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NHKは「まったくの事実無根」との見解を堅持するも「クロ現+」の今後については回答せず

立岩陽一郎InFact編集長
(写真:西村尚己/アフロ)

クローズアップ現代の終了を決定し後継番組の検討を始めたとの報道に、「まったくの事実無根」との見解を出したNHK。そのNHKに更に質問をしたところ回答を得た。

「見解はすでにお伝えした通りです。

NHKが『クローズアップ現代+』の終了を決定したという事実はございません」

これは4月12日にNHKに出した問いに対する回答で、4月16日にメールと電話で対応があった。

こちらからの質問は以下の4項目だった。

①「まったくの事実無根」という見解は現在も変わらないという理解で良いのでしょうか?

②「まったくの事実無根」とは、「クローズアップ現代」の終了を決定していないだけでなく、その後継番組について検討している事実も無いという理解かと思います。そういう理解で良いのでしょうか?

③「まったくの事実無根」ということは、その見解の対象となっている記事は、捏造であるか、虚偽の情報に基づいて書かれたということになるかと思います。そういう理解ということで良いのでしょうか?

④「クローズアップ現代」は来年4月以降も続くという理解で良いのでしょうか?

その全てを含む回答ということだった。「クローズアップ現代+」が来年4月以降も続くかどうかは確認できなかった。

一連の報道に対しては、NHKの内外から意見が寄せられている。NHKの現場からは、「私は(新番組になることを)マイナスには受け止めていない。更に良い番組にするために知恵を出し合う」という言葉があった。現場のその力を信じたい。NHKを支えているのは経営幹部ではなく、間違いなく現場だからだ。その真摯な姿はもっと知られてよいと感じているし、今後も機会ある毎に紹介したい。

「なぜ武田(真一)キャスターの異動を取り上げないのか?」というものがあったので触れておく。その理由は簡単だ。報じられているような自民党の二階俊博幹事長へのインタビューが理由で降板させられたという事実が確認されていないからだ。番組は1月19日に放送されている。その状況について知るNHKの複数の職員から、武田キャスターに異動が内々に告げられたのはそれより前だったとの証言を得ている。武田キャスターから番組関係者にその事実が伝えられたのは1月8日だったという。だから、その後に行われたインタビューが降板の理由にはなり得ない。

今回の「クローズアップ現代」の一連の報道は、情報源に配慮しつつも出し得る根拠を示して報じたものだ。NHKを批判することが目的ではない。今後もその姿勢は変わらない。

私は今、NHKの公共放送としての役割を考える取材をしている。その中で前田会長のNHK改革についても取材している。それは多くの点でNHKを根本から変えるものとなっている。その中には縦割りの打破など、納得できるものも少なくない。

一方で、前田会長の改革からは、報道とは何か?報道番組の社会的な意味は何か?といった議論は見えてこない。入手した内部資料や職員の証言に出てこないのだ。その疑問は実は少なからぬNHK職員が共有している。「クローズアップ現代+」の今後は、その試金石と言えるもので、今後も注視したい。

私が最後に携わった「クローズアップ現代」は、大阪の印刷会社で発生した胆管癌についての調査報道だった。この報道によって胆管癌が特定の化学物質によって引き起こされたことが明らかになり、既に犠牲になっていた人も含め多くの人に労災が認められた。番組で特定した化学物質はその後、WHO=世界保健機関が発がん性物質として認定し世界に警鐘を鳴らしている。それが調査報道であり、「クローズアップ現代」の力だ。

ところで、この胆管癌のニュースは、最初に「ニュースウオッチ9」で特集として報じられた。その作業中に編集室に来て、「政府が確認していないこんなニュースを流すのか!」と言って放送の中止を求めた報道局幹部がいた。この幹部は近くNHKの理事に就任すると言われている。

政府がどうだろうが、必要なことを報じるのが報道だ。そこが揺らぐ様な改革では意味が無い。

InFact編集長

InFact編集長。アメリカン大学(米ワシントンDC)フェロー。1991年一橋大学卒業。放送大学大学院修士課程修了。NHKでテヘラン特派員、社会部記者、国際放送局デスクに従事し、政府が随意契約を恣意的に使っている実態を暴き随意契約原則禁止のきっかけを作ったほか、大阪の印刷会社で化学物質を原因とした胆管癌被害が発生していることをスクープ。「パナマ文書」取材に中心的に関わった後にNHKを退職。著書に「コロナの時代を生きるためのファクトチェック」、「NHK記者がNHKを取材した」、「ファクトチェック・ニッポン」、「トランプ王国の素顔」など多数。日刊ゲンダイにコラムを連載中。

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