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7連覇を狙う名城大、初優勝を狙う日体大&大東大。“新パターン”がいくつも見られる全日本大学女子駅伝

寺田辰朗陸上競技ライター
有力3チームの区間エントリー(記録はプログラム記載のもの)

 10月29日に仙台市で行われる全日本大学女子駅伝(弘進ゴムアスリートパーク発着6区間38.0km)の区間エントリーが、28日に決定した。今年からコースが変更され4、5区以外の4区間は新しいコースとなった。7連勝を狙う名城大と、初優勝を狙う日体大&大東大が3強と言われている。3チーム監督のコメントから、3チームが描いている勝ちパターンを紹介する。コース変更や各大学の戦力バランスで、“新パターン”が随所に見られる駅伝となりそうだ。

名城大「10番目の選手は過去最高に強いチーム」(米田監督)

 昨年まで大会最多の6連勝を継続している名城大は、表のような区間オーダーになった。

 名城大の6連勝がスタートした17年は加世田梨花(現ダイハツ。23年世界陸上マラソン代表)が1年生で、翌年は和田有菜(現JP日本郵政グループ)と高松智美ムセンビが加わった。そして19年には小林成美(現三井住友海上。22年世界陸上オレゴン10000m代表)と山本有真(現積水化学。23年世界陸上ブダペスト5000m代表)が加わり、その2人が4年生となった昨年、今大会の連勝単独最多記録となる6連覇を達成した。

 米田勝朗監督は冗談とも、本気とも取れる口調で「もう負けないだろうって周りから言われるのが疲れますね」と言う。実際、2位とのタイム差は

17年:35秒

18年:34秒

19年:2分31秒

20年:2分51秒

21年:2分36秒

22年:2分31秒

 と、ここ4年間は2位から背中が見えないくらいの差をつけている。

 しかし過去6年間に比べると今季は、やや小粒になった印象がある。高校ナンバーワンだった米澤奈々香(2年)が昨年1区区間賞を取ったが、今シーズン前半は故障で実績を上積みできなかった。

 さらに増渕祐香(4年)が故障で戦列を離脱。日本インカレの最高順位は原田紗希(2年)の10000m7位で、13年以降では最も低い。7連覇は厳しいのではないか、という声も出始めていた。

 米田監督は前半の不調を認めつつ、今大会に向けては立て直しに成功したと強調した。

「9月の日本インカレも結果が出せませんでしたが、夏合宿からこの駅伝に向けてしっかりしたトレーニングをやって来ることができました。10月に入ってからですね。選手たちの調子が一気に上がってきて、最後の1カ月は例年と同じメニューでこのレースに会わせてくるのですが、大会5日前に行った最後のポイント調整を、長い距離を走る原田紗希(2年)以外は3000mのペース走をやったのですが、9人全員が1人も離れることなくうまく走ってくれました。飛び抜けた選手はいませんが、10番目の選手は過去最高に強いチームになったかな」

 区間エントリー表に記載した5000mの自己記録も、4区の選手は優勝候補3チームのなかで名城大が最も良い。レース展開については後述するが、区間エントリーを見ると序盤でリードできる選手を1、2区に置き、なおかつ6区に逆転できる選手を残している点では、名城大が一番と言っていい。

 圧倒的な力を持ったエース不在ながら、選手層が過去最も厚い。名城大の新しい強さを見せる大会になる可能性がある。

大東大「1、2区が(好位置で)来れば、絶対に外さない野田がアンカーを良い流れで走ることができる」(外園監督)

 大東大が悲願の初優勝なるか。大東大は12回の出場で2位を8回もとっているが、優勝には一度も手が届いていない。

 昨年の取材で外園隆監督は次のように話していた。

「2位ばかりで、監督として何かが足りないのかもしれません。しかし選手たちにしてみればその年、その年のチームが全力で戦って出した結果の2位なんです。『2位が取れて良かった』という年もあれば、『なんで勝てなかったんだろう』という年もありました」

 昨年は世界陸上3000m障害の代表に2度なっている吉村玲美(現クレーマージャパンTC)を擁して臨んだが4位。「今できる精一杯の結果」だった。

 今年は1年生5人がエントリー。大東大は森智香子(現積水化学)、福内櫻子、関谷夏希(現第一生命グループ)、鈴木優花(現第一生命グループ。パリ五輪マラソン代表)と、エースが下級生時代から活躍し始め、上級生になってチームを引っ張ってきた。初出場した11年大会の4人を上回り、大東大としては1年生最多人数の布陣となった。初の外国人選手の起用も含め、大東大も初めてのパターンで初優勝を狙う。

