最優先なので、質を上げるのは後にして量を量を、とエクセル上の数値目標を最優先にしている過程で、どんどんどんどん質に対する感覚が麻痺して質のレベルが下がっていっているのが報告書からは見て取れます。

でもこれも、程度は別として、結構いろんな会社で似たようなことが起きている問題のはずです。

■ページビュー病

正確にはDeNAでKPIとしていたのは、ページビューではなくアクセス数なので、ページビュー病ではなくアクセス数病なんですが、あえて一般論としてここではページビュー病と呼びます。

4番目にあげてますが、実は個人的には今回の騒動において一番問題だったのはこのページビュー病ではないかと思っています。

大企業病も株主偏重病もエクセル病も、実は大企業においては良くある話であり、それ単体で社会問題化するような話ではありません。

ただ、今回のDeNAコピペメディア騒動において、根本的な原因となるのはメディアのKPIとしての目標設定を日ごとのアクセス数に置いたところにあると思います。

DeNAにはモバゲーでの成功体験があったので、キュレーションプラットフォーム構築においてもこのノウハウの延長として守安さんは数値設定をし、改善をしながら数値目標を達成していくイメージを持っていたのではないかと思います。

おそらく、メディアの数を10個と決めたのもソーシャルゲームと同じノリでしょう。

ソーシャルゲームにおいては、ゲームのアクティブユーザーの推移を見ることで、収益の最大化をはかるのが基本と聞いていますから、おそらくゲームのアクティブユーザー数と同じ感覚でメディアのアクセス数を目標値に置いたのでしょう。

でも、これ実は全く意味が違うんですよね。

ゲームのアクティブユーザー数というのは、ゲームの質と基本的にシンクロします。

面白いゲームであれば次の日もユーザーは帰ってきてまた遊んでくれますし、面白くないゲームであれば二度と来ません。

つまりアクティブユーザー数を見ていれば、ゲームの質もある程度担保できるわけです。

アクティブユーザー数を見ながらPDCAを改善していくこと自体が、顧客にとっても非常に意味のある活動になるわけです。

ところがウェブメディアにおけるページビュー数やアクセス数は全く違います。

これって結果的に出てきた指標でしかないんですよね。

例えば、インパクトのあるタイトルで読者の興味を引こうとすることを「釣り」と言いますが、釣りが上手になればある程度アクセスを集めることは可能です。

その結果アクセス数は増えますが、記事の内容がつまらなければ一瞬で読者は帰ってしまいます。

しかもソーシャルゲームと異なりウェブメディアは、1記事見てもらえたからといって明日も読者が帰ってくるとは限りません。

Yahooニュースから自分のサイトにリンクしてもらえれば一瞬アクセス数は増えますが、その人達は明日また帰ってきてくれるわけではないわけです。

ブログを書いたことがある人なら、誰しもが自分の記事が多くの人に読まれたかどうかで一喜一憂した経験があると思いますが、ページビューのグラフって心電図みたいになりがちなんですよね。

なかなか積み上げ型にならないわけです。

ブログを書いていると、一度記事がヒットするとそのページビューに麻痺してしまい、だんだんと大きなページビューにいかないと満足できなくなってしまい、他人を攻撃して炎上するような記事ばかり書き続けざるをえなくなる、という現象に陥りがちで、それはそれでページビュー病の典型的な急性症状だったりするわけですが。

これをいつまでも続けるのは大変です。

で、ここで登場するのがSEOです。

検索経由のアクセスが安定して存在することで、検索エンジン対策を上手く実施することができれば、安定してページビューを獲得できることになります。

DAUを目標値にするのであれば当然SEOが最も安定した手法なのは間違いありません。

毎回話題になる記事を書くのは大変ですが、SEO対策であれば技術の力で改善できますし、検索エンジンの上位表示を獲得できれば安定してアクセス数を稼ぐことができるわけです。

