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鈴木優花(大東大4年)が名古屋ウィメンズマラソンで挑戦する学生記録更新とプラスアルファ

寺田辰朗陸上競技ライター
大学2年時のユニバーシアード・ナポリ大会ハーフマラソンで優勝した鈴木優花(写真:アフロスポーツ)

2時間23分台も期待できるランナー

 名古屋ウィメンズマラソン(3月13日)で学生記録更新に挑戦する鈴木優花(大東大4年)について、大東大の外園隆監督にレースプランや初マラソンに向けたトレーニング状況などを取材させてもらった。

「パリ五輪にはマラソンで行きたい思いを鈴木は持っています。学生のうちに一度、大東大の4年間でやってきたことがどこまで通用するかやってみたい、というのが出場の目的です」

 鈴木は2番目のペース設定のグループで走る。レース前日(12日)のテクニカルミーティングで決まったペースメーカーの5km毎(1km毎)の設定タイムと、そのペースでフィニッシュまで走り切ったときの記録は以下の通り。

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第1:16分40秒(3分20秒)前後→2時間20分39秒

第2:17分05秒(3分25秒)前後→2時間24分10秒

第3:17分20秒(3分28秒)前後→2時間26分17秒)

※全グループ最長30kmまで

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 外園監督は「2時間24分台は狙っていかないと、学生記録は出せない」と言う。学生記録は15年世界陸上北京大会代表となった前田彩里(ダイハツ)が、14年大阪国際女子マラソンで出した2時間26分46秒だ。

 だが、学生記録はそれほど高いレベルではない。鈴木のトラックや駅伝の実績から期待できるのは、2時間24分台で走りきることだけにとどまらず、30km以降で1km平均1秒でもペースアップして、2時間23分台を出すことだ。詳しくは後述するが、外園監督も「30kmから走りを切り変えられたら」と話している。

 そして2時間23分台を出せば、第1集団から後退してきた選手を抜いて順位を上げていくこともできそうだ。日本人2~3位の可能性があると思われる。

 鈴木が30km以降でペースアップして、2時間23分台を出すための5km毎の通過タイムとスプリットタイムは以下の通りだ。

5km:   17分05秒

10km:   34分10秒(17分05秒)

15km:   51分15秒(17分05秒)

20km:1時間08分20秒(17分05秒)

中間点:1時間12分05秒

25km:1時間25分25秒(17分05秒)

30km:1時間42分30秒(17分05秒)

35km:1時間59分30秒(17分00秒)

40km:2時間16分30秒(17分00秒)

フィニッシュ:2時間23分58秒(7分28秒)

 風の向きやコースの起伏も影響することなので、あくまでも参考として見てほしい。

1、2年時のハーフマラソンでマラソン適性を見せた鈴木

 高校(秋田・大曲高)ではインターハイ3000mで2年時に14位になったが、3年時は決勝に進めなかった。

 そんな鈴木が大学1年に衝撃的な全国デビューを果たす。6月の日本学生個人選手権5000mに大会新で優勝すると、10月の全日本大学女子駅伝2区で区間賞。13位でタスキを受けたが、12人抜きでトップに立った。3月の日本学生ハーフマラソン選手権では1時間11分27秒の自己記録で、当時名城大のエースだった加世田梨花(現ダイハツ)に2秒差で競り勝った。

 2年時は5月の関東インカレ10000mに優勝し、7月のユニバーシアード・ナポリ大会は日本勢3人の争いを制した。外園監督はユニバーシアードの頃には、マラソンまで距離を伸ばせる選手だと感じ取っていた。

「入学前から1人で走る力がある選手でした。マラソンは自分の走りをマネジメントする力がないと走り切れない種目です。学生になって駅伝を見ても、やはり1人で走りきることができました。長年トレーナーとしても選手を見てきましたが、ここというところで闘志のある走りができる選手なんです。リミッターを外して乗って行く走りができる。走り自体の効率が良く、疲労の蓄積しにくい走り方です。彼女の動きならハーフまで行けると思いました。1年生の駅伝シーズンが終わったタイミングで、2年時のユニバーシアードはハーフマラソンで行こう、ということを話し合いましたね。効率の良い走りができれば10000mも行けます」

