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【箱根駅伝2区候補たち・青学大編】黒田有力だが原監督が挙げた候補5人。その実績と過去4年間の2区選手

寺田辰朗陸上競技ライター
青学大は前回箱根駅伝7区を走った佐藤一世(当時3年)も今回の2区候補(写真:アフロ)

 箱根駅伝前回3位の青学大が12月14日、渋谷キャンパスで箱根駅伝に向けての壮行会と共同記者会見を行った。2区(23.1km)候補は黒田朝日(2年)が最有力と言われているが、原晋監督は以下の5人の名前を挙げた。

 黒田朝日(2年)、佐藤一世(4年)、太田蒼生(3年)、田中悠登(3年)、荒巻朋煕(2年)。

 5人のデータを紹介する。

 それとともに、そこから推測できる今季の青学大の戦い方にも言及する。

2区候補に求められる3つの能力と候補5人への期待度

 会見時に2区選手を決定するときに考慮する点を質問された原晋監督は、以下のように答えた。

「箱根駅伝の2区選手には3つの能力が求められます。1つめは10000mの絶対スピードです。2つめはコース全体をマネジメントできる能力。3つめは(上り)坂への適応能力です。このトータルバランスで2区候補が決まってきます。今回は黒田、佐藤一世、太田、田中、荒巻の5人が、1時間7分台で十分走ることができると思っています」

<筆者作表>
<筆者作表>

 上の表から10000mが28分10秒台の黒田と佐藤一世が、5人の中でも有力と言うことができる。5000mもその2人が13分30秒台だ。今シーズンの学生リストでは20位台と高くないが、箱根駅伝を考えた場合、それほどマイナス要素にはならない。今季の学生日本人トップは5000mが吉居駿恭(中大2年)の13分22秒01なので、20km強の距離になる箱根駅伝は13分30秒台はスピードとしては十分だ。

 10000mは今季学生トップ、佐藤圭汰(駒大2年)の27分28秒50が学生歴代2位とレベルが高い。厚底シューズの普及もあるので青学大勢も27分台が欲しいところだが、28分10秒台でも全区間20km以上の箱根駅伝の距離ならば十二分に勝負できる。前回2区で区間2位(1時間06分24秒)の近藤幸太郎(現SGホールディングス)も、トラックは13分30秒台と28分10秒台だった。

 田中は自身が5区を希望区間に挙げているので、上りに強い。全日本大学駅伝アンカーの8区では区間3位ということだけでなく、フィニッシュ前の國學院大、中大とのラスト勝負も制した。コース全体をマネジメントする能力も高いということだろう。

 太田は前回の箱根駅伝4区で区間2位。駒大の鈴木芽吹(現4年)との26秒差を詰め、デッドヒートを演じた。4区も上りが多いコースで、「2区か4区」という想定で準備をする選手は多い。全日本7区で区間5位ではあったが、その後の練習が順調なら太田の2区は期待できる。

 そして荒巻は5人の中でトラックの記録も駅伝の実績も低い方だが、まだ2年生である。将来が期待でき、場合によっては今回の箱根駅伝でのブレイクもあり得る選手なのだろう。

 ただ前回2区の近藤は4年時に、5000mで日本インカレに優勝したスピードと勝負強さがあった。全日本大学駅伝7区では3年、4年と区間2位。区間1位は2年連続で、10000m学生記録保持者の田澤廉(駒大→トヨタ自動車)である。近藤は今季の青学大メンバーより明らかに1枚上の力があった。

 それは原監督が、想定タイムを「1時間7分台」としている点にも表れている。今回の2区は前回と違い、“つなぎの2区”になる可能性があるということだろう。潜在能力の高さが他校指導者にも評価されている黒田が、爆発的な走りをする可能性はある。そのときは2区でリードして不思議はない。

山登りと下り、そして選手層の厚さが青学大のアドバンテージ

 だが今季の青学大は序盤の1~3区で先頭に立たなくても、勝算を立てられるチームになっている。

 原晋監督は会見で山登り区間の5区(20.9km)候補として黒田と若林宏樹(3年)の2人の名前を挙げた。黒田に関しては雑誌記事などで、上りの練習を好タイムで走ったことを明かしている。若林は2年前の5区で区間3位の実績を残している。

 山下りの6区(20.8km)候補には山内健登(4年)、松並昂勢(4年)、野村昭夢(3年)の名前を挙げた。3人とも箱根駅伝出場経験はないが、それでもかなりの期待ができる3選手と言っていい。

 山内は出雲4区(6.2km)で区間1位、全日本5区(12.4km)で区間4位。5000mは13分35秒04で今季学生20位、青学大勢では最高タイムだった。5000mが13分30秒台の選手が6区を走ったことが過去あっただろうか? 10000mは28分28秒75で今季学生55位。やはり、6区ならば相当に速いタイムになる。

「出雲は狙わずに取った区間賞なので自信になりました。6区の準備をしています。スピードには自信があり、下りはしっかり走れる。区間賞争いをしたい」

 野村も5000m13分36秒93のスピードを持つ。「6区は去年から準備してきているので、下りでは負ける気がしません。出雲の1区(8.0km)では不甲斐ない走り(区間賞と39秒差の区間7位)をしてしまいましたが、箱根では区間賞争いをしたい」

 松並は5000mが13分54秒45、10000mは29分33秒40で、今季の青学大勢では20番以下である。下りのスペシャリストと見ていいだろう。

 今季の青学大は6区は誰が下っても区間賞候補で、登りも区間3位以内が期待できる。

12月14日に行われた青学大の箱根駅伝壮行会<撮影:筆者>
12月14日に行われた青学大の箱根駅伝壮行会<撮影:筆者>

 選手層の厚さも今季の青学大の特徴だろう。就任20年目の原監督は以下のように胸を張った。「20年間、変わらず作りあげてきたメソッドの中でトレーニングをした結果、チーム44人の5000m平均は14分00秒になりました。これはギネス世界記録に申請してもいい。組織力で強くなっている部分だと自負しています」

 ライバルの駒大や中大、國學院大は序盤に区間賞候補選手を投入してくるだろう。その3校に比べると青学大の1~3区候補の評判はそこまで高くない。

 しかし仮に1~3区で1分程度ビハインドを背負っても、山の5区と6区、さらには選手層の厚さが表れる復路で逆転が可能な陣容になるだろう。

 過去6回の優勝を誇る青学大だが、復路での逆転は1回しかない。その1回は6区の小野田勇次が区間賞の走りでトップに立った。今季はその再現が期待できるメンバー構成になった。

陸上競技ライター

陸上競技専門のフリーライター。陸上競技マガジン編集部に12年4カ月勤務後に独立。専門誌出身の特徴を生かし、陸上競技の“深い”情報を紹介することをライフワークとする。一見、数字の羅列に見えるデータから、その中に潜む人間ドラマを見つけだすことが多い。地道な資料整理など、泥臭い仕事が自身のバックボーンだと言う。座右の銘は「この一球は絶対無二の一球なり」。同じ取材機会は二度とない、と自身を戒めるが、ユーモアを忘れないことが取材の集中力につながるとも考えている。

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