でも、これってソーシャルゲームのアクティブユーザー数と意味が全く違うんですよね。

メディアがSEO対策して稼いだアクセスって結局検索エンジンを通過する一見さんをサイトに連れてくるだけなので、当然リピート読者にはなりません。

読者にとっての記事の質ではなく、検索エンジン最適化のための記事の質を重視しすぎた結果、人間にとってはおかしな記事で質が低い記事でも、KPIとして設定した目標を達成してしまうわけです。

それで目標達成できるなら、当然人間は楽な方に流れてしまうわけで、高い目標を設定されたキュレーションプラットフォームのチームが、安易な質の低い記事量産に流れてしまったのは実は必然と言えてしまうわけです。

短期的に炎上でPVを集めようとするのが急性ページビュー病なら、このとにかくSEO対策で大量に記事生成しようとするのが慢性ページビュー病と言えるでしょう。

ソーシャルゲームでアクティブユーザー数をKPIとするのと、ネットメディアのアクセス数をKPIとするのは、似ているようで全く違う行為なわけです。

実はアクセス数とかページビュー数って、メディアが単体でメインKPIにするのは非常に危険な数値なんですよね。

今回の騒動で、守安さんの社長としての管理責任を問う声も多くあるようですし、金儲け主義だから、という指摘も多くあるようですが。個人的には守安さんがエンジニア出身者らしいやり方で、メディアをグロースハックしたからこうなっただけではないか、という仮説を持っています。

守安さんや南場さんが記者会見で、実際の自らのメディアの記事生成の方法等を知って愕然としたという発言をされていたと思いますが、これは多分本当なんだと思います。

まぁ、現場から離れていた南場さんは別として、守安さんにしてもソーシャルゲーム同様のKPIを使って現場を高い目標で鼓舞していけば、最終的に現場のメンバーが良い形を見つかるはずだ、ときっと思い込んでいたんだと思うんですよね。

当然ながら確信犯でここまで質の低いメディア運営を放置していたわけではなく、ソーシャルゲームの時と同じような成功パターンに入ると思ってグロースハックをメンバーに任せていたんだと思います。

だからこそ、問題の発覚後しばらくして9サイトを閉鎖するという決断をできたんだと思いますし、自らの責任を強く感じて早期に自分の責任だという発言をされていたんだと思います。

そういう意味では、メディアのグロースハックのKPIとしてアクセス数を目標にしたのが大きな誤りだということもできます。

でも、これネットメディアでは大なり小なりみんな抱えている問題なんですよね。

だから、バズフィードのような質重視のメディアでは、ページビュー数だけでなく、シェア数とかエンゲージメント数とか読了率のような記事の質を表現してくれている指標を重視するようになっているそうです。

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参考:「読まれた」と「バズった」は違うー BuzzFeed古田氏が語るコンテンツの”質”

広告主はページビューの多い媒体から順番に広告出稿を検討したりするので、なかなか難しい業界問題のようです。

■違法じゃないから大丈夫病

最後は、去年の舛添元都知事の騒動から「不適切だけど違法ではない病」と言った方が分かりやすいかもしれませんが、法律に違反してないから問題ないと考えてしまう思考停止病です。

報告書を読む限り、DeNAのメディアを作る量と質の議論においても、適法かどうかの議論が中心になっており、DeNAとしてのコンプライアンスとか倫理的な適切さの議論がほとんど無いように見受けられます。

実際問題、WELQが医療問題でアウトになったので、その後著作権問題についてもダブルでDeNAはアウトということになりましたが、残念ながらネットメディアにおけるコピペ引用がグレーゾーンであることを良いことに無法状態だったのは誰もが知るところです。

今でこそ、DeNAのようなコピペを推奨するメディア運営は社会的に「クロ」と認定されつつありますが、DeNA騒動の前は当然のように大手ネット企業がこぞって実施していたわけです。