 意外だったのは日本人エースの野田真理耶(1年)の6区起用だった。外園監督はカコミ取材では「名城大の米田監督がアンカー勝負と言っていたから」と冗談混じりに話した。「受けて立ったわけではなくて、(優勝するために)全面的にやらなきゃいけないから。真っ向勝負ですよ」

 会見では真剣な表情で語った。

「創設1年目に1年生4人を起用したときは(3区途中棄権と)苦い経験をしましたが、今回使う5人は度胸があると言いますか、心強い選手たちです。先日のMGCで鈴木優花が頑張ってくれましたが、その鈴木に憧れて入ってきた1年生たちです。真っ向勝負で、創立100周年に花を添えられるようにレース展開をしたい。チーム全体に仕上がりが良く、誰が1区に行ってもおかしくない状況です。その中で吉井が1区を走れる、そしてダークホース的な存在だった平尾が2区を走れる。この1区、2区が(好位置で)来れば、アンカー勝負になったときに、絶対に外さない野田が良い流れで走ることができると思います。3区にキャプテンの四元も置いています。昨年の経験もありそれなりの走りをきっちりしてくれることで、1年生たちが安心できる」

 外園監督は5区のワンジルで1分程度の差を詰めることができると考えている。日本インカレ5000m3位、U20日本選手権優勝の野田の勝負強さを生かせる布陣を、1年生5人の大東大が可能にした。

日体大は“優勝と2位”も狙っての「3位以内」が目標

 名城大の個人記録が良いことを紹介したが、5000mのタイムは日体大も負けていない。エースの山﨑りさ(3年)は米澤とほぼ同じ。尾方唯莉(3年)、保坂晴子(4年)が15分40秒台で、嶋田桃子(3年)は15分50秒台。15分30秒台、40秒台、50秒台の人数は、さらにいえば16分00秒台と10秒台が1人ずつというのも、名城大とまったく同じである。

 インカレなどの戦績では名城大より上である。

 5区の山﨑りさ(3年)は日本インカレ5000m優勝、1区の保坂は1500mで日本選手権5位、日本インカレは5000mで5位。2区の尾方は日本学生個人選手権5000m4位&10000m6位。4区の齋藤みう(3年)は3000m障害の関東インカレ優勝者で、5000mに力を入れれば15分台は出せる。

 昨年も日本インカレの合計得点では名城大を上回る戦績を残した。しかし今大会は6位に終わってしまっていた。

「大会直前のコンディショニングに失敗して、ベストのオーダーを組むことができず、悔しい結果になりました。今年はその反省を生かし、9月から慎重にこの駅伝に向けて調整してきました。攻めるところは攻めて、守るところは守る。夏から組みたいと思っていたオーダーが、今年は組めたと思います。目標の3位以内を目指して頑張りたい」(佐藤洋平監督)

 昨年の失敗は9月末の関東大学女子駅伝後に、記録会に出場したこと。そこで記録を出せば駅伝に向けて勢いを付けられるが、昨年は故障者を出してしまった。

「今年は記録会出場を控えて、回復に充てて、その後一度、2週間は距離をしっかり走って、最後の1週間は調整する形にして。上手く期分けができて、選手たちもそれを理解して取り組んでくれました」

 日体大は3位が過去最高順位で3回、その順位を占めた。3年前の20年大会と、91年大会、そして五輪マラソン2大会連続(92、96年)メダリストの有森裕子が2区区間賞を取った88年大会である。

 今年の“3位以内”は4年生たちが、新年度に入るときに立てた目標だという。優勝や2位も「“3位以内”に入っています」(佐藤監督)と、打倒・名城大のビジョンも持っている。

 名城大は7連覇を、大東大は過去8回の2位を上回る優勝を、日体大は過去3回の3位以上の順位を目指して、新しくなった杜の都を駆け抜ける。

陸上競技ライター

陸上競技専門のフリーライター。陸上競技マガジン編集部に12年4カ月勤務後に独立。専門誌出身の特徴を生かし、陸上競技の“深い”情報を紹介することをライフワークとする。一見、数字の羅列に見えるデータから、その中に潜む人間ドラマを見つけだすことが多い。地道な資料整理など、泥臭い仕事が自身のバックボーンだと言う。座右の銘は「この一球は絶対無二の一球なり」。同じ取材機会は二度とない、と自身を戒めるが、ユーモアを忘れないことが取材の集中力につながるとも考えている。

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