 2年時の12月には10000mで31分37秒88の学生歴代2位(現4位)で走った。2年時の活躍で鈴木自身も、オリンピックや世界陸上を目指す気持ちが芽生え始めた。

 だが3年時には、シーズン前半が新型コロナ感染拡大で試合が全て中止になり、夏には「根を詰めすぎて」(外園監督)右脚腓骨の疲労骨折をしてしまう。回復して駅伝は全日本、富士山とも区間賞を取り、全日本大学女子駅伝は1年時から2区、3区、6区で3年連続区間賞と、駅伝の勝負強さを発揮し続けた。ただ、個人種目の記録は伸ばせなかった。

 大学4年シーズンも前半は欠場が続き、駅伝では急成長した不破聖衣来(拓大1年)に敗れ、全日本大学女子駅伝5区、全日本大学女子選抜駅伝(富士山女子駅伝)5区と連続で区間2位。だが外園監督は、「4年生から始めたトレーニングが、9月の日本インカレ(10000m優勝)や駅伝2大会では結果につながっている」と言う。

 最終学年で挑戦することを決めたマラソンのために始めたトレーニングが、トラックや駅伝でも成果を出していた。

大東大での学生競技生活の集大成として

 そのトレーニングは「よく言うところのマラソン練習とは大きく違う」という。

「体の使い方や、筋力を養成することを主眼としたトレーニングです。例えば30km走や40km走をやりたいと思っても、学生ではなかなかそこまでできません。20kmくらいの距離は走れますが、プラスの10km、20kmは走る代わりに筋力トレーニングやフィジカルトレーニングで補います。そういったトレーニングを走った距離に換算できる練習を確立できそうなのです」

 その練習を「4年時から始めた」が、そもそも大東大のトレーニングは、走り込みよりもそうしたメニューが多かった。「ウチの選手が走り込むだけでは、他大学に太刀打ちできません」。新しく始めたというより、大東大の基本的なスタイルをマラソン用に改良した、と言った方がいいようだ。

 鈴木本人も、自分がマラソンに挑戦するには最良の方法だと判断した。

「このやり方で上手くいけば、マラソン練習に一石を投じるトレーニングになるかもしれません」(外園監督)

 外園監督は名古屋の鈴木に、大きく2つのポイントがあると考えている。1つは大東大流のマラソン練習が、本当に通用するか。そしてもう1つが30km以降で、勝負に出る走りができるかどうか。

「駅伝とマラソンの走りの違いは、徹底的に意識させてきました。駅伝はその区間の役割や流れがあるので、速いスピードで最初から突っ込んだり、競り合ってペースの上げ下げをしたりします。しかし同じ走りをマラソンの前半でしたら最後まで持ちません。鈴木は1人でも走ることができる選手なので、それを生かしてゴールまでをマネジメントして前半を走ってほしい。しかし30kmを過ぎたら駅伝で学んだ走りを生かせると思います。30km以降でどんな走りができるか。彼女自身も私も、そこを楽しみにしています」

 ペースメーカーが外れる30km以降で、駅伝のように前を追う走りができれば、前述のように2時間23分台のフィニッシュも実現できる。

 大東大の特徴を生かしたトレーニングと、学生駅伝で行ってきた走りをマラソンで発揮する。文字通り学生競技生活の“集大成”の走りを、鈴木は名古屋ウィメンズマラソンでやってみせるつもりだ。

陸上競技ライター

陸上競技専門のフリーライター。陸上競技マガジン編集部に12年4カ月勤務後に独立。専門誌出身の特徴を生かし、陸上競技の“深い”情報を紹介することをライフワークとする。一見、数字の羅列に見えるデータから、その中に潜む人間ドラマを見つけだすことが多い。地道な資料整理など、泥臭い仕事が自身のバックボーンだと言う。座右の銘は「この一球は絶対無二の一球なり」。同じ取材機会は二度とない、と自身を戒めるが、ユーモアを忘れないことが取材の集中力につながるとも考えている。

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