日本のネット企業の草分けであるサイバーエージェントも自社が運営するSpotlightで同様の問題があることをヨッピーさんに詰められてますし。

参考:炎上中のDeNAにサイバーエージェント、その根底に流れるモラル無きDNAとは

直近の成功企業筆頭のLINE株式会社も、自社が運営するNAVERまとめの著作権管理の意識が低いことを指摘され、広告配信停止を求める署名には4000人を超える署名が集まりました。

参考:「広告会社はNAVERまとめへの広告配信を停止してください」 NAVERまとめに写真をパクられた写真家がネット署名開始

結局、コピペというのは、上場するようなネット企業の多くがこぞってやっていた手法だったわけです。

当然ながら個人レベルとか小規模なベンチャーだと、もっと悪質なものが多い状態なのは言うまでもありません。

年明けの段階で、悪い方向に工夫をしていると指摘されているメディアもあったそうです。

参考:とにかくバレないように工夫を凝らすキュレーションメディア、パクリの常連であるトリッピースのRETRIPが凄い

1年前の今頃は、問題だとはいわれてたけど、赤信号みんなで渡れば怖くない状態で、誰もがやっていることでもあったわけです。

だから、法務的見解を問われても、倫理的にグレーな部分は法律的に「白」という判断になっていたんだとは思います。

画像のコピペに対する議論が象徴的ですが、DeNAの法務的視点では、画像のコピペサーバー保存は法律的にクロである可能性が高いから、直リンクを推奨してるんですよね。

これ法務部的見解としては正しいのかもしれませんが、サーバー負荷の観点からエンジニアには非常に嫌われる不適切な選択肢ですし、そもそも直リンクすれば素材提供者が全員適切だと思うかと言えば当然違うんですよね。

だからこそ、逆にペロリの中川さんは、エンジニア視点から直リンクをさけてリスクの高いサーバー保存を選択したんでしょう。

それが結果的に彼を法律的な確信犯として辞任に追い込む結果になってしまったわけですが。

ほんの一年前は、写真のコピペ引用という行為は、この手のコピペメディアを運営していた企業の法務部門的には、プロバイダ責任制限法とか親告罪であるという性質を考えれば、リスクの大きい行為ではなく、法的には逃げ切れる白に近いグレーという判断をしてたんですよね。あくまで倫理観が低い側のコピペメディア業界の感覚的にはですが。(※ツイッターからアドバイスを頂き追記修正しました)

いずれにしても、本来、DeNAが議論すべきは、どれぐらいのコピペ引用のやり方が「適法」か、ではなく、どれぐらいのコピペ引用であれば上場企業として、日本のネットを代表企業として「適切」かだったと思うのですが、そこが法律論での議論しかされていないように見受けられます。

本来は、法律を守っていたとしても上場企業として倫理的にアウトであればやるべきではないという議論があるはずなんですよ。

でも、これも昨年の舛添元都知事を筆頭に、炎上事例に置いてはほとんどのケースで再現されるあるある事例なんですよね。

個人的には、最初の謝罪会見においても、素直にコピペ問題についても謝罪するべきだったと感じていますが、その点の追及については第三者委員会の調査を待つまで実際が分からないので回答できないというやり取りが何度も記者と守安さんの間でループしてました。

おそらくこれは弁護士的見地から、何が違法だったのか分からないので中途半端に謝罪しないようにアドバイスをされていたのではないかと勝手にうがってみていますが、それだと記者にしても一般人にしても、本質的なところで謝っていないように見えるんですよね。

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参考:「違法だから炎上」は筋違い?弁護士が指南するDeNA緊急会見の問題点

あの段階で、ある程度村田さんや中川さんの責任も認めて、減給なりなんなりして明確な責任を取らせておけば、何も二人を辞任させる結果にならなかったように思います。二人が続けることに意味があるかどうかは別として。

