総理会見を「総理慰労会」にした官邸記者クラブの常駐組~それは既に情報統制の共犯者だ

安倍総理の記者会見(官邸会見室)(写真:ロイター/アフロ)

問題は記者の側にある

「終わっている」

そう感じさせる記者会見だった。6月18日に行われた国会閉幕後の総理会見だ。

「終わっている」のは何か?勿論、国会閉幕という意味ではない。機能していないという意味での「終わっている」だ。それは、何を言っているのかわからない安倍総理か?違う。情報を統制しようとする官邸か?それも違う。

記者だ。終わっているのは官邸記者だ。正確には、官邸記者クラブの常駐組ということになる。具体的に言えば、全国紙、通信社、NHK、東京キー局の民放だ。

権力は情報を統制しようとする。それは古今東西を問わない。だから、安倍総理の説明が意味不明でも、官邸が情報を統制しようとしても別に不思議ではない。なぜなら、そこに記者が食らいつき、閉ざされた扉をこじ開けて情報を開示させる機能が働くからだ。それが民主主義国とそれ以外の国との大きな差だ。記者会見とは本来、そうした場である筈だ。

しかしここで、記者が権力の情報統制に加担していたら、その前提は崩れる。そしてまさに、その前提が崩れているのが日本であり、6月18日の総理会見はそれを象徴する出来事だった。

会見前の長い儀式

会見を振り返ってみたい。午後6時に安倍総理が記者会見室に入り、先ずは各社カメラマンによる写真撮影。不思議な光景だ。この明らかに不自然なポーズの写真は、記者会見の写真としては使えない。安倍総理の向こうに記者団さえ入っていないからだ。そして広報官による記者会見の説明。

「1社1問でお願いします」

「質問の有る方は黙って挙手をお願いします」

何度も繰り返されるこの説明は、限られた時間を官邸側が都合よく使っているようにも見える。

そしてこの後もお決まりの安倍総理の演説。これが20分。それも、世界が日本の新型コロナ対策に注目しているといった疑問の多い内容だったが、それについては別の機会に譲りたい。最も大きな問題はその後に行われる記者の質問にあったからだ。

河井議員夫妻の逮捕に触れたのは1度

最初は幹事社質問。今回はフジテレビと産経新聞。先ずフジテレビが幹事社質問にありがちな質問をする。幹事者質問は、時間の制約が有る中で幹事社が各社と質問を調整して最低限質問しておかねばならない点を問うものだ。これが事前に官邸側に伝えられて、答えが用意されていることは既に安倍総理が国会で明らかにしている。

質問は次の様な内容だ。

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河井夫妻が逮捕されたことについて、責任を痛感していると述べられましたが、総理、総裁として具体的にどういった責任を痛感されているのかということと、自民党から振り込まれた1億5000万円の一部が買収資金に使われたことはないということでいいのか、お伺いします。

 そして、東京五輪についてですが、IOCなどが開催方式の簡素化を検討している中で、総理が述べてきた完全な形での実施ということに関して、考え方は変わりはないでしょうか。併せて、総理は治療薬やワクチンの開発も重要だということをおっしゃっていますけれども、これは五輪開催の前提になるのでしょうか。

 最後に、与野党の中に首相がこの秋に内閣改造をした上で衆議院の解散に踏み切るのではないかという観測が一部ありますけれども、現下のコロナ感染状況に照らして、総選挙の実施は可能と考えますでしょうか。

網羅的だが、中身は薄い。これが幹事社質問の典型だ。

河井議員夫妻が公選法違反で逮捕されて数時間後の会見だが、この日、この「河井議員夫妻」に触れた質問はこの幹事社のもののみだった。しかも質問は「1億5000万円の一部が買収資金に使われたことはないということでいいのか」というものだ。これについての答えは、「大変遺憾であります」「襟を正さなければならない」という精神論であり、核心部分は、「言われているような使途に使うことができないことは当然でありますという説明を行われたというふうに承知をしております」という、何も言っていないに等しい説明で終わっている。そして、以後、この問題を問う記者はいない。

産経新聞は憲法改正にかこつけて総理の任期延長についての感触を探ろうとした内容とも言えるが、結果的に総理の憲法改正に向けた「所信表明演説」を聞かされるものとなっていた。

記者会見は所信表明演説の場に

続いて各社の質問に移るわけだが、総じて言えるのは、安倍総理が思いのたけを語る場になっているということだ。要は、所信表明演説だ。

例えば、NHKは、拉致問題についての対応を質問している。その安倍総理の答えは、「まだ皆さんの願いを実現できない。断腸の思いであります。あらゆる手段を尽くしてチャンスを捉え、果断に行動していきたいと思っております」と、これまた「所信表明演説」となっている。

拉致問題の解決は「政権の最重要課題」と言い続けてきたわけだが、具体的に動きが見えているのはトランプ大統領などへの協力要請のみだ。北朝鮮に働きかけるどころか、国連で各国に北朝鮮と対話を行わないようにさえ求めている。そうした政策に問題は無かったのか?それを問う質問は当然の様に無い。

日本テレビのポスト安倍についての質問にいたっては、総理に対するお追従以外のなにものでもない。無視できないのは、安倍総理の回答がエールの交換となっていることだ。安倍総理は答えの中にわざわざ質問した記者の名前を入れている。これは、「あなたは私にとって特別な記者です」というメッセージであり、更にテレビ中継を通じて見ている記者の上司に対し、「私はこの記者を大事にしています」というメッセージでもある。こうやって第二、第三のNHK岩田明子記者は作られていく。

勿論、会見らしいやり取りもあった。日経記者の質問と、予定外で最後に質問した軍事専門誌ジェーンズの高橋浩祐氏の質問は、確認すべき点を質していた。ただ、それらは全体の中から見れば例外でしかなかった。

情報統制を強める官邸

新型コロナウイルスへの対策で定期的に行われるようになった安倍総理の記者会見については、その最初となった2月29日の会見以後、新聞労連の南彰委員長らと議論を重ねてきた。そして新聞労連主催のオンラインシンポジウムなどで引き続き議論を続けている。

朝日新聞の政治部記者として官邸を取材した経験を持つ南委員長は、総理会見を「儀式」と呼んで批判した。そしてまともな記者会見の開催を求めた。私も総理会見を「演説会」と呼んで批判してきた。しかし6月18日の会見にいたっては、そういうレベルでもなかった。これは単なる「総理の慰労会」でしかなかったからだ。

この記者会見は官邸記者クラブが主催している。その運営に大きな発言力を持つのは前述の常駐組だ。繰り返しになるが、権力は情報を統制しようとする。それに抗って、事実を国民に知らせるのがメディアの役割だが、官邸記者クラブ常駐組は記者会見を「官邸記者クラブ主催の総理慰労会」にすることで、その役割を放棄している。それは、情報統制の「共犯者」と言うほかにない。

この日の総理会見については各社1記者のみの参加となっていた。これは既に菅官房長の会見で実施されている制限だ。それは緊急事態宣言を受けて3密回避のためとされたが、宣言が解除された後も踏襲されているのみならず、総理会見にも適用されたということだ。

これについては、官邸記者クラブの非常駐組、つまり常駐社以外の社から異論が出た。当然の話だ。しかし、常駐組と官邸との話し合いの結果、官邸側の主張が通ったと言う。もはや、その話し合いの中身を確認する気にもなれない。主犯と共犯が話し合って、世の中にとって悪いことは止めようといった議論になるわけがない。