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新型コロナ 日本でも医療従事者へのエールを送りませんか! 夜9時に拍手で

立岩陽一郎InFact編集長
世界中で医療従事者へ謝意を示す動きが広がっている(写真:ロイター/アフロ)

新型コロナウイルスで厳しい状況になっている医療従事者に謝意を表する行動が世界で広がっているが、日本でも一人の男性が仲間に呼びかけてその動きが始まった。

4月12日のNHK日曜討論に出演した日本医師会会長の横倉義武会長は、「感染者が急増しており明らかにフェーズが変ってきた。国内で爆発的な感染の危険が高い」との認識を示した。司会の伊藤雅之解説副委員長の「今一番必要なのは何か?」との問いに、「検体をとる時に医療従事者が感染することが懸念される。それを避けるためのフェイスガード、感染予防具が足りない。防護服が足りない」とその窮状を訴えた。横倉会長は、医療崩壊は起きていないとしつつも、医療従事者が極めて厳しい状況にあることを語った。

そして最後に、「福岡市役所で医療従事者に謝意を示す拍手を皆さんがしてくださった。そういう形でみなさんが医療従事者を励まして頂ければ」と話した。

横倉会長の語った励ましとは、欧米で住民が夜にアパートのベランダなどに出て、医療従事者に拍手を送るもので大きなムーブメントとなっている。

実は、それを日本でも実行しようという呼びかけが始まっている。呼びかけた一人は東京都内に住む谷口和繁氏(65)。谷口氏は、財務省を退職後、アメリカの首都ワシントンにある世界銀行や米州開発銀行で6年半年勤務した後、先月帰国した。

谷口氏は、アメリカに比べて緊張感に欠ける日本の状況に驚いたと言う。

「ちょっと驚きでした。ただ、当初はアメリカも、他人事という感じでした。それが変ったのは、クルーズ船の乗客がアメリカに帰国した後くらいかと思います」

その後のアメリカの動きは早かったという。

「私は退職して帰国したのですが、退職後の食事会も開くかどうか議論になりました。結局開くことにはなったのですが、そうしたパーティーの恒例である握手やハグは無しということが徹底されました」

その時、皆が共有していたのは、「自分たちが感染しないということと同時に、相手に感染させない」ということだったという。

そうした意識が日本人の中に希薄なことにも谷口氏は驚かされたという。ただ、更に驚かされたことがあった。それは、病院で働いている医療従事者やその家族が差別にあっているというニュースを目にしたことだった。

ちょっと信じられませんでした。我々はある意味、ウイルスから逃げていれば良いわけですが、医療従事者はウイルスから逃げるどころか、それに立ち向かって闘っているわけです。その人たちを悲しませる出来事が起きている

これはなんとかしないといけない」と思ったという。

では何ができるのか?

「我々が本当の意味で医療従事者を応援できるのは、人にうつさないというということですから、外出しないということかと思います。でも、謝意を表すことはできるわけです」

4月10日にFacebook仲間を通じて呼びかけたところ、次々に賛同者が出てきたという。

「海外では夜の7時とか8時にやっているという話でしたが、病院の消灯時間が夜の9時ということで、消灯の直後にやろうとなりました」。

そして翌11日、谷口氏は夫人と長男の3人でベランダに出た。そして「ありがとう」と叫んで拍手をした

「節分の時の、『鬼は外』的な感じですが、こうした動きがどこかで病院の関係者に聞こえてくれればと思っています」

谷口氏は言った。

今、医療従事者は新型コロナと戦っているんです。是非、そういう人たちを支援する社会になって欲しい。そうすれば、我々は自ずと自分の行動にも責任を持つようになるでしょう

谷口氏は、夜9時にそれぞれの場でそれぞれの言葉で謝意を示して欲しいと話している。谷口氏の取り組みについて、長く看護師として勤務した経験を持つコラムニストの宮子あずさ氏は次の様に話した。

とても有難いことです。医療関係者は、称賛されることに慣れてないので、私としても気恥ずかしい気はします。でも、実際に医療関係者が差別されている現状が有ります。社会の中で医療関係者に敬意が払われることになれば、結果的に差別も無くなるのではと期待したいです

宮子氏は更に次のように話した。

医療費の削減によって急性期病床が減り、今回の事態への対応はより困難になっています。そうした点についても理解して頂ければ医療関係者として有難いです

InFact編集長

InFact編集長。アメリカン大学(米ワシントンDC)フェロー。1991年一橋大学卒業。放送大学大学院修士課程修了。NHKでテヘラン特派員、社会部記者、国際放送局デスクに従事し、政府が随意契約を恣意的に使っている実態を暴き随意契約原則禁止のきっかけを作ったほか、大阪の印刷会社で化学物質を原因とした胆管癌被害が発生していることをスクープ。「パナマ文書」取材に中心的に関わった後にNHKを退職。著書に「コロナの時代を生きるためのファクトチェック」、「NHK記者がNHKを取材した」、「ファクトチェック・ニッポン」、「トランプ王国の素顔」など多数。日刊ゲンダイにコラムを連載中。

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