でも、炎上対応の時に本質的な部分に謝罪をせず違法ではないと開き直ってしまうのは、実はこれまた良くある話です。

冒頭に上げた舛添元都知事が象徴的ですし、PCデポ騒動なんかもそうでしょう。 

参考:PCデポ騒動で考える、法律よりも厳しい社会の目

実は5つの問題のどれにしても、それほどDeNAならではの特殊な問題というわけでは無い印象を受けるわけです。

ということで、またしてもえらく無駄に長い文章になってしまいましたが。

一部のメディアの論調を見ると、今回の騒動はDeNAが永久ベンチャーで会社として法律違反も辞さない企業文化だったから、ぐらいの書き方をしているケースや、守安さんや村田さん、中川さんの個人的倫理観の問題だと指摘されているケースも散見されますが。

私自身は、実は今回の騒動はDeNAが大企業病を軸に複数の構造的病を併発してしまっていたので、ここまでの問題になってしまったのではないかと考えています。

ひょっとしたらDeNAのメディア部門が部門を超えた風通しが良く、届くべきクレームが守安さんにちゃんと届いたり、事業の問題を他の人達が厳しく指摘してあげたりできたら、話は変わったかもしれませんし。

守安さんがもっと業績の数値よりも、DeNAクオリティの顧客を喜ばせるという企業ビジョンのメッセージの方を先に伝え続けていれば、現場の選択肢も変わったかもしれませんし。

エクセルではかれる数値だけを重視するのではなく、クレームの件数とか喜んでくれる読者の声とかの質を、量と合わせて見ていたら違ったかもしれませんし。

ページビューという質と連動しない指標ではなく、購読者数とかリピート読者の数とか、質と連動する指標を注視していたら違ったかもしれませんし。

適法かどうかと言う議論だけでなく、倫理的に適切かどうかという議論もしていれば、違った結果もあったのでは無いかと感じるわけです。

もちろん、今更たらればの議論をしても仕方が無いですし、守安さんや村田さんの個人的責任だと指をさして批判するのは簡単ですが、多分そんな簡単な問題じゃないんだと思うんですよね。

一部の大手メディアにおいては、ここぞとばかりにネットメディアの問題を指摘するネガティブキャンペーンを組んでいるところもあるという風の噂を聞いたりしますが。 

実はこの5つの構造問題は、大手メディアにおいても簡単に再現しがちな問題だと思います。

実際には大手メディア企業においても、ユーザーの許可なく勝手に記事や写真を使って騒動になるケースは多々ありますし、毎日WaiWai騒動のように大手メディアが質の低いメディアを運営してしまった実例も過去に存在します。

私自身もDeNA騒動の発覚直後にDeNAを叩く側にまわった人間なので、人のことを言えた立場ではありませんが。

実は、今回のDeNA騒動のような問題は、我々ネットメディア運営に関わっている人間が構造的に陥りやすい問題が、いくつも連鎖しておこっているのではないかというのが個人的な印象です。

だからこそ、その構造問題にはまらないようにどうやって自分達の倫理基準や目標管理をしていくのか、というのが問われており、それを考える上で非常に重要な問題提起をDeNAの報告書は提示してくれているのであり。

そういう意味で、DeNA騒動の報告書を参考に、ネットメディアの質向上や構造問題解消のために業界全体でどう取り組んでいくべきか、という議論をすることがとても大事ではないかと思っていたりするのですが、長くなりましたので今日のところはこの辺で。

いずれにしても、私達は、DeNA騒動を特殊な一部の企業による問題と対岸の火事のように受け止めるのではなく、どうやって同じような構造にはまらないようにするべきかを考えるための反面教師とするべきではないのかなと感じる今日この頃です。

noteプロデューサー/ブロガー

新卒で入社したNTTを若気の至りで飛び出して、仕事が上手くいかずに路頭に迷いかけたところ、ブログを書きはじめたおかげで人生が救われる。現在は書籍「普通の人のためのSNSの教科書」を出版するなど、noteプロデューサーとして、ビジネスパーソンや企業におけるnoteやSNSの活用についてのサポートを行っている。

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